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第6話 そして僕らは高校生になった


 そんな僕はこの春、ひまりちゃんとともに高校生になった。


 死に物狂いで受験勉強をして、なんとかひまりちゃんの志望校と同じ、学区で一番の公立高校に入学することができたことだけは、自分で自分を褒めてあげたい。


 ひまりちゃんに、

『高校もアキトくんと一緒がいいな』

 なんて言われてしまったら、頑張らないではいられなかったのだ。


 ただその頃にはもう、僕はひまりちゃんに対しての劣等感を、自覚せざるを得なかった。


 キラキラと太陽のように輝くひまりちゃんと、何の取り柄もない平凡な僕。

 運動神経抜群で、勉強も得意なひまりちゃんと、運動も勉強も可もなく不可もなくな僕。


 その格差は火を見るよりも明らかで、とても見ない振りはできなかった。



 そして迎えた高校の入学式の日。


「アキトくん、どうどう? 制服似合ってる?」


 入学式に向かう途中、通学路の交差点で信号待ちをしていると、ひまりちゃんがファッションショーでもしているみたいにくるりと回った。


 落ち着いた茶色のブレザーの下に、明るめの青のベスト。

 胸元には可愛らしい赤リボン。

 チェックのスカートが遠心力でひらひらと舞う。


 結構短めのスカートなので、真っ白な太ももがグッと目に印象付けられる。

 僕はつい見とれそうになってしまい、慌てて視線を上げた。


「制服が届いてから、もう何度も同じ質問をされているんだけどな」


 それこそ春休みの間は毎日のようにファッションショーを見せられて、もはや見慣れているまであった。

 なんなら今日の朝、玄関を出たところでも同じやり取りをしたばかりだ。

 まぁ可愛いから何度されてもいいんだけども。


「だって、嬉しいんだもーん」

「そんなに気に入ったんだな。ま、実際すごく似合っているけどさ」


 あまりに似合い過ぎていて、もはやこの制服はひまりちゃんのために作られたのではと、思ってしまうほどだ。


 おっと、兄バカとか言うなよな?

 これは純然たる事実だからな。

 それを否定する奴は、誰であっても許さん!

 僕が出てって成敗してやる!


「そうじゃなくて、アキトくんに見てもらえるのが嬉しいんだもーん」

「あはは、サンキュー」


 ひまりちゃんの言葉から、態度から、表情から。

 僕への強い好意を感じるのは、きっと勘違いじゃない。

 だけど僕はそれに気付かない振りをした。


 なぜなら、ひまりちゃんは僕にずっと恩義を感じているから。

 ひまりちゃんの好意の源泉は、昔の僕への恩義だから。


 恩義は次第に好意に形を変えていき、だからひまりちゃんはずっと僕だけを見てくれる。

 好意を寄せてくれる。


 だけどそれは裏を返せば、ひまりちゃんの世界を狭めてしまっていることに他ならなかった。

 僕ばかりを見てしまうせいで、もっと素敵な世界があることにひまりちゃんは気付けていないのだ。


 恩を返したいって気持ちも、好意を寄せられることもすごく嬉しい。

 だけど僕はひまりちゃんの足かせにだけはなりたくなかったのだ。


 僕という足かせさえなければ、ひまりちゃんには凡人の僕なんかじゃ比べ物にならない、もっと素敵な男子とだっていくらでも付き合えるんだから。


「どうしたのアキトくん? 考え事? あ、もしかして私に見とれちゃってたとか? もう、アキトくんってば~♪」


 ひまりちゃんが僕の顔をすぐ近くから、下から覗き込むように見つめてくる。

 おっとと、つい余計なことを考えてしまっていたみたいだ。


「いや、そろそろ信号が青になるなって思ってた」

「ひっどーい、なにそれ~!」


 ひまりちゃんが食べ物で口の中をいっぱいにしたハムスターのように、ほっぺをプクーと膨らませながら、僕の胸をポカポカと叩いてくる。


 もちろんじゃれているだけなので、ちっとも痛くはない。

 心優しきひまりちゃんは、暴力を振るったりなんてしないのだ。


「ほら、信号が青になったぞ。行こうか」

「もぅ、アキトくんってば、いつもそんなだし。でも、はーい」


 私は不満ですよアピールをすぐにやめ、笑顔になってトコトコと歩き出すひまりちゃん。

 可愛いことよりもなによりも、こういう素直なところがひまりちゃんの一番の魅力だと、僕は個人的に思っていた。


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