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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第七章

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2025年5月19日(月)弓っていいよね

 次に、桐ヶ谷さんの手ほどきで弓の扱いも学んでいく。

 道具の持ち方から基本のフォームまで、一つひとつ確認する。



 そして……俺は弓を使った攻撃にめちゃくちゃハマった。

 いや、これイイでしょっ!


 魔法は派手だしカッコいいんだけど、魔法という得体の知れない力で敵を倒すぶん、自分の手でやった感覚が薄い。


 だが、弓は違う。弦のしなりを両腕で感じ、矢が空を切る音を耳で聞き、自分の意思で敵を射抜く。

 弦をリリースして、手ひらに感じる振動が俺の狩猟本能に火を点ける。


 まるで、プロのスナイパーになったような気分だ。

 ……桐ヶ谷さんという補助輪付きだけどな。



 遠くの敵に一発でヘッドショットを決めた瞬間、俺は思わず右腕を突き出した。


「これだよ、この感じっ!」


 湧き上がる爽快感。

 ネトゲで粘着PKしてくる相手の裏をかいて、後ろから頭を打ち抜いたときの感覚を思い出す。



 桐ヶ谷さんによると、擬態で出来たダンジョン弓は標準サイズより小ぶりだが、丈夫でよくしなり、しかも射程がとんでもなく長いらしい。

 さらに矢には不壊効果があった。ダンジョン産の矢なんだから、それぐらいの性能はあると思っていたが、スキルで爆裂効果を付けても壊れることなく、戦闘後にはちゃんと回収出来た。

 ちなみに、魔法を使った経験があったためか、桐ヶ谷さんのスキルである特殊効果付与は、すぐに使えるようになった。



『これは他のアーチャーに見せられないですね。普通なら、矢の再利用が出来なくて探索終了ですから』

「6本しかないとはいえ、相当チートアイテムですよね」

『ですね』



 すばしっこくて魔法では倒しづらかったヴィクシーも、桐ヶ谷さんの体なら簡単に倒せる。

 とっさの反射神経、獲物を目で追う能力が、元の俺と違いすぎる。

 これも、桐ヶ谷さんが探索者として3年半活動していた成果なんだろう。



  自分でもバック転が出来るようになったので、動画で見た動きを”再現”してみる。


 壁に向かって全力で駆け、蹴り上げた瞬間に矢を放つ。重力から解き放たれた瞬間、逆さのまま弓を引き絞り、着地と同時に2射目を放つ。壁に突き刺さった1射目の鏃に、狙いすました2射目が当たって火花が散る。

 弾け飛んだ2本の矢は宙を舞い、カランと乾いた音を響かせて地面に転がった。


 一連の動きを、繰り返し練習する。徐々に矢をつがえるスピードが増していき、壁を蹴って弓を射つ、逆さ射ち、着地射ち──流れるように3連射が決まる。


 更に、弓を2本づつ持って同じ動きをすれば6連射の完成。

 敵が何人いようと、まったく問題ない。



『これは……凄まじい能力ですね。ベテラン探索者の動きが、そっくりコピー出来てるじゃないですか』

「ついこの前まで腰痛でうめいていた自分からすれば、宙返りだけでも信じられないですよ」



 一度に手に持つ矢を増やしながら、道中の異生物を倒していく。

 最大で4本の矢を、同時に放てるようになった。



 ***



 5層の奥へ進むと、数組の探索者パーティーが戸惑うように固まっているのが見えた。


 その先には、チンピラ風の男がふたり、腕を組みながら道のド真ん中に立って行く手を塞いでいる。



(なんの集まりだ?)

『魔法使いがいないパーティーが、代理で特殊個体のサーベリオンを倒してもらっているのかもしれません。というか、そういう名目のカツアゲですね』

(人の不安につけ込んだ詐欺みたいなものか)



 俺が横を抜けて通り過ぎようとすると、チンピラが前に出て立ちふさがった。


「おっと、タダでここを通られちゃ困るな。ちょうど“特殊な”サーベリオンを倒したところなんでね」

「そうそう。代わりに倒してやるからさ。美人は安くしておくよ。──それとも体で払ってくれるかい?」


 男たちの視線は、無遠慮に桐ヶ谷さんの体を値踏みする。



(何が特殊だよ。ウソばっかり言いやがって。普通のサーベリオンしか出ないだろうが)

『あの人たちからすれば、何かお金を巻き上げる口実があればいいんですよ』

(たちの悪いヤツラだな)



