羽根突き
ミコトは囲炉裏を借り、持参の踏鞴鍋で黒米を炊いていた。
美味しそうなご飯の炊ける匂いが小屋の中を漂っている。
だがその幸せそうな匂いとは逆に気まずい空気が小屋の中を支配している。
「なんでだよ!! 俺だけ 羽根突きやっちゃいけないんだよ」
「お前、親の言う事が聞けないのか! いいか他に何の遊びもやったっていい。だがそれだけはダメだ」
アオと息子のミツキは部屋の奥でヒザを突き合わせて座っている。
息子のミツキは納得いかない顔で父親を睨みつけていた。
先ほどミツキが持っていたのは手製の羽子板だった。
旅の途中、ミコトも今各地で羽根突きが流行っていることは知っていた。
羽根突きとは、持ちやすく形を作った”羽子板”にでムクロジの実に鳥の羽を刺しこんだ”羽根”を打ち合うという遊戯で互いに打ち合い落としたら負け。
特に都の中ではもう何十年も前から大会があり、それに優勝したものは特別に御門から沢山の褒美ももらえるという。
毎年秋ごろにその大会があり、たくさんの観客で賑わうと聞いている。
「まぁまぁ、あんた子供の遊びだよ。そんな目くじら立てることは無いだろ」
見かねて慣れたように奥さんが囲炉裏の横においた鍋から夕食の汁を椀にもっている。
「遊びじゃない・・・・」
ミツキはヒザの上に置いた拳を強く握った。
「俺、羽根突きで食べていきたいんだ!! このあたりで俺より上手くつける奴なんて誰もいない」
まるで自分の人生をかけているかのような眼差しにアオはため息をついた。
「ダメだ。そんなモノで食っていけるほど世の中甘くはない。 考えなおせ」
そう言うとアオはおそらく一生懸命作った息子の羽子板を囲炉裏にくべた。
そして立ち上がると、小屋から出ていった。
息子のミツキは一層 拳を強く握りしめ泣き始めた。
「うううう・・・・父ちゃんのばかぁぁぁぁ」
しくしくと泣く子供の声が小屋の中に流れる。
ミコトは、どうしていいかわからず無言でいた。
「すみませんね お客さんのいるときに・・・」
奥さんがミコトに気をつかってくれた。
「あの、もう一回吹いたら、火から下ろしてしばらくしたら、出来上がりなんで・・私ちょっとモヨオしたみたいなんで、外に・・・」
ミコトは軽く笑みを作りながら小屋の外に出て戸を閉めた。
「はぁぁぁぁ」
その場で大きくため息をつく。
アオは隣の酒小屋から大きな瓢箪と枡を二つもって出てきた。
「悪いな・・・客の前で・・・・」
枡でアオは暗がりの方を指した。
そこには巻き割用の切り株があり、たまにココで焚き火でもするのか、灰が固まっている場所だった。
「たまになココで一人でやるのさ。 ま 適当に座ってくれ。 おーぅい! なんか持ってきてくれ」
「はーい」
アオの呼びかけに小屋の方から大きな声で奥さんから返事があった。