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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第八章

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2025年5月21日(水)俺のやるべきこと

「そうですか。──向井さんは前職が警察官ですよね?」

 唐突に真司が尋ねる。


「ん? ああ、そうだが……。よく知ってるな」

「では、さっきの向井さんの言葉は、聞かなかったことにします」

「お、おいっ──それとこれとは関係ないだろ!?」

 向井は椅子から腰を浮かせる。


「向井さんが直接手を出すのは、絶対にダメです。今まで証拠がなくて見逃していた連中を、急に証拠が集まって、逮捕しました──なんてことになったら、誰だって怪しみます」

「あー、しかも、そこに元警察官が絡んでたなんて知られたら、マスコミが黙ってないかもな。自作自演だとか、証拠の捏造だって言われそうだ」

 俺も言い添える。


「だから──向井さんは手を出さないでください。オレと山村でやります」

 真司の声は静かだが、揺るぎない。


「それに、向井さんの根っこの部分では、やっぱり法を遵守する気持ちが強いんですよ。それだと、いざというときに、法に縛られて身動きが取れなくなるかもしれません」


 そう言われ、向井は腕を組んで目をつぶる。


「……確かにそういう部分はあるかもしれん」

 しばらく考えて、向井も認める。


「自分が出来ないことは、出来る人にまかせてみればいいんです。適材適所です。向井さんは裏方に徹して、情報だけ流してください」

「それじゃあ──」

「ウチとしても、暴力団がいなくなれば安心して探索が出来ますし。もしそのために、暴力団とやり合うことになったとしても、向井さんが矢面に立つ必要はないです」

「すまん。──頼む」

 向井は俺たちに頭を下げた。


「安心してください。何しろ、ウチには殺しても死なない優秀な人材がいますので」

 真司は俺を見て意味ありげに笑う。


「は? 俺!?」

 俺はギョっとして自分を指差した。


「盗聴はその気になればいつでも出来るので、まず、ナンブの内通者から掃除を始めましょうか」

 驚愕する俺を放置して、真司は話を進める。


「いつでも出来る──か。頼もしいね。内通者はどうやって見つける?」

「そうですね。まず、建物内に仕掛けてある盗聴器などを回収して、誰がその情報を調べているのか辿ってみましょう」

「そんなことが可能なのか?」

「まあ、そういうスキルがあります──とだけ言っておきます」

「だったら、建物内を見て回る権限がいるな……」

 向井は思案するように顎を撫でる。


「コンサルタントとして雇ってくれればいいんじゃないですか? 外向きには“情報の精査をしている”と説明してください」

「なるほど。そうしよう」

 向井は頷いた。


 内通者の洗い出しは、明日から始めることにして向井は帰っていった。



「──真面目な人だよなあ、向井さん」

 俺が呟くと、真司も頷く。


「そんな人が敢えて、違法であっても盗聴を仕掛けたいっていうんだから、ナンブの内部は相当腐ってるかもな」

「そりゃ大変。明日は忙しくなりそうだな」

 俺はそう言いながら、最後のデザートに手を伸ばした。


「まだ食うつもりか──、ちょっと早いが今日の業務はここまでにしよう。オレはスポーツジムに行く」

 真司は手早く机の上を片付ける。


「頑張るねえ。今日も桐ヶ谷さんは来るのか?」

「いや、今日は来ない。だが、少しずつでも体力を付けておかないと。彼女に無様な姿を見せたくない」

「エライ。そういう努力が大事なのよ。今のオマエじゃ、一緒にランニングしましょうと誘っても、置いていかれそうだしな」

「それな。基礎体力が違いすぎるんだよ。こっちは、たまにヨットに乗るくらいで、ほとんど体動かしてなかったし」

「ブルジョワめ。でも、探索者になって、だいぶ体を動かすようになったじゃないか。腹回りがスッキリしてきてないか?」

「ああ、それはあるな。肩こりもなくなったし」

「いいねえ。俺も何か新しいことを始めようかなー。毎日ダンジョンと家の往復じゃ、サラリーマンと変わらん」

 俺はため息をついた。


「楽器を習うとか?」

「それって楽しいか? スキルを使えば、プロの演奏をマネできちゃうからなあ……」

「コピー出来ないもの……将棋とか囲碁は、どうだ?」

「うーん、頭を使うのは、あんまりそそられないなあ」

「気が乗らなくても、やってるうちに気に入るかもしれないだろ。なんでもいいから、まずやってみろ」

「ダヨネー」



 ***



 真司と別れて、帰り道のスーパーで晩のおかずを買って袋詰めしていると、地域コミュニティの掲示板が目についた。野良猫の譲渡会や、草野球など、何かしらの団体のチラシが貼ってある。


 その中の、坐禅会のチラシに目が留まった。

 月2回やっている無料の坐禅会で、土曜日の朝5時に始まる。

 特に予約もいらないらしい。


「坐禅か……」


 常に二人分の意識を背負っている俺は、こういうイベントで少しでも心を穏やかにする必要があるかもしれない。

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