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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第五章

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2025年5月15日(木)新しい武器

 翌朝、真司はクリームチーズとブルーベリーのベーグル、俺は鰹節を山程乗せたわさび丼を食べながら、今日の予定を話し合う。


「オレは午後から、新居探しに出かける。不動産屋に予約を入れてあるんだ」

「海辺のマンションか」

「そんな感じの場所だな。朝はヒマだから一緒にダンジョンに行くよ」

「それなら、先に昨日ぶっ壊れた魔法のステッキの代わりを探すかなー」

「全然使えないのか?」

 真司がコーヒーを口にする。


「鈍器としては使えるよ。魔法の通りがほんのちょっと上がるだけだから、まあなくてもいいんだけど」

「慣れた武器がないと感覚が変わるよな」

「そうそう。それに、手ぶらだとイマイチ気合が入らない」

「新しい武器を買ってもいいが、性能は値段に比例するからな」

「そうなのよー。吉野さんのフルパワーの魔法に耐えられる装備って、かなりの値段になりそうなんだよな」

「会社の備品として、中ぐらいのグレードのステッキを買うか?」

「ホント? 真司様? 買ってくれる?」

 俺は両手を合わせて、かわいくおねだりポーズをしてみる。


「確約は出来ない。検討してみるだけだ。おんなじ形のヤツがいいのか?」

「そうだなー。重心とか、取り回しが変わらないほうがいいな。でも、ハリポタみたいな杖も興味がある。アニメじゃなくて、本格派の魔法使いっぽいし」

「まず、装備品の中古サイトに同じ形のやつがないか調べてみよう。今まで使ってたステッキを見せてみろ」


 俺はカバンを開けて、ステッキを取り出した。


「……なんだ、コレ」

「ん? どうした?」

「焦げてない」

 真司にステッキを見せた。


「焦げてないな」


 ステッキを軽く握ってみた。

 スウっと魔力が通る感覚がした。


「しかも壊れてない。ちゃんと魔力が通るぞ」

 そう言って、ステッキを軽く振る。


 ステッキに、ズウンと魔力が乗る感覚がした。

 例えるなら、軽自動車を運転していたのに、いきなりレーシングカーに乗せられて体がシートに張り付いたような状態。


「……真司、ヤバイ」

 俺は凍りついたまま、その場から動かなかった。


「ん? どうした」

「めちゃくちゃ強力な魔法が飛び出しそうだ」


 俺がそう言うと、真司が食べていたベーグルをテーブルの上に放り投げて、玄関まで走って逃げた。


「ま、まさか……、あの網みたいに拡散するレーザー光線じゃないだろうなっ??」

 真司が玄関のドアに張り付いた状態で聞いてきた。


「網じゃないが、相当強力なレーザーが出る……と思う」

「今、ドアを開けるから、空に向かって真っ直ぐ撃て」

 真司がドアを開けた。


「了解。絶対射線に入るなよ」

 俺は今にも飛び出そうとしている魔力を抑えるのに必死だ。


「言われなくても……。う、撃っていいぞ」

 真司はすばやく外に出て、地面に伏せた。


 俺はリビングの床に膝をつき、廊下の先──開け放たれた玄関のドアをまっすぐに見据えた。

 その向こうに広がる青空が、一直線に視界に入る。

 レーザーの射線はクリア。

 俺はスティックを構え、腕がブレないように息をひそめる。

 ──そして、撃った。


 数キロ先にある電線が火花を散らして切れるのが見えた。



 あのへん一帯は停電になっただろうが、人身事故が起きるよりはマシだろう。



「……荘太郎、もういいか?」

 恐る恐る、真司が玄関の外から声を掛けてきた。


「もう大丈夫だ」

 俺がそう言うと、真司は慎重にリビングに戻ってきた。


「何だったんだよ、今の……」


 真司が聞いてきたが、こっちが知りたいくらいだ。


「わからんが、ステッキの性能が跳ね上がったのは確かだ」

「性能? ちょっと貸してみろ」


 真司はステッキを手に取り、目を細めて“鑑定”し始めた。


「……これは」

「何かわかったか?」

「……ふむ。純度100%の魔石で出来てるな」

「は?」

「つまり、完全にダンジョン素材で出来てる」

「え? なんで?」

「なんでって……そこまでは鑑定じゃわからんな。市販の武器だって、魔石の含有率はせいぜい50%台が限界だ。このステッキは異常だぞ」



 二人でしばらく知恵を絞ったが、どうして100%魔石の武器が出来たのかはわからなかった。



「そういえば、昨日、擬態を解いたとき、俺はどうなったんだ? その場でスライムになった?」

「それもあったな。話してなかったが──オマエ、一瞬光って、そのまま“消えた”ぞ」

「消えた……か。確かに、体がなくなって、気がついたら、スライムになった感じはした。でも、吉野さんみたいに意識を共有できる感じはなかったな」

 俺は昨日のことを思い返してみる。


「なるほど。山村荘太郎ではなく、ただのスライムになったってわけか」

 真司が腕を組んでうなる。


「擬態する相手に理性がなければ、山村荘太郎としては行動できないってことか」

「そうすると、異生物に擬態するのは危険なんじゃないのか? 見境なく人間に襲いかかるようになるかもしれないぞ」

「なるほど。その危険はあるかもしれない。ただ、スライムは知能が低いから意思の疎通ができなかったのかもしれない。もう少し大型の異生物なら、少しは賢いんじゃないか?」

「そいつを検証するときは、万全の用意をする必要があるな。どこにリスポーンするかわからないし、妙に知恵がある異生物だと、不意をついて人間に襲いかかってくるかもしれん」

「リスポーンする場所か……。だったらサーベリオンはどうだ? 必ず5層の最後に現れるだろ?」

「それだけは確実だな。まあ、それは今後の検証課題としておこう」

 真司がスティックをもう一度見つめる。

魔石について、真司のセリフをわかりやすいように変えました。


※魔法のステッキが、なぜかこの回からスティックになってたので、今までのキャラクターグッズっぽいほうを「ステッキ」、ハリポタとか本格的なほうを「杖」と表記しなおすことにしました。

ワンドだと、どうしても大きい杖のイメージですよね……

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