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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第五章

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2025年5月15日(木)次の面会をどうする?

 急いで支度をしてダンジョンに向かう。

 電車やバスを乗り継いでいる時間がもったいないので、車でナンブのそばまで行った。


 ダンジョンに入るなり、スマホを取り出す。

 真司と二人でスマホの画面を見る。



「……アンテナが立ってるな」

「なんで? ダンジョン内は圏外のはずだろ?」


 真司もスマホを取り出して確認する。


「俺のは圏外だ。お前のだけ通信が出来てる」


 試しに、そばにいるスライムの写真を撮って、SNSにアップしてみた。

 通常なら絶対に電波の届かないダンジョン内から──、普通に投稿出来た。


「マジか!? アップできたぞ……! っていうか、これって動画のリアルタイム配信ビジネスができるんじゃね?」

「どうやってネットに繋いでるのか、めちゃくちゃ詮索されるぞ」

「だよなー」

 俺も同意する。


「緊急時に外部と連絡が取れるという点では有り難いが、よそに漏らせないな」

「だが……、これは金のニオイがするな。カバンにスマホを詰め込んだ状態で擬態を解除して、また擬態し直せば──スマホごと魔力で再構築される。ダンジョン産のスマホが量産できるぞ」

「魔法のスティックと同じように、魔力でスマホを再構築しようってことか。オマエがどこにリスポーンするのかわかっていれば、ビジネスに出来そうだな」

「でも、仕入れをどうしよう。スマホって個人で何台も買えたっけ?」

「転売対策はあるだろうが、それはどうにでもなるだろ。ただ、誰にでも売れるもんじゃないぞ。せいぜい、自衛隊か警察にしか売れないんじゃないか?」


 複数台仕入れる方法を考えながら、ふと思いついた。


 スマホが電波を拾うってことは……

 同じ理屈でWi-Fiスポットとか作れるんじゃね?



