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リファイン ─ 誰でもない男の、意外な選択と、その幸福 ─ そして世界は変わる  作者: かおる。
第七章

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2025年5月21日(水)いよいよオークション当日

 今朝は、朝食を取りながら真司の惚気話から始まった。


 昨日スポーツクラブに入会したら、早速オリジナルの桐ヶ谷さんと遭遇したらしい。しかも向こうも真司のことを覚えていたそうで──自慢げにドヤ顔を見せてくる。

 暑苦しいヤツだ。


 本人いわく、あくまで本音は隠しつつ、さわやかな好青年を完璧に演じ切ったとのこと。


「好青年? いや、中年だろ、自分を美化しすぎるな」

 と、ツッコむ。


 まあいい。要は、白い歯をキラッとさせて、終始さわやかオーラをまき散らしていたわけだ。



 真剣に筋トレに取り組む姿を見せつけ、自然とマシンの使い方を教えてもらう流れに。

 もちろん、筋トレ好きな桐ヶ谷さんなら、そういう展開になると踏んでのことだ。



「策士だ」

「何言ってんだ。最初が肝心なんだよ。出だしでコケたら、挽回するのは大変なんだぞ」

「へー、ソウデスカ」



 そして、友人宅に居候していることをさりげなくアピールし、引っ越し先を探してると匂わせる。



「俺をダシに使うなよ」

「まあまあ、嘘をついてるわけじゃないし」



 インテリア関係の仕事をしている桐ヶ谷さんは、建築会社や不動産関係に詳しい。

 会話がはずんだため、そのまま桐ヶ谷さんのお気に入りのカフェに行き、一緒に夕食を取った。

 脳内桐ヶ谷さんから仕入れた情報のおかげで、彼女の好みは全て把握している。メニュー選びも抜かりがない。


 食事中も、筋トレや引っ越し、仕事の話題で会話が途切れない。

 別れ際はサッと切り上げる。ガツガツしないで、次へつなげるところも抜け目がない。



「──とまあ、こんな感じだったんだよ。スタートとしてはいい感じだろ?」

 真司はご満悦だ。


「オマエ、恋愛偏差値が高過ぎるだろ……」

 俺は、逆に渋い顔になる。



 こういう戦術的な駆け引きみたいなものは、俺には到底マネできない。

 この二人、案外すぐにくっつきそうだ。



 ***



 オークションのスタートは昼なので、午前中はライブ配信の準備にあてる。

 事務所に置いてあった荷物や装備を持って、ダンジョンへ向かう。


 真司は、ライトの位置や、手ブレの許容範囲を確認する。


 二人で話し合ったが、今日のライブ中継には、桐ヶ谷さんの姿で出ることにした。

 なるべく顔は出さないつもりだが、吉野さんだと、すでにナンブでは凄腕の魔法使いとして知られているので、顔を隠したところで意味がない。


 その点、派手にイメチェンしている桐ヶ谷さんであれば、カメラに映ったとしても、オリジナルの桐ヶ谷さんにも気づかれないだろう。


 そして、更にオリジナルの桐ヶ谷さんと差別化するため、ある衣装を準備していた。

 戦うヒロインの定番アイテム、黒の”キャットスーツ”だ。

 野暮ったい探索着と違って体の線がくっきり出るし、桐ヶ谷さんの魅力を十二分に活かすことが出来る。特に胸元の破壊力といったら……。



 ただし問題がひとつある。弓を使うなら胸をカバーするチェストガードが必須だが、それを付けるとせっかくの見映えが台無しになる。胸を強調するスーツなのに、胸が隠れてしまうなんて本末転倒だ。


 そこで用意したのが、クロスボウだ。ハンドガンのように構えて撃てるので、チェストガードは必要ない。なんて素晴らしい。


 少し前まで、日本ではクロスボウを所持することは出来なかったが、ダンジョンが出来た影響で法改正が行われ、今ではダンジョンショップでも買える。




 さて、ラノベではチート武器として描かれがちなクロスボウ。たいていは、威力は高いが連射が効かない──みたいに説明される。


 だが、最新のクロスボウは、ちょっと違う。

 もちろん、現代でも一発ずつ矢を装填するタイプはあるのだが、今回俺が選んだのは、本体にマガジンを持ち、コッキング操作で矢を素早く装填できるタイプだ。


 ベアボウを使ってるときみたいに1秒間に4連射──みたいなマネは出来ないが、装填スピードは1秒を切る。

 矢を使い切ったらマガジンを開けないと装填出来ないので、乱戦に向かないという欠点はあるが、そこはまあ、ロマン武器ということで。


 さすがに、大型の異生物を殺せるほどの威力はないが、ダンジョン産に変えてしまえばどうにかなるはずだ。

 なにせ、おもちゃみたいな魔法のステッキが、ダンジョン産になった途端、とんでもない威力が出せるようになったんだからな。



 まずは、キャットスーツとクロスボウをダンジョン産にすることにした。


 ノーマルの状態で異生物を撃ってみたが、相撲取りみたいなバルクスを倒すことは出来るが、ギリギリといったところ。一般の探索者が、ファン層で使うのを想定した武器なのかもしれない。



