番外編② 忍者の里11
「夫――典膳が失礼しました。私は静香の母、紀香と申します。佐藤さん、柴咲さん、宜しくお願いしますね」
「「宜しくお願いします!」」
何事もなかったかのように笑顔で挨拶してくる紀香さんに典膳さんとは違う圧力を感じた俺は、背筋をピンと正して改めて挨拶をした。
詩緒ちゃんも同様の圧力を感じたのか、全く同じ反応をしていたのが少し面白い。
「本日は遠路はるばるお越しいただき、私も典膳も嬉しく思っています。恐らくですが、お二人と出会っていなければ静香はまだ帰郷することはなかったでしょう。ですから本当に、お二人には感謝しております」
そう言って紀香さんは改めて深々とお辞儀をする。
まさか、そんなことで感謝されるとは思っていなかったので逆に恐縮してしまう。
「い、いえ、むしろ感謝するのは私の方というか――」
「そんなことありませんよ! 太郎さんや詩緒ちゃんと出会っていなければ、今頃私は都会の闇に消えていたと思います! 正直、自分でも絶対に里に帰ることはないと思ってましたから……」
「そうですね。私も良くてセクシー女優デビュー、悪くてシャブ漬けにされて風呂に沈められているんじゃないか、くらいに思っていましたから」
「紀香!? お前、そんなことを考えていたのか!?」
手刀のダメージから復帰した典膳さんが、一瞬で元の位置に戻ってツッコミを入れる。
ツッコミですらこのスピード……、やはり忍者は伊達ではないということか。
「当然です。アナタは静香の身体能力なら安全だと信頼していたようですが、都会にはアルコールの強いお酒や薬物も流行っているのですよ? スピリタスとかご存じですか? 身体能力だけでどうにかなるような時代はとっくに終わっているのです」
「ス、スピリタス……? 新しい麻薬か何かか?」
「ほらやっぱり」
スピリタスはアルコール度数96度という、世界最高の純度を誇ると言われている酒だ。
成分のほとんどが純粋なエタノールであり、タバコの火程度でも引火するため非常に危ない酒である。
日本では消防法の第4類危険物に該当し、灯油、ガソリンと同等の厳重な管理を必要という、文字通りの危険物だ。
とあるヤリサーがこれで女性を酔わせ、集団レイプをしたことで一気に有名になったという背景がある。
そうでなければ余程の酒好きでもなければ知らないような酒と言えるだろう。
つまり、少なくとも紀子さんは世の中のニュースなどをしっかり調べているようだ。
油断できないな。




