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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第八章

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2025年5月23日(金)落札!

「あとちょっとで締め切りですね。今いくらですか!?」

 奥田くんは、息を切らせて事務所に駆け込んできた。


「走ってきたのか? タクシー使えって言ったのに。──今、1台6千万ってところかな」

「3台で1億8千万円……質量分析装置を買っても、何千万かお釣りが来ますね。いや、だったら透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡を買うべきか……」

 奥田くんは腕を組んでアレコレと妄想を膨らませる。


「まあまあ、一気に買おうとするな。必要な機材は順番で買うから」

 俺は奥田くんをなだめる。


 三人で一緒にオークションを観戦。

 コンビニで買ってきた弁当を食べながら、最後の競り合いを見守る。


 延長なしのオークションなので、最後の瞬間に一番高値を出した人間が落札する。

 3つのスマホは別々に出品されているので、値段に多少のばらつきはあるが、ほぼ同じ値段だ。



「青いスマホが一番人気だな」

「性能はほぼ一緒だから、あとは気に入った色で選ぶしかないんじゃない?」

「コメント欄に【iPhoneはないんですか?】ってありますよ」

「iPhoneは中古でも高いからねえ。リクエストがあったら別料金で対応しようか」

「いくら高いって言ったって、1台1億近い値段がつくなら、誤差の範囲だろ」

「んじゃあ、そのうちiPhoneも混ぜるよ」

 俺はそう言って肩をすくめた。



「そろそろ時間だぞ」

 真司が時計を見る。


「……見てるだけなのに、手に汗が出てきた」

「わかります。ボクもなんか体が熱くなってきました」


 最高額は次々と塗り替えられていく。


「6,890万……7,200……ここまでか?」

「行け! もう一声っ!」

「差せっ! 差し切れーーっ!」


 俺たちは完全に競馬場のオッサンと化していた。


「ここまで来たら1億出るでしょー!」

「どうかな……8900万っ!」

「来い、来いっ! 追い込めぇぇぇっ!」


 落札の残り時間を示すタイマーが赤くなる。


 固唾を飲み、心臓の鼓動だけが耳に響く。


 締め切られた瞬間、オークション画面に「SOLD OUT」の文字が並んだ。

 すぐに最終価格を確認する。



「青9,800万、シルバー9400万、黒9,520万で──落札っ!」

「だーっ、億に届かなかったーーー!!」

 俺は足を踏み鳴らす。


「いや、でも凄いじゃないですか。全部で3億近くまでいきましたよっ!」

 奥田くんも興奮した様子で手を叩く。


「締めて2億8千720万。ここから法人税や地方税を引くと──残り2億くらいか」

 真司は最終価格を見てスマホの電卓を叩く。


「マジ!? そんなに税金引かれるの??」

「原価が5千円のスマホだぜ? ほぼ全額が課税対象になるんだよ」

「クッソ。1億も税金で持っていかれるのかよ!」

「そういうこと。なるべく経費を使え」

「んじゃあ、さっき言ってた要塞マンションは、社宅扱いにしようぜ。家賃はすべて経費だっ!」

 俺は机を叩く。


「それはまた考えるが……その前に、今回のオークションの取り分を計算しよう。2億8千720万から法人+地方税率をざっくり 30%引いて──その半分を会社の内部留保とする。もう半分は、インセンティブとして分配しよう」

 真司はエクセルを開いて計算を始める。


「オレと荘太郎が役員報酬として30%ずつ、奥田くんと吉野さんで残りを20%ずつ分けると──」


「オレと荘太郎が30,156,225円、奥田くんたちが20,104,150円だな」

「さ、3千万か……ふーん、まあまあだな」


 内心では小躍りしたいほどだったが、奥田くんの手前、余裕ぶってみせる。

 社会人たるもの、大金を前に無様に舞い上がってる姿を見せるのはよろしくない……と思う。


『カッコつけたいだけでしょ?』

 頭の中で吉野さんがツッコんでくる。


(いや、教育的配慮だ。あぶく銭に浮かれる大人の姿を、学生に見せるわけにはいかない)

『さっきは競馬場のおじさんたちみたいに盛り上がってたくせに』

(それはそれ、これはこれ)



「2千万──! そ、そんなにもらっていいんですか!?」

 奥田くんはオロオロしながら尋ねる。


「これはスマホのインセンティブだから、今月ダンジョンで稼いだ分も計算すると、数十万ずつ追加になるぞ」

 真司は淡々と計算を続ける。



(真司って、元銀行員らしいというか、どんな大金も“数字”としてしか見てない感じでさ。こういうとこ、ちょっと羨ましいんだよな)

『山村さんにはない落ち着きよね。お金にも女の人にもガツガツしないけど、サラーっと持ってく感じ。そういうのが羨ましいんでしょ?』

(だって、“デキる男”って感じで、ズルいじゃん)

『山村さんもガツガツするタイプじゃないけど……うまくいかないのよね』

(それを言っちゃあ、オシマイよ)

『別に悪く言ってるつもりはないんだけど……逆に言うと、タイミングを逃してばかりいる感じ?』

(おい、そこは慰めるところじゃないのか?)

『あら、失礼。根が正直なもので』

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