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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第八章

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2025年5月24日(土)奥田くんのお部屋拝見

 続いて、奥田くんの学校に近いグランセキュール金沢へ移動。

 江口さんに先導してもらい、地下の駐車場に車を入れる。



「こちらは海が近いので、津波やゲリラ豪雨の際には、地下駐車場を完全防水のために封鎖する構造になっています」

「止水板だと、完全に水を防ぐのは難しいと思うが?」

 真司が問い返す。


「ここでは“防水シャッター方式”を採用しています。緊急時には鋼製シャッターが自動で降り、周囲のシール材が発泡して気密を確保します。内部の気圧をわずかに上げることで、水の浸入を防ぐんです」

「なるほど、気圧制御までしてるのか……」

「ええ。駐車場内は独立した空調と電源系統を備えています。万が一、水が引かない場合でも、車両用リフトで上階へ避難させられます」



 江口さんがタブレット端末を操作すると、床のLEDライトが誘導するように順番で光を放ち、ターンテーブルが静かに回転を始めた。

 駆動音すら感じさせず、プラットフォーム全体が滑るように動き出す。

 大型の機械を動かしているというより、まるで巨大な生き物が呼吸しているように、静かに動き続ける。



「これは……SF映画に出てくる宇宙船の発着場みたいだな」

 真司も思わず身を乗り出す。


「スゴい……ホントに空に飛び出しそう」

「高級車をお持ちの方が多いので、車もしっかり守れるよう設計されています」

「そりゃまあ、フェラーリを何十台も水に沈めましたなんてことになったら、管理責任取るのもタイヘンですよね」

 俺もぽかんと開けていた口を閉じ、つい軽口を叩いた



「それで、奥田くんはどう? ここは気に入ったかい?」

 真司は奥田くんに尋ねる。


「は、はい。そりゃあもう……。大学はすぐそこですし、駅にも直結してて、文句のつけようがないですよ」

「ここからナンブまで、車で二十分ってところか。電車だともう少しかかるな。ついでに車も買っちゃえば?」

「免許は持ってますけど、このへんって運転荒い人が多いんですよね。買っても怖くて乗れませんよ」

 奥田くんはブルブルと顔と手を同時に振る。


「……でも、ちょっとだけ、あのターンテーブルに車を乗せてみたいとは思いますよ」

「わかる。ギミック感満載だよね」

 俺も大きく頷く。


「奥田さん、免許持ってるんだ。アタシも免許取ろうかな。電車でナンブまで行くの、けっこう面倒だし」

「免許は取っておいたほうがいいだろうな。いざってとき、車を動かせるだけでだいぶ違う」

「教習所代も経費で落ちる?」

「しっかりしてんな……るわね。まあ探索者なら、遠征の足になるからアリだろ……だね」



『ちょっと山村さん、しっかりして。言葉遣い! だいぶ崩れてきたわよ』

(大丈夫だって。ただちょっと……あの宇宙船みたいな駐車場に、意識を持っていかれただけ)



「あの……ご気分でも悪くなりましたか?」

 江口さんが気遣うように俺のほうを見る。


「い、いえっ。大丈夫です。ちょっとあちこち見たから、疲れちゃったかなー……なんて思ったり」

 慌てて首を振ると、江口さんは優しく微笑んだ。


「そうですね。案内が長くなってしまいました。奥田様の部屋の内見が終わりましたら、すぐお昼休憩にしましょう。近くにおすすめのレストランがありますので、予約を入れておきますね」


