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親父

「ぷはー・・・」


ますにナミナミ注がれた果実酒を美味そうに一気に飲み干したミコトは満足そうに息を吐いた。

それを焚き火を挟んで満足そうに見つめ微笑みを浮かべるアオ


「ふ 今までいろんな客にオレの酒を飲ませたけど、あんたほど美味そうに飲む奴は初めてだな。」


ミコトは照れてニコッ笑いかえす。


「飲み食いだけが楽しみでして・・・これは枇杷ビワの酒ですね?」


「ほーわかるか? はははは 」


奥さんがミコトの持ってきた黒米をおむすびにしたものと、山菜の味噌焼きの乗った皿を持ってきて切り株の上に置いた。

ミコトの表情が見る見る明るく、瞳が輝く。山菜焼きの一つワラビを一本手に取る。

熱くて右手と左手でせわしく持ち替えながら口に運ぶ。

頬が赤く染まりこれ以上ないほど目じりが垂れ、首をもたげた。

思い出したように枡に酒をついで一口。飲み干すとミコトは、ほわーっと口をだらしなく開けたまま

余韻に浸っている。


「ふふふ ホント 面白い人だね この人」


奥さんもミコトの食べっぷり 呑みっぷりに笑みがこぼれた。


「ミツキは? 」


奥さんに酒の入ったますを手渡し、アオは優しく聞いた。


「泣きつかれて寝たわよ」


一口、酒をのむと奥さんはすぐにアオに枡を返した。


「私は先に寝かせてもらうよ。 今日はアンタの代わりに薪割ったから疲れたよ。」


「ああ。わるいな」


「じゃ ミコトさん ごゆっくり」


そう言うと奥さんは小屋のほうに帰っていった。


ミコトはおむすびを、ほおばりながら奥さんの後ろ姿を見送った。

すっかりほろ酔いだ。


「なんで ダメなんですか? 」


アオはおむすびを皿の上から持ったところだった。

ミコトはもう三杯目の酒を枡についだ。


「羽根突きなんて、別にいいじゃないですか。どこの子もやってますよ」


アオはとったおむすびを一口食べ酒を含み、枡を地面に置くとそのまま寝転がった。

木々の間から、立ち上る焚き火の煙が昇っていく。その奥には夜空に星が瞬いている。


「あんた、親は? 」


ミコトは不意に聞かれ首を横にふった。語るべき親の記憶はほとんどない。

アオは目線を夜空に向けたまま話をしだしだ。


「俺の親父が羽根突きだったからだよ。」


ミコトは飲もうとした酒を口の手前で止めた。


「親父がいつこの都に来たのかは知らないが、やはりその当時から羽根突きは人気があってな、体がでかくて力も強かったから、

あっというまに都一番の羽根突きものと、はやされたらしい。何年も連続で誰も親父には勝てなかったって話だ。

俺の母と出会い一緒になったのもその頃だったらしい。

だが酒好きで、女好きな親父はその大会で御門みかどからもらった褒美を全部、その年の内に使い果たすのさ。

遊ぶことで精一杯の親父は働くこともせず、普通の生活は母親が苦労して俺をたべさせてくれたんだ。

 俺が八つの頃だったか、御門が崩御ほうぎょしまだ子供の御門に変わったんだ。そしたら、しばらく羽根突き大会が中止になったんだ。


それで親父は困ったのさ。

なにせ自分には羽根突きしかない。おまけにその傲慢な態度に都の連中は辟易へきえきとしていた。

今更、普通の仕事がしたいって言ったって誰もがお断りだったのさ。

切羽詰った親父は、そのでかい体で脅しや詐欺、人様のものまで盗むようになった。

しょっちゅう、役人に捕まってついには罰として利き手の親指を切られ歯も何本も抜かれ、足もまともに動けんようなって戻ってきた。

もう別人だよ。

親父のおかげでどれだけ俺や母が肩身のせまい生活を強いられたと思う。

親父だけでなく俺も歩いているだけで石を投げつけられる始末さ。

なまじ大会で顔が売れているぶん、俺らはもう都に居続けることができんようになったのさ。


そんな男見捨てても罰はあたらんと思うんだが、

母は親父を見捨てず一緒にこの住処で生きていたがな、一年ほどで毒蛇に噛まれてすぐに死んだ。

幼いガキの俺はそんな・・・この世で一番忌み嫌う親父と一緒に暮らすしかなくなったんだ。

なんか気にいらん事があるとぶん殴られ、どうやって連れ込んだのか。

どっかのあばずれを連れてきたりして・・・・

こんな親父には絶対になるまい。

そう思って生きてきたのさ。


だから俺は羽根突きなんぞ 見るのも嫌でな。

いくら遊びだとしても、俺の息子には羽根突きなんぞさせたくないんだ。」


アオは上体を起こすと地面に置いた枡を持ち上げグビっと飲んだ。


「まぁ 親父は酒を作ることだけは得意でな。俺に自分の飲む酒を作らせるために色々教えた。

今の俺の稼業が成り立つのはあのころの親父の製法があってのことだからな。」


アオはまるで胸につかえていたものを吐き出すように、その長い話を語りきった。

だが、ミコトはだいぶ酔いがまわったのか、うつらうつらとして眠そうにしている。

それでもアオは、まだ語りつづけた。


「あんなボロボロの体になっても、

俺に話すことは若いころの自慢話ばかりでな、中でもあんた一番笑ったのは

”俺は陰陽師おんみょうじ”だとかいう話だったよ。

人様のため、神様のために地脈調査だ、祈祷だのする偉い方だろ? 陰陽師なんてのは・・・

あんだけ好き勝手生きている親父がそんなわけないって思ってたけどな・・・それでも実の父だからな

心のどこかで信じてみたりしたこともあったさ。


まっ 絶対に嘘なんだけどな、要するに生まれついての見栄っ張りだったんだろうなあの人は・・・」


語り終え、焚き火がだいぶ小さくなったことに気づいたアオが薪をくべようと火をみると

その奥ではすっかり寝てしまったミコトが目にはいった。

また口の右側だけをあげて笑うとアオは焚き火に土をかぶせ、ミコトを肩で担ぎ

小屋に運んでいく。


焚き火はまだ土の中でパチっと音をたてていた。



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