番外編② 忍者の里13
「まあ、夫はこの通り少し過保護なところがありますが、本当に遠目から監視させていただけですのでご安心ください。静香も含め、皆様のプライベートはちゃんと守られていますよ」
それを聞いて安心……、していいのだろうか?
一体どの程度離れた状況から監視していたかはわからないが、少なくとも俺達はそれに気づいていなかったワケで、ボロを出していないとは正直言い難い。
会社で俺達の関係は秘密にしていたとはいえ、人目のないところではこっそりイチイチャしていたこともあった。
もしそれをさらにコッソリ覗かれていたとしたら、嫌過ぎるというか恥ずか死しかねない。
クイクイ
地味に絶望していた俺の服の裾を、詩緒ちゃんが2回引っ張ってくる。
思わずホッコリする萌え萌えアクションだが、一応これは予め取り決めていた合図である。
服の裾を2回引っ張るのは、相手が嘘をついていないサインだ。
「……ありがとう詩緒ちゃん。少し落ち着いたよ」
そして、それを相手に悟られないために、詩緒ちゃんの行動は俺を落ち着かせるためであったかのように装う。
「ご配慮いただきありがとうございます。……とはいえ、ある程度の状況は把握されているとお見受けします。ですので、単刀直入に本日ご挨拶に伺いました件について、お話させていただきます」
社会に出て覚えた正しいかどうかも不明な敬語を並べつつ、ゆっくりと膝をつく。
そして、手を八の字に構え、額を畳に打ち付けるように伏せる。
「静香さんのことが好きです! 交際及び同棲することを許していただけないでしょうか!」
俺がそう言った瞬間、広い和室が水を打ったように静まり返る。
「……え? そこから?」
最初に沈黙を破ったのは、襖の隙間から覗き見していた麗香さんだ。
盤外からの一手に少し戸惑うものの、誰も何もツッコまないので仕方なく俺が返答する。
「はい。交際については事後承諾になりますが、まずはそこからかなと」
というか、実際のところはまずここを認めてもらわなければ話にならないので、必須の確認なのである。
「……私はてっきり、娘をくださいとでも言われると思っていたのだがね」
「似たようなニュアンスではありますが、仮に私が同じ立場だったとして、そう言われるのは嫌だと感じました」
娘さんをください、というのは昔のドラマなどではありがちなセリフだが、実際に同じことを言う男はそこまでいないと思われる。
単純に、相手の父親に悪印象を与えやすいからだ。




