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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第四章

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2025年5月10日(土)信じたい言葉

 早い時間に吉野さん(オリジナルの)と別れたので、のんびり買い物をしてから家に帰った。


 タブレットでレシピを見ながら、チンジャオロースと、卵とトマトの中華スープを作ってみた。


「うん、なかなかイケるな、これ。今までは、具を炒めて市販のタレをかけるだけだったけど──調味料さえそろっていれば、同じ味になるんだな」

『あれは、手軽に味付けできるのがウリってだけなんだから、自分でも同じ味は作れるわよ』

「時間と試行錯誤の手間を200円くらいで買ってるわけか」

『それだって、毎回買ったら高くつくわよ。自炊するなら、なるべく既製品に頼らない生活をしないと。時間だけはいっぱいあるんだから』

「時間だけわね……」



 食べ終わった食器を片付け、風呂に入る。

 さっぱりしたところで、吉野さんリクエスト、アルコール低めのレモンサワーを作り、ノートを広げた。


「さーて、何を検証するべきか……っていうか、どこまで検証できてた?」

『スキルの検証をしようって言ってから、いろいろなことが起こったからね』

「まず、図鑑の確認をしよう。コイツの表示が手狭だったのをなんとかしたいと言ってたが……」



  ༶⋆˙⊹✜☘✜⊹˙⋆༶

 ⚜︎ G R I M O I R E ⚜︎


 名前:吉野美玲

 分類:女、学生

 タイプ:真面目、根性

 身長:156cm

 体重:44kg


 特性:風魔法

 └ ゼフィール・エテレ

 └ ヴァン・ダルジャン

 └ グリフ・デュ・ヴァン

 └ ミストラル・ランパール✩⋆

 └ ヴァン・ラヴァジュール✩⋆

 └ ヴォルテックス・ド・レジャンデ✩⋆

 |

 擬態(機能限定)

 ✜⋆⊹˙༶☘༶˙⊹⋆✜



「なんだこりゃ。シンプルだが、小洒落た感じ……なのか?」

『殺風景だったからオシャレにしたかったんだけど、文字だけだとあんまり上手くいかないな。(*NEW!)だと場所を取るから✩⋆にしたんだけど、これもイマイチ』

「え? 図鑑の画面ってデコれるの?」

『やってみたらいいじゃない。こういう表示にしたいってお祈りする感じで。あ、ちなみに、呪文名をタップすると詳細が出るようになったよ』

「へー、それは省スペースでいいな」


 言われたとおり、オシャレになるようイメージしてみた。



   ✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀


 ▓▒░ !!!マル秘!!!! ░▒▓

 名前:山村 荘太郎

 分類:無職

 タイプ:こだわりが強い

 身長:--

 体重:--

 特性:擬態→図鑑→人格形成→オートアシスト→丸投げ

  |→特殊効果→女優エフェクト→小悪魔モード

  |→能力吸収→風魔法(グレー文字)

