番外編② 忍者の里5
それから一分も経たないうちに、麗香さんは目を覚ました。
「お目覚めですか?」
「……」
麗香さんは状況がイマイチ理解できていないのか、ボーっと俺のことを見つめている。
経験したことのある人間はわかると思うが、強い衝撃で気絶をすると直前の記憶がなくなることが多い。
もしかしたら麗香さんは、俺と出会ったことすら覚えていないという可能性もある。
そうなると、今の状況は見ず知らずの不審者にお姫様抱っこされているということになるため、実は結構ヤヴァイ状況かもしれない。
もし叫ばれでもしたら、俺は完全に変質者扱いをされてしまう。
ここは一つ、改めて自己紹介をしておくべくだろう。
「初めまして白鳥(姉)さん、私はアナタの妹さんとお付き合――っ!?」
名乗ろうとした瞬間、俺の首に腕が絡められる。
お姫様抱っこ中のため俺の両腕は塞がれており、密着状態のため回避も不能だった。
致命的な油断……!
そしてそれを後悔する間もなく――、俺の唇は奪われていた。
「っ!?」
「なっ、なっ、なーーっ!?」
麗香さんの突然の行動に柴咲さんは、裏返った声を上げ指を指したままま硬直している。
そして俺もまた何もできず、ただされるがままに口内を貪られていた。
「ん……ぷはぁ……。フフ♡ ごちそう、さまでした♡」
たっぷりと一分近く俺の口を吸っていた麗香さんは、凄まじい色気を放ちながら満足げに笑みを浮かべる。
そのあまりの快感と色気の前に、俺は無様にも膝を屈してしまった。
「お、恐るべき絶技……! これが、本物のくノ一の技か……」
大変失礼な話だが、ポンコツくノ一である白鳥さんとは比べ物にならない熟練の技である。
まあ、白鳥さんのぎこちなさも味わい深いものなので、決して優劣がつけられるものではないのだが、禁断の新世界を体験してしまった気がした。
「ひ、酷いです主様! それじゃまるで、私が偽物のくノ一みたいじゃないですかぁ!」
麗香さんの唇に目が釘付けになっていたため気づかなかったが、いつの間にか白鳥さんが戻ってきていた。
危害が加えられる可能性は低いと思っていたのであまり心配はしていなかったが、無事戻ってきてくれたようで何よりである。
「あら、事実でしょ? 静香はライセンス取れなかったんだし」
「そ、そうですけどぉ……」
確かに白鳥さんは国家試験に受からなかったため、忍者の資格を持っていない。
ただそれは、単にアマチュアというだけの話であって決して偽物というワケではない。




