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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第七章

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2025年5月19日(月)装備品

 お茶が終わると、全員でダンジョンへ向かう。人の多い1、2層は避け、3層の奥まった場所でスキルの検証をすることにした。



「んじゃまず、擬態を解かずに桐ヶ谷さんの姿から吉野さんに変わるとどうなるか、検証してみよう」


 みんなが見守る中、俺は意識を集中して図鑑スキルを呼び出し、吉野さんの顔アイコンのついたタブを選んだ。



 深く息をすると、周囲に漂う魔力を吸い込むように、体がゆらりと光り始める。

 目を閉じ、魔力の流れに身を任せる。体の中心から、ズズッと何かが引き抜かれる感じがした。



 桐ヶ谷さんと吉野さんでは身長差がだいぶあるが、一瞬で体が小さくなり、髪の色が変わる。

 軽く頭を振ると、ストレートの長髪が、ゆるくふわっとパーマを掛けた短めの髪に。

 装備していた胸当てと弓矢は消え、魔法の杖に変わった。



「はあ──。どうだ……吉野さんに変わったか?」

 俺は喘ぐように息を吐き、ゆっくり目を開けて真司を見る。


 さっきまで真司とほとんど同じ目線で話していたが、今はやや見上げる高さだ。


「面白いな。粘土みたいに一瞬だけグニャっとなったら、あっという間に吉野さんになった」

 真司が驚いたように目を開く。


「凄い……。1秒くらいで変わりましたね。スキルのことを知らなければ、目の錯覚かと思いますよ」

 奥田くんも頷く。


「今度はハダカにならずに済んでよかった……っていうか、魔法の杖が2本になっちゃったけど、これはいいの?」

 胸を撫で下ろしつつ、吉野さんが戸惑ったように自分が持っている杖を見せる。


「──っ!! マジか!?」

 慌てて自分が持っている杖を確認する。


 吉野(本物)さんが持っている杖と、まったく同じだ。



「ゼルダでこんな感じのバグがありましたね。武器を無限に増殖させるやつ」

「……現実の世界で見ると、トンデモないチートだな」



 奥田くんと一緒に作った杖は、当然一点モノだ。俺がサーベリオンに殺される前に吉野さんに預けていたので、そのまま吉野さんの装備品になっている。



「最初に吉野さんに擬態したときの装備で現れそうなもんだけど……、でも、それだと手ぶらか。だったら魔法のスティックは? そっちのほうが使用時間は長いよな。なんで”ガンちゃん”を持って現れるんだ?」

「そうですね。実に興味深い現象です。武器が使用者に合わせて変化する。しかも、ただ変化するわけじゃない。“ガンちゃん”──ガンダルフ風の杖でしたっけ? より高性能なほうに変わるということは、山村さんのスキルは、対象をただコピーするのではなく、進化させることも出来るということですね」

 奥田くんが目を輝かせる。


「擬態は、山村さんの深層心理にある“イデア”に同調して――山村さん自身が無意識に『この人はこうあるべきだ』と判断した理想形を反映しているんじゃないでしょうか」

 熱っぽく奥田くんが喋り続ける。


「うーん、だったら弓はどうなんだ? 子どもが工作で作ったようなベアボウだ。性能でいえば、桐ヶ谷さんが持ってた弓みたいに、スコープとかが付いてたほうが使いやすいんじゃないのか?」