 江口さんは歩きながら、手早くスマホに指を滑らせていく。


 その横で、吉野さんはすっかり免許を取る気になったようだ。

 ダンジョン遠征の話を始める。



「車を買ったら、どこか遠くのダンジョンも見に行ってみようかしら」

「初めての場所には、一人で行かないようにね。絡まれたら危ないから」

「わかってますって。ちゃんと安全第一で行動します」

「いや、吉野さんの──美玲の、魔法の威力を知らずに襲いかかってくるヤツがいたら、かわいそうでしょ?」

「は? 心配してんの、そっち?」



 プンスカしている吉野さんを放置しつつ、部屋を内見する。


 3階か5階を選べるというが、奥田くんは3階に決めた。


「あんまり高層階だと落ち着かないんですよ」

「まあ、下の階のほうが、なにかあったときに逃げ出しやすいからいいんじゃない?」

「ですよね」



 江口さんは壁のパネルにカードキーをかざした。

 小さな赤いランプが青に変わり、ロックが外れたことを示す。

 一見継ぎ目のない金属製のドアが、中央からプシュッと左右にスライドして開いた。


「お、カッコいい。ドアに厚みがあるし、エアロックの解除みたいだな」

「この建物を設計した人、絶対トレッキーですよ。駐車場のリフトが無音で動いたのに、このサイズのドアを開けるのに音が立つなんて、おかしいと思いませんか?」

「あー、そういや、エンタープライズ号でクルーが出入りするときの“シュッ”って音に似てるな」


 俺がそう言うと、江口さんが微笑んだ。


「お部屋のドアは追加オプションで選ぶことが出来ます。こちらはセキュリティ強化と防音を兼ねたタイプで、前のオーナーが設置したものがそのまま残っているんです。通常のタイプに戻すことも出来ますよ?」

「いやあ、全然このままでいいですっ!」

 奥田くんが慌てて断る。


「このドアなら、強盗が忍び込んでも、ピッキングのしようがないな」

 真司も頷く。



 部屋の中は無機質なデザインで、リノリウム調の床に、スチールとガラスを組み合わせた家具が並ぶ。

 江口さんが壁のパネルに手をかざすと、ふわりと間接照明が灯り、続いて天井のライトが順に点灯していく。

 ブラインドが自動で開き、差し込む光の強さを感知したように、照明がわずかに減光する。

 リビングの大きな窓からは、大学の敷地が一望できた。



「スゲ……スゴいですね、こんな細かいところまで全自動なんて」

 俺は感心して、思わず天井を見上げた。


「AIが照明の明るさを調整してくれるんです。天気や時間帯にも合わせてくれますよ。もちろん手動や、音声操作でも切り替え可能です」

「はあ……ハイテク過ぎる」



 吉野さんの部屋はファミリー層が使いそうな温かみがあったが、こっちはウィリアム・ギブスンにハマった独身男の部屋といった趣がある。


「背の高い家具がないから、やけに部屋が広く感じるな」

「実際広いですよ。壁掛けテレビをつけたとして、反対側にソファ置いたら、たぶんリモコン届かないですよ」

「アパートだと1Kが7、8部屋分くらいか。そのうち、玄関からすぐのところに布団敷いて寝てそうだな」

「う……それは、そうなるかもしれません」

「部屋ん中の移動用に、スケボーでも買ったらいいんじゃない?」


 俺がそう言うと、奥田くんも乗り気になってきた。


「だったら自転車を買って、そのまま学校と部屋の行き来に使ったほうがいいかもしれません」

「なるほど、その手があったか。なら、吉野さんのマンションにあった地下の部屋みたいに、自転車で部屋の中まで乗り付けるんだよ。カッコよくない?」

「秘密基地っぽいですね。リモコンでエレベーターを呼んで、部屋のドアも遠隔で操作出来たら、一度も足をつかずに部屋まで入れますよ。いっそのこと、外国の家みたいに靴を脱がない生活にしてみようかな」

「なにズボラなこと言ってんのよ。すぐに部屋が泥だらけになるわよ。靴くらい、ちゃんと脱ぎなさい」

「は、はい……」

 盛り上がっていたところで吉野さんにたしなめられ、奥田くんがしゅんと肩を落とした。



 吉野さんの部屋とは若干部屋の設備が違うので、改めて江口さんに使い方を説明してもらう。


「備え付けの家具は、そのままお使いになりますか?」

「はい、そうします。ここなら今のアパートも近いですし、荷物も少ないので、すぐに引っ越せそうです」


 奥田くんはすっかり部屋が気に入ったようで、その場で賃貸契約を済ませた。

先日地下駐車場が水没したニュースをやってて、あれを防ぐ手段はないのか考えていたら、どんどんSFチックな設備の描写が増え、またしても、マンションの話が終わらなくなりました。

次で終わる……はず。

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