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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第九章

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2025年5月26日(月)新しい武器

「もしかして、それって、この前アメリカで発売されたばかりのやつかい? リボルバーだな」

 真司は、金子さんが持っている拳銃を興味深そうに見る。


「そうです。Ruger GP100をベースに本体を魔石で強化してます。でも、強化弾とセットで使わないと、それほど威力は出ないんです。ボクは、他のモデルがよかったんだけど、叔父さんが安全性とメンテナンスのしやすさで、これがいいって……」

 金子さんは、少し不満そうな顔になる。


「初めて銃を持つなら、悪くないと思うよ。使い心地はどう?」

「まだ、そんなに使ってないんで……よくわかりません。使ってみますか?」

 金子さんは、銃のグリップを真司に向けて差し出す。


「いいのかい? 魔石で強化された弾なんて高そうだけど……」

「銃本体はけっこう高いんですけど、弾は消耗品ですから。一発5ドルくらいです」

「それでも、オレが使ってる弾とはだいぶ違うな。──じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ使わせてくれ」



 金子さんは、スキルを使いながら、みんなの先頭を歩いていく。

 何メートル先に、どんな異生物が、何体いるのか──魔力の強さで見分けているらしい。

 前回会ったときは、何の攻撃手段もなく、ただ吉野さんの後ろをついていくだけだったのに、頼りなさそうだった表情が、今はずいぶん引き締まって見える。



(これが、“男子三日会わざれば刮目して見よ”ってやつか)

『その反面、有田さんのほうは──名の知られた探索者にしては、少し……残念な感じの人に見えますね』

(好きなタイプの女性の前では、ポンコツになる人なんでしょうねぇ……)

 俺はしみじみと言う。



「この先に異生物が5体います」


 金子さんが指し示す先に、重量級ゴブリンの団体がいた。

 真司は銃を構える。


「手伝いましょうか?」

 俺はクロスボウを掲げる。


「じゃあ、両サイドの2体を頼む。残りはオレがやる」


 真司は慎重に狙いをつけ、最初の1体を撃ち抜いた。

 同時に、俺も右側のゴブリンに矢を放つ。


 残ったゴブリンが振り向くより早く、真司は左手で撃鉄をなでるようにはじき上げ、右手で引き金を引く。

 バンッバンッ──乾いた銃声が続けざまに響き、残り2体も倒れた。

 最初の一発から、ここまで約1秒。


 最後の1体が、怒りを滲ませ、牙をむき出しに突進してくる。

 俺は呼吸を整え、正確にヘッドショットを決めた。


 異生物は、ほぼ同時に灰に変わり、魔石が雨だれのようにジャラッと地面を叩いた。



「す、すごい……!」

 金子さんが目を丸くする。


「5体くらいなら余裕ね……でも、社長。最近の銃って、もっと簡単に撃てるんじゃないんですか?」

 俺は、わざとらしく首をかしげてみせる。



 通販番組の相方みたいに、妙に芝居がかったポーズになったが、まあいい。



「この銃はダブルアクションだけど、シングルアクションで撃ったほうが、それっぽいだろ?」

 真司は、銃身の先をふーっと吹いてみせる。



 今日の真司は、いつものマトリックス風防弾コートではなく、軍用のしっかりとしたポンチョを羽織っている。

 これで、ステットソンを被っていれば、まさに現代版・荒野の用心棒だ。



「なるほど、男のロマンってやつですね。ステキです」

 俺はうっとりとした表情を浮かべ、パチパチと拍手をする。



 それを見た有田さんは、唇をへの字に結んで真司を睨む。

 瞳の奥では嫉妬の炎が燃えている。



 いや、そんな目をされても困るんだが。



「Ruger GP100か……なかなか威力があるな。思ったより反動もこないし。オレも欲しいな、コレ」

 そう言いながら、真司は金子さんに銃を返す。


「そうですね。社長が今持っている武器じゃ、深い階層まで行けないし……。攻撃力が上がるんだったら、ぜひ手に入れたいわね」

「あー、そりゃ残念。そいつは米軍のツテで手に入れたヤツなんで、一般じゃしばらく無理ですネー」

 有田さんが、すねたように言う。


「あら、そうなんですか? でも、有田さんなら──なんとかできそうな気がしますけど。“ベテラン探索者”のコネとか、あるんじゃないですか?」

 俺はわざと“ベテラン”を強調し、軽く流し目をしてみせる。



『山村さん、国内だと銃の販売は正規登録販売店を通すか、探索者用のオークションしかないですよ?』

 頭の中で、桐ヶ谷さんが口を挟む。


(普通はそうですけど、探索者の装備に関しては、トップ探索者だけの別ルートがあると思いますよ。現に、一般には出回っていないアメリカ製の新型銃を持ってるじゃないですか)

『そういえば……』



「は、はいっ! すぐやります。任せてくださいっ!」

 有田さんが鼻息荒く、胸を叩く。



(ほらね? わかりやすい人ですよねー)

『……ちょろいですね』



「いやいや、アンジェラさんのためでしたら、例え火の中、水の中。この有田勇作めに、何でもお任せを。実は、この銃は、アメリカの探索者用オークションで落としたんですよ。参加資格はめちゃくちゃ厳しいんですけど……まあ、ボクくらいの実力になると、海外からの招聘もあったりしてね。以前アメリカの国防省に招かれて、米軍所属の探索者とダンジョンに入ったことがあるんです。そこでピンチに陥った米軍さんを、サッと助けてね。いや、ホント、そのくらい、どうってことないんだけど。──で、その実績で、特別にオークションのパスをもらったんです。正規品だから、国内に持ってきても、銃の登録はすぐにできました。今、日本でこの新型銃を持ってるのは、ボクだけです。なあ~に、ボクの力を持ってすれば、拳銃の1台や2台、すぐに取り寄せますよ」

 有田さんは、べらべらと自慢げに話す。


 俺と真司は、適当に相槌を打ちながら大人しく話を聞く。



 いや、いつまで続くのかな、この自慢話。

 吉野さんの姿で一緒にパーティーを組んだときの、あのクールで頼れる有田さんはどこへ行った?

 そんなに桐ヶ谷さんが気に入ったのかねぇ……。



「叔父さん……」

 金子さんは、恥ずかしそうにうつむきながら呟く。

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