番外編② 忍者の里2
白鳥さんに案内されたのは、里の中でも一際大きな屋敷であった。
「……一応確認するが、白鳥一族は下忍なんだよな?」
「はい。ただ下忍とは言っても、この里は白鳥一族が管理する土地ですので、宗家である我が家は里長の家ということになります」
「白鳥さん、そういう大事なことはちゃんと教えてくれ」
「えぇ!? だ、大事なことですかね?」
「静香ちゃん……、一般家庭と里一番の権力者とじゃ全然説得の難易度変わってくるからね?」
そういうことだってばよ。
俺としては一人の父親に対して娘さんを下さい(+二股を許して下さい)という話をする覚悟はできていたが、里長が相手となると話は全く変わってくる。
最悪の場合、里に住む全ての住人(しかも八割がた忍者と思われる)を敵に回す可能性があるため、非常に厳しい戦いが想定される。
「で、でもでも、父はなんだかんだ私に甘いので、大丈夫だと思いますよ……?」
「いや、甘いのであれば尚更のこと、俺に敵意を向けてくる可能性が高い」
甘やかすくらい愛情を注いでいる娘が男を連れて帰省するというだけでも、父親としては非常に複雑な心境だろう。
忍者なのだから忍耐力はあると信じたいが、俺の目的を知れば爆発する可能性も十分にある。
もしかしたら俺は、ここで死ぬことになるかもしれない。
「……念のため、遺書を書いておくか」
「だ、駄目ですよそんなの!? 私達を未亡人にする気ですか!?」
まだ結婚していないのだから未亡人にはならないと思うが、それくらい俺を思ってくれているということなのであれば、かなり嬉しい。
「フ……、死ねない理由がまた一つ増えたな」
「……それ、言ってみたかっただけでしょ」
流石柴咲さんだ。俺のことをよくわかっている。
しかしまあ、当然最初から死ぬ気はないので、遺書というのは半分冗談だ。
殺されそうになった場合の対策も、一応はしている。
「うぅ……、主様……」
「白鳥さん、安心してくれ。本当に死ぬつもりはないからな」
そう言って白鳥さんを抱き寄せる。
……いや、確かに抱き寄せた、ハズだ。
なのに……
「お前は……、誰だ?」
ゾワリとした悪寒が背中に走る。
俺の腕に抱かれているのが、白鳥さんではなかったからだ。
「フフッ♪ 私は静香の姉の麗香です♪」
一応俺が抱きしめたのは白鳥さんで間違いなかったようだが、同じ名字でもお姉さん(自称)だったらしい。
中々衝撃的な展開だが、俺は極めて冷静である。決して動揺などしていないとも。




