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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第二章

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2025年5月2日(金)ふたりはプリ……?

 そもそも、独り者だった叔父は、常日頃から、自分に何かあったときには、遺品の整理は俺にやってほしいと言っていた。姉である俺の母親には、とても見せられないものがあると。


 そして、本当にその状況になったとき、俺は、確かにこれはそうだろうなと思った。


 叔父が映画監督を志した頃は、おそらく日活ロマン◯ルノの全盛期だ。エログロナンセンスの洗礼を受けた叔父にとって、あの映像は、誰に認められなくても、自分が生きた証だ。どうしても捨てられなかった気持ちはわかる。


 だが……、エロが出てくるのを期待して、家族に隠れてひたすらシュールな映像を見続けた俺からすると、さっさと捨てちまえと思う気持ちもある。


 いや、もしかしたら、俺が作品の本質を理解出来ないだけで、本当は名作なのかもしれない。ゴッホみたいに、死んでから評価されるアーティストは多い。


 そういう思いもあって、俺にはどうしてもコレを捨てる判断が出来なかった。



 結婚したあと、俺は叔父の遺品を二重にしたダンボールに詰め、押し入れの奥に突っ込んだ。外側のダンボールに、“重要、廃棄不可”、内側には“親展”と書いた。

 ふみかに見つかったときのための偽装工作だ。



 叔父の名誉のため──、っていうか、今は俺の名誉のため。俺が死ぬまでに、コレを何とかしなくては。

 もし、今俺が死んで、遺品を娘に見られたら──



 やっぱり、叔父さんには悪いが、焼き払うべきか? ──イヤ、ダメだ。

 男には、一度引き受けたら、何をおいても守らなければならない、そういうものがあるのだ。




 まあとにかく、この“吉野さんっぽい何か”は、本物の吉野さんではなく、俺と吉野さんの記憶を元に、俺の頭の中で勝手に育っていく存在らしい。


 派生スキルで出来た人格なら、今後もこの“ネオ吉野さん”の育成に役立つスキルは、必要に応じて生えてくるのかもしれない。


 それに、ダンジョンの中にいなくても、スキルは成長することがわかった。

 最初は話せなかった脳内吉野さんも、今は自由に喋ってるし。

 これは、明らかにスキルが成長した証だろう。



 ……待てよ。

 だったら、図鑑の情報も、更新されてるんじゃないか?



 チラッと頭の中を覗いてみた。



 ───

 名前:吉野美玲

 分類:女、学生

 タイプ:真面目、根性

 身長:156cm

 体重:44kg

 特性:風魔法

 擬態(グレー文字)

 ───



「うーん、これはスキルが……成長してるってことなのか。ちょっと表示が変わったな」

 俺は図鑑を眺めながらつぶやいた。


『ねえ、私のほうから見える図鑑は、もっといろいろ変わってるよ』


「は?」

 思わず聞き返した。


 どうやら、吉野さん側からも図鑑が見えているらしい。

 ただし、表示されるのは俺の情報で、中身も少し違っているようだった。

 図鑑の内容を紙に書き出して比べてみた。



 ───

 名前:山村 荘太郎

 分類:無職

 タイプ:こだわりが強い

 身長:--

 体重:--

 特性:擬態→図鑑→人格形成

  |→能力吸収→風魔法(グレー文字)

 ───



「無職とは何だ! 無職とは! そこは探索者だろうが!」

 俺は思わず立ち上がった。


『突っ込むとこ、そこ?』

「い、いや、まあいいか、そこは。──じゃあ、身長と体重の記載がないのって何なんだ?」

 紙に書かれた項目を指先で叩く。


『それは、姿形が私なんだから。山村さんの体の情報は空白になるでしょ』

「あ、なるほど。擬態してるから、そうなるのか」


 しばらく沈黙があったあと、吉野さんがぽつりと言った。


『それより不思議なのは、自分自身の情報が自分で見られないことかな』

「あ……そういえば」

『スキルって、使う人のイメージが反映されて発現するんでしょ? でも、私から見えるのは山村さんの情報だけ。どうして、自分のことをわざわざ他人に確認してもらう仕様なんだろ。正直、面倒くさくない?』

