番外編② 忍者の里4
「……とりあえず、呼吸はしているし、動悸も安定してそうだ」
「よ、良かった……」
白鳥さんのお姉さんである麗香さんは、俺の腕に抱かれグッタリしている。
ただ意識を失っているだけではあるのだが、正直少し心配だ。
柴咲さんの放った「裏心臓打ち」は、性質上対象の気絶を誘発させる技とのことだが、実際はかなり危険な技である。
心臓を狙う関係上、相手の命を奪う危険性があるというのももちろんだが、そもそも気絶させること自体が危険行為だからだ。
気絶(失神)というのは、脳全体の血液の流れが一時的に悪くなり、短時間意識を消失した状態のことを指す。
脳に影響があることから危険な状態ではあるのだが、短時間で意識が戻るため普通は大きな後遺症が残らない。
なので漫画などのフィクション作品では頻繁に登場する表現なのだが、少し誤解されているケースが多かったりする。
例えば、強力な攻撃を受けた仲間に対し「良かった、気絶しているだけだ」などと言うシーンはよくあるが、気絶したまま暫く目覚めないというパターンを時折見かける。
気絶とは意識消失が短時間であることを前提とした状態であるため、長時間意識を失うケースはそもそも気絶ではないのだ。
実際はかなり危険な状態であり、少なくとも悠長に目覚めを待っている状態ではない。
脳の障害だろうが何だろうが問答無用に回復させる便利な魔法が存在する世界観であれば問題ないのかもしれないが、現実にはそんな魔法は存在しないので、もしそんな状況になった場合は急いで病院で診てもらうべきだろう。
よくある首筋に手刀を落として気絶させる技も、現実的に可能か不可能かはともかくとして、危険なので真似しないよう子どもには注意すべきである。
「んぅ……」
麗香さんが悩まし気な声を漏らす(エロイ)。
この様子だと、もうじき目を覚ましそうだ。
「柴咲さん、最悪の場合はこちらも全力で反撃予定ではあるが、現時点では殺傷性の高い攻撃は控えてくれ」
「うぅ……、本当にすいませんでした……。でも、ウチの流派の中では非殺傷目的の技なんですよ……」
心臓をぶん殴る技が非殺傷用とか、怖すぎるだろう。
柴咲さんの体得している空手は琉球空手ベースのようだが、中々に危険な流派なようだ。
俺が修行の際に見た技は、まだまだ氷山の一角に過ぎないのかもしれない。
下手をすれば、本当に俺ごとヤラれていた可能性も……恐ろしや。
柴咲さんがやり過ぎないよう、要チェックやで。




