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酒小屋

濃い紺色に染まった東の空にはキラキラと星達が輝きだした。

木々の中に囲まれたアオの住処は本当に小さな小屋だった。 

だがその隣に立っている酒を造る建物の方は大きいものだった。


「一晩、お世話になります。ミコトと申します。」


「あら 珍しいこんな山の中に。狭いですけど、どうぞ」


アオの奥さんは丁寧に挨拶をしてくれた。長い髪を後ろでたばねている。意外に若い。

こんな山の中で生活しているのでさぞ、簡素な生活だろうと思っていたミコトは、すこし驚いた。

着物もそう高級ではないが割と質のいいもので、都で売られているものだろう。小屋の中には生活に必要なものは何でも揃っていた。

このアオという人物はどうやらずいぶん真面目に仕事をこなしているらしい。


小屋の中の囲炉裏で夕食ゆうげの仕度をしている真っ最中の様子だ。


「まっ ゆっくりしてくれ。」


アオはそう言うと荷車に積まれている酒瓶を隣接する建物の中にしまいだした。 

ミコトは荷物を小屋の土間に置くと、あわてて手伝おうと外に出て荷車の上から瓶を持とうとした。

ズシっとした重量感が腰まで響く。 これはかなり重労働だ。


「よっ!」


それでも慣れない力を出し瓶を持ち上げよろよろと運んだ。


「はっはっは 落とすなよ。 もし落としたら一年はただ働きだ 」


小屋の中には大小様々な沢山の瓶が並んでいて天井からは干した花や草が数種つるされている。


「へー、アオさん。 すごいな。研究家なんですね。」


ミコトが感嘆の声を上げていると、最後の瓶を持ったアオが棚に瓶を収めながらまた、口の右側だけをあげて笑った。


「俺がすごいんじゃないのさ・・・・・・まっ いいだろ、そんな話は」


アオとミコトは酒小屋の戸を閉め、住処に入ろうとした時だった。


「あっ 父ちゃん・・・」


泥だらけになった子供が帰ってきた。顔つきは奥さんに似ているが背が高い所はアオゆずりと言ったところか。

 手には板のようなものを持っている。

なぜか 気まずぞうにこちらを見て立ち尽くしている。

ミコトが挨拶をしようとすると、アオが先に息子に近づいた。

その足取りには凄みがあった。


バチン!!


いきなりアオが子供の頬を引っ叩いた。

今まで穏和だったアオの印象に似合わなかっただけにミコトはビックリして言葉が出ない。


「ミツキ。 また約束をやぶったな。」


山の中の小屋の前で少しの間、沈黙が訪れた。


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