「確かに。間接的にしか見えないっていうのは面倒だよな──」



 使う人の“イメージ”。



 図鑑スキルの表示の仕方は、俺の“何”をイメージしたもの……なのか。

 性格や、価値観……、あるいは、“俺自身の在り方”をイメージしているとか。


 会社をクビになって以来、他人を信用するなんて無理だと思っていた。

 でも──もしかすると、このスキルは、そんな俺に“誰かと一緒にやれ”って言っているのかもしれない。

 それが、心の底で、俺が望んでいたスキルの”あり方”だったんじゃないのか──?



『図鑑スキルって、そもそも “自分のステータス”を見るためのスキルじゃないのかもしれないね。擬態中の相手──つまり“他人のステータス”を見るための画面だとすると……、他人をスキルとしてを使うために“カード化”する必要があるとか』

「次のターンで戦う“モンスターカード”はコレだぜ、みたいな? 何人かコピーしたら、戦闘中に切り替えとかもありそうだな」

『カードゲームっぽい仕様かー。コピーした相手をストックできるようになれば、そういう使い方もできそうね』

「そういう派生スキルならイメージしやすいから、すぐに生えそうだ」


 なんとなく、自分のスキルの使い方がわかってきた。


『っていうか山村さんは擬態、アタシは風魔法。二人で協力すれば、ふたつのスキルが使えるってことじゃん! これってスゴくない!?』

「そうか。スキルは一人ひとつって話だもんな」

『まさに協力プレイができるじゃん。ほら、“ふたりはプリキュア”みたいに』



 吉野さんはプリキュア好きらしい。やたらテンションが上がった。



「協力プレイか……。ゲームじゃよくやったが、現実の世界ではどうかな……」

 俺は渋い顔をした。


『とはいえ、私の図鑑では、擬態スキルがグレー表示になってるの。これは、つまり……』

「……擬態スキルが使えないってことなのかな?」

『うーん、スキルとして表示されてるってことは、使える気がするんだけど……。今は使えないってことなのかな。ダンジョンに入ってみないとわからないけど。山村さんのほうは風魔法がグレーなんでしょ?』

「ああ。ダンジョンに入るだけで解決する問題ならいいんだけどな。ここまで期待しておいて、ただの飾りです~とか言われたら、かなりショックなんだけど……」

 俺は図鑑の画面を睨みつけた。


『そんなに魔法、使いたかったんだ』

「そりゃそうだろー。吉野さんをまるごとコピーしたんだし、当然スキルも全部使えると思うだろ。吉野さんが魔法を使ってるときの記憶も見て。本当に、自分が魔法を使ってる感じだったのに……」



 俺は両手を前に突き出し、魔法を放つジェスチャーをしてみたが。

 ……何も出なかった。



『ダンジョンに入っても使えない可能性もあるよ。何らかの条件をクリアしないとダメとか』

「発動条件付きスキルか……。その可能性はあるな」



 その可能性を想像しながら、軽く握っていた手を開いた。

 手の中に魔力が宿っている感じは──、やっぱりしない。



 それでも。

 可能性があるなら、試してみたい。

 何しろ、このスキルは俺の生命線なのだ。




『それで、最初の話に戻るんだけど。これ以上スキルの検証をするならダンジョンに入らないとできないし、そろそろお風呂入って寝ない? もう疲れちゃった。……って言っても、体はないから疲れないんだけど、精神的にね』

