番外編② 忍者の里15
恐らく紀香さんは、俺達がこの里に来た目的を最初から察していたのだろう。
失礼ながら典膳さんは愛染顔の割には演技が苦手なようなので、あえて伝えなかったのだと思われる。
「ど、どういうことなんだってばよ」
「つまり太郎さん――というより、恐らく三人の目的は、この里における一夫多妻制の恩恵を授かりたいということなのでしょう」
「っ!? なん……、だと……」
典膳さんのキャラがブレブレだが、それはひとまず置いておくとしよう。
この展開も予想していなかったワケではないので、大きな問題ではない。
というか、俺は根がチキンなので紀香さんの察しの良さは正直かなり助かる。
ラブコメなどでは度々「自分から告白する勇気はないから、それとなく好き好きアピールをして察してよ系のヒロイン」が登場するが、今の俺はまさにそんな状態だった。
覚悟は決めていたが、だからと言って勇気がいらないワケではないから少なくともノリ気ではなかったのである。
それもあって、紀香さんのイケメンブームにはトゥンクせざるを得ない。
これがもし鈍感系主人公であれば基本的に気付かないし、気付いたとしても猜疑心が強かったり自分に自信がないタイプであれば自分から動くことはない。
しかし、現実では察しが良くて気遣い上手の方がモテるし、スパダリの素養がある。
物語の主人公であれば完璧すぎて面白みに欠けるが、本来であれば紀香さんのようなタイプこそイケメンと呼ぶに相応しい。
若い頃はさぞかし女性にモテていたのだろうなぁ……
「おい太郎君、今私の妻をエロい目で見たよね?」
「誤解です。むしろ尊敬の眼差しで見ました」
「本当かな? 二股をかけるような男は信用――」
「ちなみに夫には、私の他に二人の妻がいます」
「の、紀香ぁ~!」
うむ、完全に尻に敷かれているな。
俺はああならないように注意しよう。
しかし、二人の反応を見る限りそこまで怒っている様子がないように思える。
念のため詩緒ちゃんの反応を窺うが、今のところ危険はないようだ。
いきなり殺しにくる可能性もあったので、正直少し拍子抜けした気分だ。
……まあ、まだ油断はできないが。
「オホン、三人とも警戒していたようですが、いきなり手を出すようなことはないので安心してください。父や夫にも、相手がどんな男であろうとも手を出さないよう注意してありますので」
一瞬、やはり俺達の目的を伝えていたのか? と思ったが、これは恐らく単純に釘を刺したのだろうな……