 俺は、桐ヶ谷さんに擬態したときのことを思い返す。


「それは、山村さんが“本物のアーチャーはベアボウで戦うべき”だと、心の奥で考えているからです。理想を上回るのは──」

「ロマンだろ。あえて不利な武器で戦う自分カッコイイー……みたいな」

 真司が口を挟む。


「それですね。ゲームの実況でも、高性能な武器より、ナイフ一本で窮地を切り抜ける動画のほうが人気が出たりするじゃないですか」

「ロマン武器か……。じゃあ、今後桐ヶ谷さんに擬態すると、必ずベアボウを装備して現れるってことか……」

「そういうことです」

「でも、そうすると、武器の管理はどうするの? 事務所のロッカーに入れっぱなしってわけにはいかないでしょ?」

「そこだよな。売れば国家予算並の値段がつくものが、無限にできちまうんだから」



 ガンちゃんを装備した吉野さんの姿は、既に多くの探索者が目にしているはずだ。

 魔法のステッキを使ってるとき、装備品を売ってる店に吉野さんそっくりのポスターが貼られていたくらいだ。当然新しい武器の出どころも探られるに違いない。

 出来たばかりの事務所が怪しいとなれば、大騒ぎになるのは目に見えている。



「攻撃力で吉野さんが負けることはないだろうが、防御が弱いんだよな……」

「おそらく、探索着を脱いだ状態で入れ替わったら、新しくダンジョン産の探索着を着た状態で現れるはずです。そっちも量産出来ると思いますよ」

「それいいねー。アタシも欲しい」

 吉野さんがうんうんと頷く。


「確かに。奥田くんと吉野さんは、初心者用の探索着のままだからな。ダンジョン産の探索着が用意できれば、パーティー全体の安全性がグッと上がる」

 俺も頷く。


「奥田くんは、桐ヶ谷さんと同じくらいの身長だから融通が利きそうだが、オレはどうするんだ? サイズが違いすぎるし、今さら初心者装備を着るのはちょっと……」

 真司は、自分が着ているコートをひらひらさせる。


「真司だけマトリックスみたいな格好だからなぁ……。でも、それなりの性能はあるんだろ? しばらくは現状維持で、同じくらい背が高い男に擬態する機会があれば……ってところか?」

「オレがオマエを撃ち殺せば解決するぞ。……オレが二人になるのは、シュールな気もするが」

「物騒なことを言うな。衣装のためだけに俺を殺す気か? それにライフルの弾くらいじゃ死なないと思うぞ」

「サーベリオンにはズタズタにされて殺されただろ? アイツと同じくらい威力のある武器っていうと……ロケットランチャーとか? 持ち運ぶのが骨だな」

「自衛隊には、魔石で威力を増幅した手榴弾があるらしいですよ。小型ロケット並みの破壊力だそうです」

「もう殺す前提なの? っていうか、そんなの手に入らないだろ。どっちみち、苦しい思いをしながら死ぬのはゴメンだからな」

「だよな……」

 真司が少しばかりガッカリしたように頷く。


「まあ、真司の衣装は、また違う方法を考えるよ。とりあえず、フリーサイズのポンチョでも作ればいいんじゃないか?」

「それだったら、どの衣装でも合いそうだな」

「あ……衣装といえば、俺……っていうか、桐ヶ谷さんにもっと派手で、セクシーな格好をさせたいんだよ。どうせケガをしても治るんだし。ガッツリ全身を覆う必要はないだろ?」

「おい、桐ヶ谷さんにイヤらしい格好をさせるなよ。……いや、でも中身は荘太郎なんだし、いいのか?」

「そうだ。本人にはお願いできなくても、俺ならできるぞ」


 俺と真司の目が合う。


「真司。素直に言っちゃえよ。本物の桐ヶ谷さんにはナイショにしておくからさ。俺とオマエの仲だろ?」

 真司の肩をポンっと叩く。


「くっ。じゃあ……ビ、ビキニアーマーはどうだ? ──いや、やっぱり忘れてくれ」

 真司は顔を伏せる。


「まあまあ。ビキニアーマーか……。防御力は紙だが、俺には何の問題もない。だが、さすがにファンタジー過ぎないか? 現実の店では売ってないだろ」

「いえ、コスプレ用でしたら売ってますよ」

 奥田くんが口を挟む。


「「え、あるのっ!?」」

 俺と真司の声が被る。


「はい。ネットで探せばコスプレ専門のお店って、結構あるんですよ」

 奥田くんはそう言うと、実際に売ってる通販サイトを見せてくれた。


「ビキニアーマーが……本当にある」

「桐ヶ谷さんが……ビキニアーマーを……」


 奥田くんの言葉に、俺と真司の夢が膨らんだが──


「ちょっと。そういう発言って、セクハラでしょ? っていうか、そんな格好でダンジョンに入ったら、悪目立ちするんじゃない?」

 吉野さんの冷静なツッコミが入る。



「「デスヨネー」」



 儚い夢だった。

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