「そういや、奥田くんが言ってた”イデア”って、結局何なんだろうな。最初の頃は、脳内吉野さんがよく”ダンジョンにいる神様みたいなものにお祈りすれば通じる”──なんて言ってたけど」

「自身の深層心理にある理想なのか、それとも──ダンジョンに漂う神様的な無意識の集合体なのか」

「制約はあるけど、ちゃんとイメージしすれば理想のかたちで現れるんだから、やっぱカミサマなのかねー」



 俺は、武器の変更を無意識に刷り込もうと、しばらくクロスボウで異生物を狩り続ける。


 そのあと、桐ヶ谷さんから吉野さんに切り替え、さらにまた桐ヶ谷さんにスイッチしてみた。

 ベアボウではなく、ちゃんとクロスボウを持って現れた。しかも──キャットスーツ姿だ。



「よかった。ちゃんと装備の変更ができたぞ。せっかくキャットスーツを買ったのに、いつもの探索着姿に変わったらシャレにならん」

「信じるものは救われる──だな」

「キャットスーツとクロスボウは、これでいいだろ。あとは、昨日魔力切れで作れなかったポンチョもダンジョン産に変えておこう」


 桐ヶ谷さんの戦闘スタイルだとポンチョを使うことはないと思うが、一応予備として事務所に置いておくつもりだ。



 俺はダンジョン産になったポンチョをリュックにしまい、時計を見る。

 

「まだ時間があるな。キャットスーツとクロスボウの性能確認でもするか。この薄さで防弾・防刃効果があるなんて、スゴくないか?」

 キャットスーツ姿を見せつけるように、真司の前でクルクルと回る。


「……正直、目の毒だな。だが、薄い分、衝撃は吸収しないと思うぞ」

 真司の目が少し泳ぐ。


「まあまあ。これもロマンよ。ついでにサーベリオンでクロスボウの試し打ちをしてみようぜ」

「5層まで行ってると遅くなるんじゃないか? オークションの開始に間に合うか?」

「トレーニングだと思え。桐ヶ谷さんは毎朝10キロ走ってるぞ。走ればすぐに着く」

「ぐっ……」

 そう言われて、真司はしぶしぶ走り出す。



 ダンジョン産に変わったクロスボウで、魔力を込めずに異生物を撃ってみる。

 ノーマル状態ではバルクスを倒すのが精一杯だったが、今は強力な銃で撃たれたような風穴が開いた。



「簡単に異生物が吹っ飛んでくぞ。ダーティーハリーみたいじゃないか?」

「見た感じ44マグナム弾の数倍は威力があるな。俺が撃ったら手首が折れるかもしれん」

「ああ、そのせいか。なんか手首が痛いと思った」

 そう言って手首を押さえる。


「おい、マジで折れるのかよ!?」

 真司がぎょっとする。


「冗談だって」



 ムスっとした顔の真司を尻目に、5層奥までランニング。

 寝転がっているサーベリオンのそばに、誰もいないのを確認する。

 自重なしで撃った場合、周囲にどれだけ被害が出るのかわからないので、十分に安全マージンを取る。



「んじゃ、撃つぞ」

 俺はクロスボウを構え、魔力を込める。


 殺気に気がついたサーベリオンが素早く起き上がり、俺のほうを見る。

 俺が攻撃しようとしているのに気づくと、こちらに向かって一直線に駆け出した。



 体が魔力をまとい、オーラがクロスボウを覆う。

 トリガーを引いた途端、鋭い炸裂音と共に突風が舞い、サーベリオンの頭にバカでかい穴が開いた……っていうか、体の上半分がちぎれ飛んだ。

 残った足の部分は、踏み出した前足が地に着く前に灰になった。



「ロケットランチャーかよ……」

 真司が呆然と呟く。


「込めた魔力の分だけ威力が増す感じだな」

「魔石がバラバラになっちまうから、少し自重してくれ」

「だよね」



 これで配信の準備は完了だ。

※日本では、2022年3月15日の改正銃刀法施行により、クロスボウの所持は原則禁止され許可制となりましたが、作中では、拳銃と同じくダンジョン内での使用なら可、ということにします。

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