「……こんなところで通行料をせびるつもりですか?」

 俺は、舐められないように声を低くして応じる。


「お嬢さん、アーチャーだろ? 魔法が使えないなら、ここから先に行くのはよしておきな。俺は親切心で言ってるんだぜ」

「”物理耐性のある”サーベリオンのことを言ってるなら、問題ありません」

 俺は脇へ身をかわし、男の横を通り抜けようとした。


 だが、男が一歩踏み出して俺の前に足を出す。

 金属の補強が入った靴が壁を蹴り、パラっと小石の落ちる音がした。



「……だったら、一度腕前を見せてもらおうか」

 ドスの利いた男の声に、周囲で見ていた探索者たちにも緊張が走る。



 どうやら、サーベリオンを倒さない限り、通してはもらえそうにない。

 仕方なく、俺はリスポーンを待つことにした。



 15分ほどすると、サーベリオンがリスポーンした。



『爆裂を付与すると、矢が壊れないのがバレてしまいます。急所を狙ってください』

(もちろんそのつもりです)



 ここに現れたのは、特別でも何でもない、ただのサーベリオンだ。頭か、魔石のある胸の真ん中を射抜けば倒せる。少し距離があるが、この弓ならば何の問題もない。


 俺は弦を引き絞り、狙いを定める。

 つがえた矢は薄っすらと魔力を帯び、ジリジリと空気を焦がすように音を立てる。


 その刹那──放たれた矢は閃光となって駆け抜け、サーベリオンの頭を貫いた。

 巨体は咆哮をあげる間もなく、灰となって崩れ落ちる。



(あ、やべ。なんか思ったより勢いよく飛んだな)

『弓の性能が桁違いですから。少し魔力を流しただけで、パワーショットになるみたいです。矢はあとでこっそり回収しましょう』



 俺は悠然と歩きながら、灰の中から魔石を拾い上げた。息を吹きかけて灰を落とすと、何事もなかったかのように手のひらに収めた。



「通っても?」

 言葉を失って固まっている相手に尋ねると、顔を歪ませ、無言で後ろへ下がった。




 男たちと十分に距離を取ってから、俺は口を開いた。



「……桐ヶ谷さん、やけに落ち着いてますね」

『3年半探索者をやってますから。ああいうトラブルは、時々あるんですよ』



 マジか。



「……もしかして、対人戦も経験済みですか?」

『それなりには』



 ワオ。……そういえば、図鑑で見た彼女の性格は“火薬庫”だ。

 一度火がついたら止められないってこと?


 それとも……、あれだ、あれ。バーサーカーモードとか。全員殺すまで止まらないやつ。

 そのくらいでないと、普通の女性探索者が、ダンジョンで3年半も活動出来ないよね、たぶん。



 ……なんか、桐ヶ谷さんの体で対人戦をやるのが怖いな。




 サーベリオンを倒した矢を回収したあとは、何事もなく10層の入口まで進んだ。


 射程距離が長いので、複数の異生物が現れても、十分な安全マージンを取って倒していける。

 9層の魔水を採取して、地上に戻ることにした。



『こんなところで魔水が取れるんですね。もうこの辺りの階層には残ってないと思ってました』

 桐ヶ谷さんが驚く。


「ちょっと特殊なスキルを持っている人に教えてもらったんですよ」

『へえ、魔水を見つけられるスキルなんて凄いですね』

「ですよねー」



 そういえば、この場所を見つけてくれた金子さんはどうしているだろう。吉野さんに気がある感じだったから、焚き付けてやったのに。

 金子さんから何か連絡があったか、吉野さんに聞いてみるべきかもしれない。


 もし金子さんがパーティーに参加してくれたら、すぐにでも10層より先で活動出来る。こちらのスキルをある程度明かす必要はあるが、それは相手も同じだし、悪くないんじゃないか?


 まあ、有田さんが有能な秘蔵っ子を手放す理由はない──とはいえ、彼もずっと現役でいるわけじゃない。他のパーティーに取られないよう、連絡は取っておくべきだろう。



 そんなことを考えながら5層まで戻ると、サーベリオンのそばにいたチンピラはいなくなっていた。

 立ち往生していた探索者パーティーも姿を消している。



「さっきのチンピラたちの商売を潰しちゃったかな?」

『ですね。私たちが普通に通れたんだから、通行料を払う人もいなくなったでしょう』

「10層より先に行くと、あんな連中にジャマされるわけか……」

 俺はため息をついた。


「早いところ暴力団対策も考えないとな。何かアイデアはありますか?」

『そうですね……、一番確実なのは力の差を見せつけることです。ただし、余計な恨みを買わないように。あと、不意打ちに気を付けてください。遠距離攻撃される可能性を常に頭に入れておくこと』

「対策って、そっち? 戦う前提ですか?」

『山村さんは再生や物理耐性スキルがあるので、対人戦ではかなり有利ですよ。ケガをしてもすぐに治るじゃないですか』

 桐ヶ谷さんは、どこか嬉しそうに言う。



 ……もしかして、桐ヶ谷さんってバトルジャンキーなの?

 スキルがあっても、痛いものは痛いんですけど。

サーベリオンを倒す前後の文章を少し変えました。

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