「あ、風呂か。そういえばそうだった。うーん、目をつぶって風呂に入ったとしても……脳内に吉野さんがいるんじゃ落ち着かないなあ」


 見えないからこそ湧き上がる妄想もあるわけだし。


 脳内だけの別人格とはいえ、考えたことが何でも相手に筒抜けというのは非常にマズい。自分の頭の中の存在であっても、自分ではなく別の人格だし。

 精神衛生的に完全にアウト。


 とにかく俺はイヤだ。

 どんなに親しい間柄だろうと、プライバシーの確保は絶対譲れない。24時間、“アレ”とか“コレ”みたいなことを、全く考えずに生活するのは不可能だ。

 18歳の女子大生と36歳無職の男が、脳内限定とはいえ、何のトラブルもなく同じ空間にいられるわけがない。



 ……そういえば、以前テレビで“多重人格”の特集を見たことがある。

 別の人格が表に出ているとき、自分自身の記憶は途切れるんだとか。


 脳にそういう仕組があるのなら、同じようなことを、派生スキルでどうにか出来るんじゃないのか……?



 そうじゃないと、……女子大生とお風呂、ウフフとか。



 いやいや、一瞬たりとも考えたりしませんよ。そんなこと。



「まったく、死んだと思ったら女子大生になって生き返ったり、そいつが頭の中に住み着いたり、これからどうすりゃいいんだよ。ホントに考えることがあり過ぎで、頭がいくつあっても足りないよ」

 俺は頭をガシガシと掻きむしった。


『それなら、自分の中にひとつ別の人格が増えたと思えば、何の問題もないでしょ』

「うーーーーん、問題ないのか、それ? まあ、わけのわからない状況に、たった一人で置かれるよりはマシなのか……な」

『まさに、一心同体の仲間ってわけね』

「それを言うなら、二心同体だな」



 取りあえず、今の俺たちが置かれている状況はわかった。

 ならば、次は生活環境の改善だ。それにはスキルの成長が欠かせない。

 俺と脳内吉野さんは、“プライバシーを守る”という点で意見が一致していた。

 それならば、協力するのはやぶさかではない。


 必要であれば派生スキルは成長させられる。この法則は強い。

 スキルを増やすのが課金制だとか、レアなスキルブックが必須──みたいな仕様だったら、早々に詰むところだった。



 俺たちは共同生活のルールを決め、これは絶対必要なんだと、何度も念じて、唸って、踊った。スキルを司る“ダンジョンの神様”的な何かに、心の底からお願いした。



 まさかとは思ったが──願いは届いた。

 スキルが、あっさり成長したのだ。



 信じるものは救われる。神様、ありがとう。

 ……そんないいかげんでいいのかよ、と言いたくなるくらいだが。


 まあ、俺のスキルだから、そのへんは緩く出来てるのかもしれない。



 さて、守るべきルールは、こうだ。



 1.お互いの許可なく記憶を覗かない。

 ※人格形成スキルが成長したので、過去の記憶にドアっぽい間仕切りを付けられるようになった。


 2.プライバシーの確保。風呂やトイレは吉野さんに任せる。

 ※人格形成スキルに強弱が加わり、意識の主導権が融通できるようになった。普段は半々だが、意識の90%以上を奪われると、奪われたほうは、ほぼ休眠状態になる。


 ※重要:100%譲渡してしまうと、本当に体を乗っ取られて元に戻れなくなる危険がある。意識の譲渡は、緊急時でも99%までとする。


 3.やむを得ず何かをしなくてはならないとき、生命の危機を感じるような場合は、お互いの意識をどう使ってもいい。

 ※ピンチになったら、プライバシーがどうのこうの言ってるヒマがないからね。



 擬態スキルは俺専用というわけではないらしく、記憶のドアの開け閉めや、意識の主導権の譲渡については、吉野さん側からでも操作ができた。

 とはいえ、図鑑に表示されている吉野さんの“擬態”は、グレー表示のまま。


 つまり、派生スキルは共有できるけど、大元のスキルは“条件付き”でしか使えない──とか。

 “鑑定”みたいなスキルがあれば、もっと詳しくわかるかもしれないが、現時点じゃ、このくらいの推測が限界だ。



 さて、これでプライバシーの問題も、ほぼクリアできた。

 思考の垂れ流しが防げるようになったところで、風呂だよ。


 俺は、脳内吉野さんに意識の99%を預けた。

 その瞬間、ブツンと俺の意識が消えた。

読んでくれてありがとうございます。

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