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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第八章

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2025年5月25日(日)太極拳の見学

 朝食を取りながら、真司と今日の予定を確認。

 懸案だった吉野さんたちの引っ越しが終わり、次はどうするか話し合う。



「みんなの引っ越しが済んだから、この家のセキュリティも上げておこう。とりあえず、事務所と同じように監視カメラを設置するくらいだが」

「それでいいんじゃないか? 俺と真司が一緒にいれば、大抵のトラブルは切り抜けられるし。そういや、真司の新居はどうするんだ?」

「もうしばらくここに置いておいてくれ。これ以上安全確認すべき場所が分散すると、目が回る」

「ナンブの暴力団を片付けるまでは、現状維持か。金が貯まったら自社ビルを建てて、全員でそこに入居すれば、安全対策は一本化できるぞ」

「将来的に従業員が増えたら、それもアリだな」

 真司も頷く。



「あとは……次のオークションをどうする?」

 俺は食後のお茶を入れながら真司に尋ねる。


「早めにやりたいが……出品するスマホが出来てないだろ?」

「そうなんだよ。ナンブが騒がしいから、他のダンジョンに行ってみようと思うんだ」

「毎回サーベリオンに化けて吉野さんに倒されないと、スマホ一つ作れないっていうのも、大変だな」

「それなんだけど、昨日言ってた気功を試してみたいんだ。太極拳でもいいんだけど、気の流れを意識して魔力が使えれば、わざわざ吉野さんにやられなくてもスマホが作れるんじゃないかな」

 俺はテーブルをコンコンと叩く。


「ふむ。確かに、魔力で体や装備品を変化させられるんだから、カバンの中身が変えられないってことはないかもしれないな」

「そうそう。俺も痛い思いをしなくて済むし、魔力の扱いに長ければ一石二鳥だろ」



 話し合いの結果、真司は家のセキュリティ対策を、俺は真司に強く推されて太極拳の教室を調べることになった。

 太極拳といえば、一般的にのんびりした体操のイメージだが、本来は武術だ。

 チャイナドレスを着た桐ヶ谷に蹴……とか、ふらちなことを考えたのかもしれない。




 スマホで太極拳教室のホームページを探し、青空教室の開催場所を確認する。

 中華街周辺で活動している教室が見つかったので、動きやすい服装に着替えて、さっそく現地へ向かう。


 電車で元町まで行き、そこから山下公園へ。


 日曜ということで、公園にはそれなりに人が出ていた。風は穏やかで、薄曇りの空から差す光は柔らかく、散歩にはちょうどいい時間帯だ。


 海沿いの遊歩道に、それらしい団体が十数名集まっているのを見つけた。

 まずは遠くから、スキルを使って先生と思われる人物の動きを観察する。



 体の中心を軸にして、手や足がまるで柔らかな糸でつながっているかのように動く。一つの動作が終わると、呼吸に合わせて次の動きが自然に生まれ、全身が途切れることなく流れていく。まるで水面に落ちる一滴が、静かに波紋を広げていくようだ。


 俺は、動きの導線を目で追い、体重のかけ方、呼吸に合わせた手の押し出し、足の踏み込み──すべてを記憶する。



 武道の基本は、こうした型にある。

 俺は、目をつぶっていても同じ動きが出来るように、何度も型を繰り返した。



「──太極拳、興味あるの?」


 急に背後から声がかかる。振り向くと、ハタチくらいの男が立っていた。


「あ……えっと、そうですね。なんか体に良さそうだし」

「あんな体操みたいなのじゃなくて、実践のほうは興味ない?」

「実践……ですか? 戦ったりするやつ?」

「そうだよ。そっちのほうが面白いって。ウチの教室がすぐそばにあるから、見学においでよ」


 ナンパというわけではなさそうだ。

 よく見れば、男の体から魔力のような揺らぎが感じられた。


「あのー、もしかして探索者……ですか?」

「そうだよ。よくわかったね」

 男は少し驚いたように眉を上げた。


「アタシもそうなんで。なんとなく」

「もしかして、格闘系のスキル持ち?」


 スキルのことを他人に教えるのはリスクがあるので、俺は最低限の情報に留めた。


「いえ、魔法使いです」

「へー、それなのに武道に興味があるんだ」

「魔力と気の流れって似てるかなあって思って、検証というか……研究みたいなものですね」

「ああ、そういうことか──。だったらウチの師父(シーフー)に会ってみたらいいよ。師父も探索者なんだ。素手で15層のウルベアスを倒すんだぜ」

 そう言う男の顔は、どこか誇らしげだ。



 っていうか、素手でウルベアスを倒すって、どんなバケモノだよ。



 彼は、手招きするような仕草をすると、そのままスタスタと歩き出したので、慌てて声を掛けた。


「あ、あの、お名前は……?」

「オレ? 張三(チョウ・サン)だ」

「チョーが苗字?」

「そう。そっちは?」

「吉野です。吉野美玲」



 格闘マンガのボーイ・ミーツ・ガールみたいな出会いだが、彼の先生的な存在が気になったので、促されるままついて行くことにした。



『ちょっと、山村さん。知らない人について行っていいの?』

 頭の中で吉野さんが警戒した声を出す。


(そんな悪党面でもなかったし、大丈夫じゃない?)

『顔じゃわからないでしょ』

(まあまあ。ヤバいと思ったら魔石を飲むから、吉野さんが魔法で吹き飛ばしてよ)

『また丸投げするつもりね』

(俺じゃ細かい魔力の制御ができないし、人間をサイコロみたいに切り刻んじゃうかもしれないよ)

『う……忘れてたのに。地上でサイコロはちょっと……』

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