       |→大食い

       |→魔石摂取


   ✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀✿❀



『クソダサ……』

「クソとか言うな!」



 ちっきしょー、俺もそう思うけど。



『装飾が、微妙に昭和っぽいというか。女の子だから取りあえず花でも飾っておけって投げやりな感じがする』

「昭和か──。確かに、実家にある魔法瓶とかテーブルクロスって、やたら花柄が入ってたな」

『まだあんの? そんなの』

「年寄りってのは、昔の物を捨てないんだよ。エアコンなんか30年くらい前のやつを未だに使ってるぜ。コンビニでもらった割り箸とか、ビニール袋も全部溜め込んでるし」

『へー、掃除が大変そう』

「もし実家を取り壊すことになったら、処分代がおっそろしいわ」

『そういえば、山村さんって、体の不自由なお兄さんがいるんでしょ? ご両親が亡くなったらどうするの?』

「それは……、イヤなところを突っ込んでくるなー」

『あら、失礼。でも、人生、何があるかわからないでしょ? 万が一のことも考えておかないと』

「そうだな。考えないようにしてたけど……」


 そこまで言ってから、なんと言っていいのか分からず、しばらく黙ってしまった。



「とくに仲のいい兄弟ってわけでもなかったし、正直、どうすればいいのか……わからない。俺が世話をする? そんなのムリだろ。自分の面倒だって見きれていないのに……」


 自分の思いを口に出してみると、非情な話に聞こえる。

 冷たい人間だと認めるようで、あっさり言い切ることが出来ない。


 だが、そんな重荷を背負いたくないと思っている自分がいるのは確かだ。



『……魔水があれば、半身不随くらい治せるんじゃない?』

 しばらくして、吉野さんがそっと言った。


 それは思いつかなかった。


「確かに、そうだ」


 魔水のおかげで、再起不能と言われた人間が治ったというニュースはしょっちゅう流れている。


「──この前、有田さんにもらった魔水を使えば、たぶん簡単にもとの体に戻れるだろうな……」

 ぼんやりと呟く。


『でも、お兄さんには使わない?』



 どうだろう。使うべきなんだろうか。



「まず……自分の生活が優先だろ。ダンジョンに入ってるのは俺なんだし、万が一のことを考えると、保険に一つは持っておきたい」


 飲んでいたレモンサワーのグラスに目を落とし、言葉を続ける。


「それに、オリジナルの吉野さんだってダンジョンに入ってるけど、魔水を持ってるわけじゃない。事故に遭う確率は、普通よりずっと高いんだぜ」


 ふみかや心菜の顔が浮かぶ。


「……ふみかや心菜に、もしものことがあったらどうする? 一つしかない魔水を、どう扱えばいいんだよ……」


『そこに、オリジナルのアタシも含まれるの?』

 吉野さんが、少しだけ声を落とした。


「当然だろ。吉野さんにとっちゃ生みの親みたいな存在なんだし。オリジナルの吉野さんは、こっちの事情も知ってるんだから。もう仲間みたいなもんじゃないか」

 即答する。


「優先順位でいえば、遠くの家族より、近くの仲間だよ。……ドライだって言われるかもしれないけど、現実的に考えればそうなるだろ?」



 俺がそう言うと、吉野さんはしばらく黙ったままだったが、やがて静かに話し始めた。



『……さっきの話、ちょっと引っかかるんだけど』

「ん?」

『魔水のこと。……お兄さんには使わないって、はっきり言ったよね』

「ああ」

『それなのに、オリジナルのアタシのことは“仲間だから当然”って……。じゃあ、アタシはどうなのかなって……』


 吉野さんの気持ちが揺れているのが伝わってくる。


『だって、アタシは、山村さんのスキルで生まれた人格だけしかない存在で……実体はないのよ。遠くの家族と変わらない。だから、消えてもいいのかって……ちょっと不安というか……』

「おいおい、どうしてそうなるんだよ。実体がなくたって、24時間一緒にいて、ケンカもしたけど大事な存在に決まってるじゃないか。もう俺にとって、なくちゃならない“相棒”なんだよ」

 俺は、心の底から湧いてきた言葉をそのまま口にした。


『……それなら、ひとつお願い』


 吉野さんは、少しだけ息を飲んだあと、絞り出すように言葉を続けた。


『擬態スキルの解除は……しないで』


「……え?」

『もし擬態が解けたら……、アタシ、消えちゃう気がするの、山村さんの頭の中から。ずっとそのことが怖かった。山村さんが “元の体に戻る”って言うたびに、アタシにとっては、それが……終わりになるのかもしれないって』


 途切れ途切れに話す吉野さんの声は、段々小さくなっていった。


「そんなふうに思ってたのか。ごめん。俺はいっつも自分のことしか考えてないな……。言われてみれば、確かに擬態を解除したら吉野さんの姿はなくなっちまう。そのとき、吉野さんがどこに行くかはわからない」


 俺は腕を組んで考えた。



「だったら、擬態を解除するのはやめておこう」

『……でも、そうしたら元の姿に戻れないかもしれないよ。山村さんは、元の姿に戻りたいんでしょ?』



 それはそうなんだが……。

 でも、吉野さんは忘れていることがある。



「フッフッフ」

『な、なによ……ヘンな笑い方して』

「いや、いや、吉野さんもかわいいことを言うんだなって思ってさ──。ただ、その心配はいらないんじゃないかな。だって、派生スキルは自分の思った通りに伸ばせるじゃないか。だったら、それこそパソコンのデータみたいに、一時保存なり別名保存して、あとから呼び出せるようなスキルを生やすことだってできるはずだろ?」



 俺は、この派生スキルだけはいつでも発現させる自信がある。

 何しろ、重要なことを先延ばしにするのは俺の得意技だ。



「それに、恋愛ごとは、女は上書き保存、男は別名保存って話があったっけ。消したと見せかけて、ちゃっかり隠しておくのは男の得意技だ」

 俺は冗談めかして言った。


『──それって慰めになってるの?』


 吉野さんは呆れたようだが。



「……吉野さんが消えないようにする。それは約束する。絶対だ」

 俺は信じてもらえるように、精一杯気持ちを込めて言った。



 吉野さんは、しばらく沈黙していた。

 不安は残っているようだが、それでも信じたいという気配が伝わってくる。


「俺はもう、この体は自分ひとりのものじゃないと思ってるから。何かするときは、必ず相談するよ」


 俺は、吉野さんを安心させようと声を掛け続けた。


「この体に、吉野さんがいるんだ。だったら俺が守らなきゃって思うよ、当然。擬態が解けたらオシマイなんて、そんなの絶対イヤだ。二人でここまでやってきたんじゃないか。だったら、ずっと一緒に、先へ進もうぜ」


