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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第七章

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2025年5月19日(月)変えてみる

一昨日アップした「2025年5月19日(月)弓っていいよね」の弓の性能について追記しました。話の筋には変更がないけど、一応見ておいてもらうと雰囲気が違うかも。


スミマセン、カーテンのあたりの文章を修正したつもりが反映していなかったので、更新しました。

 ダンジョンから出ると、ちょうど昼だった。

 事務所の前を通ったが、真司はいないようだ。


 そば屋で天そばを食べて、スマホを買いに行く。

 通話さえ出来ればいいので、5千円前後の中古品を10台まとめて買った。取り寄せればいくらでも手に入るそうなので、追加で20台分を予約する。

 SIMカードもまとめて購入し、事務所に戻って順番に開通手続きをしていった。



 ひと息ついたところで時計を見ると、まだ午後3時だった。



「どうしようか。吉野さんたちが来るまで時間が余ったな……」

『だったら、前に部屋の模様替えをしようって話をしたじゃないですか。ネットで家具を探しませんか?』

 俺がぼそっと呟くと、桐ヶ谷さんが提案してきた。


「あー、そういえばカーテンを変えようって言ったっけ。あれこれ寸法まで計って、スマホにメモしてあったな」

『はい。使わない家具は思い切って処分しましょう。気分が変わりますよ』



 桐ヶ谷さんにアドバイスをもらいながら、家具を選んでいく。デザインや材質はもちろん、寸法と、部屋の雰囲気に合うかどうかも一つひとつ確認する。


「以前なら、パパッと適当な家具を選んでたんですけど、こうやってじっくり家具を見ると、良さそうに見えても自分の家には合わないとか、いろいろ欠点が見えてくるもんですね」

『だからこそ、自分で納得して選んだものに囲まれて暮らすのが大事なんです。長く使うものですし──。結婚相手だって、“まあいいか”で決めたりはしないでしょう?』

「それはそう」



 俺は、ちょっと使い勝手が悪いなと思っていたリビングのサイドボードを注文した。

 他にも目についた家具はあるが、急いで決めることもないだろう。


 だが、カーテンだけは、早急に変えなくては。

 今、リビングに掛かっているのは、母親が送ってきた、昔流行ったらしい謎の柄物カーテンだ。

 最初に取り付けたときは”ダサいな”と思ったのに、毎日見ているうちに、”まあいいか”と目が慣れてしまった。気づけば、変えようとすら思わなくなっていた。


 吉野さんが初めてあのカーテンを見たとき、「なにこのクソダサカーテン」と罵倒していたが、今の自分ならその意見に同意する。



 俺は、カーテン専門のサイトを納得いくまで見て、落ち着いた色合いで雰囲気のあるカーテンを選んだ。

 これなら、毎日見ても違和感がないし、何より部屋が明るくなる。



 そういえば、ふみかも”あの”カーテンが嫌いだったな。



「あ……」



 俺は、両親にふみかと別居したことを言ってなかったことを思い出した。

 ふみかは俺の母親からの面倒なやり取りを引き受けてくれていたが、さすがに今の状況を放置するのはマズい。



「俺から母さんに連絡するべきなんだよな……。だが、どう説明しよう」

『細かい事情はわかりませんけど……、別居しているのに、しょっちゅう姑から連絡が入るって、奥さんからしたら凄く嫌ですね』

「はい、その通りです」



 おそらくふみかは、”なんでアタシがアンタの防波堤にならなきゃなんないの”と思っているだろう。

 早急に対処しなくては。



『今の姿だと、会って説明することも出来ないですし、シンプルに“別居した”とだけ伝えればいいんじゃないですか?』

「それしかないですよね」


 俺はしばらくスマホを見つめていたが、母親に


【ふみかと別居したから、何か連絡があるなら俺のほうに寄越してくれ】


 ──とだけ打って送信した。



 数分も経たないうちに、スマホが鳴り出した。

 画面を見ると、母親からの着信だ。



「やっぱ、そうなるよな……」

 俺はため息をついた。


『親からすれば、詳しく話を聞きたいでしょうね。でも、山村さんが話したくないなら”少し時間が欲しいから、しばらく放っておいてくれ”──みたいな感じで返信すればいいんじゃないですか?』

「その文章、そのままいただきます」


 俺は着信を切って、桐ヶ谷さんが言った通りの文章を母親に送った。


 しばらく様子を見ていたが、それ以上スマホは鳴らなかった。



 やれやれ。



「そうなると、ふみかにも一言送っておくべきかな?」

 スマホを前に考え込んだ。


 カーテンと同じように、俺は先送りにした問題をそのまま放置してしまうことが多い。

 そして、問題を更に悪化させる。


 面倒だから、という理由もあるけれど、細かいことを気にするくせにそう見られるのが嫌で、あえて気にしない自分を演出してしまうのかもしれない。

 ドーンと構えているほうが、男らしくてカッコいいと思っているというか。


 結局、くだらない”男らしさ”にこだわって、ふみかに迷惑を掛けていたんだよな……。



『……山村さんって、ちょっと言葉が足りないところがある気がします。もしかして、“男は余計なことは言わないほうがいい”って考えてたりしません?』

「え? まあ……そう言われると……。父親がなんにもしゃべらないタイプで、母親が一方的にまくし立てて……。子どもの頃は、そういう偏った関係性はイヤだと思っていたはずなのに、結局自分も同じことをしてるんですよね」

『そうなんですね……。でも、山村さんはもう子どもじゃないし、自分で選べますよね。どう生きていくのか』

「どう生きるか……ですか」

『“沈黙は金”って言葉もありますけど、大事なことまで黙ってしまったら伝わらないです。山村さんがふみかさんを大切に思っているなら、言葉にしたほうがいいと思いますよ』



 穏やかな言葉遣いだが、自分が心の奥でずっと思っていたことをズバっと指摘され、返す言葉が見つからない。



『“親しき中にも礼儀あり”って言うじゃないですか。夫婦だって元は他人。感謝や気遣いを口にするのは、当たり前だと思いませんか?』

「確かに、言葉にはしてなかったです。面倒なことはふみかに押し付けて。……甘えですよね、そんなの」



 自分の不甲斐なさにため息をつく。



 ふみかに伝えたいことは色々思いつくが、それを簡潔な言葉にまとめるのは難しい。

 いつもなら途中で投げ出すところだが、俺は何度も書いては消しを繰り返し、結局


【母さんに別居のことは伝えたよ。今まで面倒を掛けて済まなかった】


 ──とだけ打って送信した。



 軟弱者め。



 だが、ほんの少しだけ前に進めた気がした。

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