「まあ、携帯ビジネスについては、またあとで考えよう。今日のメインは……」

「魔石が切れるかどうかだろ? アレを切っちまうのは、どうもなあ」

 俺は、ちょっとだけ渋る。


「ミスったら元も子もないから、小さい魔石でテストしてみるか」

「んじゃあ、ゴブリンの魔石がたくさんあるから、それを実験台にしよう」


 俺はカバンに仕舞ってある採集袋を取り出し、魔石を一粒手に取った。


「吉野さん、新しいスキルが出たら教えて」

『はい、了解』


 魔石を地面に置いて、人差し指に力を入れる。


 イメージするのは、細く光るレーザー光線。

 俺の体が光り始めた。


 すぐに吉野さんから声が掛かる。


『……派生スキルができたよ』

 吉野さんが、図鑑に新しいスキルが増えたのを確認した。


「今度はなんてスキル名だった?」

『“極細”だって。相変わらず、そのまんまのネーミングね』

「なるほど」



 俺は極細レーザーで、ゆっくりゴブリンの魔石を切ってみた。


「切れるな」

「強度はどうなんだ? 加工するなら、薄い板にしても折れないか確認しておいたほうがいいんじゃないか?」

「よし。やってみよう」


 半分に切れた魔石を岩のくぼみに嵌めて、何枚かにスライスしてみた。

 一番薄く切れた破片を折ろうとしたが、ガラスのような見た目に反して、意外と丈夫だ。

 手近なところに落ちていた石で思い切り叩くと、粉々に砕けた。


「ある程度の力が加わると一気に砕ける感じだな」

「これなら、ハリポタサイズの杖くらい作れそうだ」

「奥田くんは夕方合流できるそうだから、あとは彼にやってもらおう。細かい作業は得意だと言ってたし」

 俺は立ち上がって両手をはたいた。


「んじゃ、次はオマエの着ている初心者装備の耐久テストだ」

 真司が腰のハンドガンを手に取る。


「ちょ、ちょっと待て。脱ぐから。さすがに着ている状態で撃たれたくない」


 急いで上着を脱ぐと、カバンの上に畳んで置いた。


「よし、いくぞ」


 真司がタンっと一発、上着に向かって撃った。

 排出された薬莢が、カンッと乾いた音を立てて地面の上を跳ねた。


「……穴は開いてないな」

 真司は近寄ってきて上着を広げると、潰れた弾頭がポロリと落ちた。


「防弾チョッキだったら貫通はしないが、表面に穴が開くことが多い。これは表面に傷すらついてないだろ? かなりの性能があるとみていい」

「スゲえな。だったら、刃物はどうだ? 防刃効果もついてれば無敵だろ?」

「刃物は持ってないな。あとで事務所に戻ったら実験してみよう」

「なんだったら、ホームセンターでチェーンソーでも買ってくるか?」

俺が茶化したように言う。


「そりゃあいい」

真司が真顔で応えた。


「じょ、冗談だよ。怖えな……」



 実験のあとは、9層の魔水を採取して事務所に戻った。

 帰りの道中、検証すべき項目をあれこれ話し合ったが、俺の頭の中は別のことを考え始めていた。



 土曜の面会をどうするか。


 擬態を解除すれば元に戻れるかもしれない。

 ずっとそう思っていた。


 ──だが、そんな望みは、完全になくなった。


 どうしたらいい? この姿のまま、娘に会いに行けるか?

 いったい、どう説明すればいいんだ。


 スキルで変身しているだけ──そう言えばいいのか?

 もう、人間ですらないのに。



「どうしたもんか……」

 俺は悩みながらも、飛び出してきた異生物を反射的にレーザーで撃ち抜く。


「奥さんに、正直に全部話すのはどうだ?」

 続けて現れた一体を、真司が迷わず射殺。



 考えなくても手が出るようになってきた。

 俺たちも、ずいぶん探索者らしくなったものだ。



「それも考えたけど、今の俺って、人間と異生物が混ざった“レアな生物”なんだろ? 普通の生活をしてる一般人からしたら得体が知れなくて、正直……気味悪いじゃないか。娘にだって近づけなくなるかもしれない」

「それは……、親だったら、そう思うかもしれないな」


 子どもを持つ親なら誰だって、我が子を正体不明の存在に近づけたりはしないだろう。


「吉野さんの姿は一度見られてるから、別の人間に擬態したほうがいいかもしれない」

「じゃあ、ベビーシッターとか家政婦っぽいのはどうだ? 人のよさそうな中年女性に化けて、面会日に“代わりに留守番しに来ました”って言えば……」

「いいアイデア……なんだが、ダンジョンにそんな人間は近寄らないだろ? 倒してもらわなきゃ擬態できないんだぞ」

「なるほど。だったら、奥さんの会社とか、信頼されている身近な人間に擬態するのは? 誰が探索者の資格を持っているかは、オレのほうで調べられるし」

「映画の“ボディ・スナッチャー”みたいに、完全にその人間を乗っ取るならまだしも、もしふみかが本人に接触したら、話が食い違ってバレるぞ」

「本物を“消して”入れ替わるのは……さすがに犯罪だな」

 真司が不快そうに眉をひそめた。


「どちらにしろ、吉野さん以外の誰かに擬態するなら、一度ダンジョンの中で死ぬ必要がある」

「なかなかハードルの高い検証になるな。痛みはあるんだろ?」

「当然。……そういえば、少し前に、ちょっとケガしただけで“再生”スキルが生えたんだ。もしかして、何度か痛い目にあえば“物理耐性”も……」



 ──この体になったばかりの頃、スライムが持っていそうなスキルなら、全部再現出来るんじゃないかと考えたことがある。

 擬態、再生、物理耐性、能力吸収……。そのうち“物理耐性”だけが、まだ手に入っていない。



「再生と物理耐性のスキルがあれば、最終的には“死んでも大丈夫”になるかもしれないってことか」

「やってみないとわからないが、そうなるんじゃない?」

「だったら、人のよさそうな顔をした探索者を探して、そいつに擬態して“家政婦登録”する。で、“今なら無料体験キャンペーンです”とか言って、ふみかさんの家に入り込めば──」

「イケるな……。そのアイデア。やべえな、希望の光が見えちゃったんじゃないの?」


 俺は、その場で真司と固い握手を交わした。

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