『……山村さんって、びっくりするくらい……そういうところ、ちゃんと伝えたら、ふみかさんだって、きっと──』

 吉野さんが小さな声で照れくさそうにごにょごにょ言う。


「あ? 俺がなんだって?」

『もう、全部言わせないでよ。はい、次々。今日は検証できることは全部やるんだから』


 吉野さんは、言うつもりのなかったことまで口にして気まずくなったらしく、わざと大きな声で話を打ち切った。



「では、検証の続き。今すぐ試せる魔石ですかね」

『そうだね。大きさで並べてみると、9、10層あたりにいたグロークの魔石が一番大きいかな。7、8層にいたフェングルムの魔石もなかなかの大きさ』

「どのくらいの時間効果が続くのか、ちゃんと計っておかないとな」


 スマホのタイマーを用意する。

 ふたつの魔石のニオイを嗅いでみたが、ゴブリンのような悪臭はしない。


「じゃあ、デカいほうからいくか。グローク……、これ、喉に詰まりそうだな。水で流し込もう」


 俺は台所で新しいグラスに水をくみ、タイマーをスタートさせた。

 同時に、水で一気に魔石を流し込んだ。


 内臓に焼けるような熱が走った。


「くっ……」


 体の芯が膨れ上がり、血液が沸騰するような感覚に襲われる。

 グラスを持つ手に力がこもり──そのまま握りつぶした。

 パキン、という音とともに、砕けた破片が床に飛び散った。


『キャッ。ウソ! 何!?』

 吉野さんが驚いて悲鳴を上げた。


 手のひらにするどい痛みを感じ、血がにじむ。


『信じらんない……、グラスを素手で。だ……、大丈夫?』

「うーん、……どうだろう」


 しばらくすると、体から熱が引いた。

 魔石の効果が切れたところで、タイマーを止めた。


「27秒。コンマ以下は手動の誤差みたいなもんだろ」

『それより、手は? 破片でケガしたでしょ?』


 手のひらを見た。

 ガラスの破片が残っているが、血は止まっているし、切れた形跡も残っていない。


「あ? どういうこと? 何ともないぞ」


 手をヒラヒラさせてみたが、血がにじむこともないし、痛みもない。


『スライムだったら、物理耐性があるかも? それとも、再生能力でケガが瞬時に治ったとか』

「魔石を飲んでパワーが上がるなら、その間だけ再生能力が上がってる可能性もあるぞ」

『だったら、魔石の効果が切れた今、そのガラスでちょっと手を切ってみなさいよ。どっちだかわかるじゃない』

「う……今? 魔石のおかげだったら、もう傷を治せないじゃないか。検証は慎重を期すべきだろ。明日にしない?」

『ちょっと切るだけなんだから、いいじゃないの。対人戦までやった人が、今さら傷のひとつやふたつでガタガタ言わない』


 そう言われてしまうと仕方がない。俺は目をつぶって──


『目を開けてないと傷ができたかどうか見えないでしょ』


 ……目を開けたまま、持っていたガラスで指先を軽く切ってみた。



 一瞬痛みにビクっとするが、薄い傷が出来ただけで、すぐに傷は消えた。


「こ、こいつは……」


 吉野さんは素早く図鑑を確認した。


『はい、新しいスキルが生えました』

「……再生能力だろ?」

『正解』



 特性:擬態→図鑑→人格形成→オートアシスト→丸投げ

  |→特殊効果→女優エフェクト→小悪魔モード

  |→能力吸収→風魔法(グレー文字)

  |     |→大食い

  |     |→魔石摂取

  |→再生能力✩⋆



 図鑑の画面で、再生能力をタップすると説明が出た。


 再生能力

(能力に応じて体の損傷を回復させる)



「能力に応じて……っていうのは、やっぱ経験を積んでスキルを鍛えろ……ってことになるのかね」

『でしょうね。何度も痛い思いをしないとダメなのか。かわいそうに』

「完全に他人事だな」

『アタシは痛いのはちょっと……』

「さっきのかわいらしい~しおらしさは、どこに行ったんだよ」

『過ぎた話を何度も蒸し返す男は、嫌われるわよ』

図鑑の分岐が間違っていたので修正しました……

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