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第5話 僕の大切な義妹(ひまり)ちゃん

 ひまりちゃんはシュートとドリブルの練習を少ししただけで、バスケの授業は大活躍するし、塾にも行っていないの成績は学年トップ。

 英語の発音なんてあまりに流暢で、ネイティブのALT(外国語指導助手)の先生が驚くほどだった。


 そしてそれとは対照的に。

 その頃には僕はもう、すっかり普通の人になっていた。


 成績はまぁまぁ可もなく不可もなく。

 英語の発音はたどたどしいジャパーニズ・イングリッシュ。

 LとRの違いはまったく分からない。


 スポーツはまぁまぁ微妙にダメ。

 特に球技全般が苦手な感じ。


 バスケのシュートとか、どうやったら入るのかさっぱり分からなくて、ひまりちゃんにコツを聞いてみたら、

「左手は添えるだけ」

 って言われて実演しながらすごく丁寧に教えてもらったけど、結局よく分からなかった。


 自分なりに努力はしているつもりだったのだが、どうも要領があまり良くないらしく、僕は勉強も運動もなかなか結果に結びつかないでいた。


 何でもできて美人で女の子らしいひまりちゃんと、ただの凡人の自分。

 ひまりちゃんに気後れしている自分に、当時の僕は必死で気付かない振りをしていた。


 そしてこの頃、僕とひまりちゃんの関係を大きく変える出来事があった。

 僕の父さんと、ひまりちゃんのお母さんが再婚したのだ。


 2人がそういう関係になっていたことに――ひまりちゃんは薄々気付いていたみたいだけど――僕はぜんぜん気付いていなかった。

 だから初めて聞かされた時は本当にビックリした。


「最近ひまりちゃんのお母さんが、よくうちに来るようになったな」

 とか、

「ひまりちゃんに似て綺麗な人だな」

 とか、

「4人で遊園地に行って楽しかったな」

 とか、

「父さんがオシャレしてるのなんて初めて見た」

 くらいにしか思っていなかった。


 これで気付けないとか、アホすぎるとしか言いようがない。

 神に選ばれし人間どころか、この時点で既に凡人以下でしかない僕だった。


 ともあれ、その日から僕とひまりちゃんは「同級生」から「同い年の兄妹」になった。

(ちなみに僕の方が誕生日が早かったので、僕が兄ということになった)


 神谷ひまりから、神崎ひまりに。


 たった1文字変わっただけだったけど、ひまりちゃんが僕と同じ名字になったことに、すごく不思議な感じがしたのを、今でも覚えている。


「アキトくん、これからは毎日一緒にいられるね。よろしくね、えっと……アキトお兄ちゃん♪」

「お、お兄ちゃん? よ、よせやい」


 顔がカァっと赤くなるのが分かる。


「あ、アキトお兄ちゃんってば照れてるし」

「あのな、同い年なんだからお兄ちゃんは禁止だ」


「ええ~?」

「ええ~、じゃありません」


「だって誕生日はアキトお兄ちゃんの方が早いでしょ? アキトお兄ちゃんは9月で、私は12月だよね?」


「ねぇひまりちゃん。父さんたちは結婚したけど、僕たちは今まで通りで行こうよ? 変に意識せずに、今まで通り仲良くさ」


「はーい」


 ひまりちゃんは聞きわけが良い子だったので、僕がそう言うとちゃんと納得してくれた。

 そして何にもできない僕が、なんでもできるひまりちゃんからお兄ちゃんと呼ばれないで済んだことにホッと安堵したことに、僕はやっぱり気付かない振りをした。

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