黄色い雲
それから、いくらかの時が経った。
アオの息子、ミツキは結局、羽根突き大会に勝手に出た。
しかし大人に負け、しょぼしょぼと帰ってくると、アオにまた叱られた。
本格的な秋になると種子の収穫に追われ、アオも奥さんもミツキもそれを酒に漬ける作業に追われた。
やがて冬が訪れ一面に雪景色が広がった。
この時期のアオはあまり商売には出ず、酒小屋で沢山の仕込んだ瓶の中をかき回しつづける。
秋の間に貯め込んだ食料を細々と食べ、冬をやり過ごした。
雪も少なくなり、道もだいぶ通りやすくなってきたころ、ミツキも遊びに出るようになった。
旅館通りにはミツキと同じころの子供も多く、真冬の間も本当は遊びに行きたくてウズウズしていたのだ。
アオもそろそろ、食料も尽きてきたころということで、背負える程度の酒と金をもって集落か都に行くことにした。
よく晴れた寒い日だった。
通いなれた道を進む。山道だというのに今日も風が強い。
それに風の中に妙な匂いを感じた。
集落につくと、干し肉を買った旅館のものも同じことを言った。
「最近、風が匂う。 何の匂いじゃろか・・・」
それでも晴れて歩きやすかったこともあり、都まで足を伸ばした。
都と集落の間には平野になる場所があり、そこ一面には地元の農家が田を植えていた。
チラホラ雪が残っている所もある。
さすがに平野になると風が強かった。アオは体の芯まで凍えた。あと二里も歩けばまた、木々の茂る山道になるため
いつもこの時期のこの場所は我慢のしどころだった。
そして、ちらっと田んぼの向こうに広がる遠方の山々を見た。
「!」
アオは足を止めた。
遠方の山々の空から、見たこともない黄色い雲がアオの居る方角に向かって広がり始めた。
こんな雲は生まれて初めて見る。
アオは嫌な予感がして、引き換えした。
足早に。
途中もう一度旅館などに寄り黄色い雲のことを話すと、他にも見たという者がたくさんいた。
中でも年寄りの旅人がゲホゲホと咳をしながら言った。
「あの黄色い雲は不吉の象徴じゃ。 わしが若いころもあの雲が出たあと、原因不明の病が流行った。
長い咳が何日も続いたあと、死んだものも何人も出た。
もうすぐ、ここいら辺にも強い風と共に来るはずじゃ、あまり家から出ないほうがええ。」
アオは急いで山道を家に向かった。
途中木々の間からちらっと見える遠方の山々の上の空はどんどん黄色い雲が大きく支配している。
家に着くと、奥さんが薪を割っていた。
「あら あんた早いね。 どうしたの?」
「家に入れ! 今すぐだ! ミツキはどうした?」
「だって朝、遊びに行ったきりだよ どうしたんだよアンタ」
アオの様子に異変を感じ取った奥さんは不安そうに聞いた。
その時だった。
ビョオオオオオオオオオオオオオオオオ大オオオオオォォォォォォ・・・・・・
物凄く強い風がアオたちを襲った。
アオは妻を連れてすぐに家に入り戸を閉めた。
空気の入りそうなところは全部閉めた。
カタカタカタ・・・・ドドドドド・・・・
何かか吹き飛ばされたり当たったりする音がする。
「あんた、なんなのこの風」
「俺にもよくわからん。 それよりミツキはどこに遊び行った」
「さあ、マツん所だと思うけど、どこで遊んでいるかまでは・・・・」
強い風はどれほど続いただろうか・・・・
収まったころ、恐る恐る外にでると小屋の前の薪が少し風で荒れていて後は道具がいくつかどこかに飛んでしまっていた。
空を見上げると、やはり薄黄色い空が広がり不吉さを漂わせていた。だが風はもう穏やかなものに変わっていった。
奥さんが薪を拾うと風のせいなのか妙に埃っぽかった。
夕暮れになってミツキは帰ってきた。
すごい風だったと興奮していた。友達と外に居たが、風に沿って走るとうんと早く走れて楽しかったらしい。
おかげで体中埃だらけだ。パンパンと叩くと煙が立ちそうだった。
そんな埃さえも子供のミツキには楽しそうで、アオはなんだか安心した。
取り越し苦労だったのかもしれない。
囲炉裏に火をくべると酒小屋から、酒を持ってきた。
干し肉でいっぱいやり始め、奥さんはキノコを干したものを水で戻し味噌で汁を作った。
アオの小屋にはいつもの団欒がはじまった。