第55話 ポカポカ
「たとえ卑怯と罵られようとも、俺は一向に構わない。柴咲さんを手に入れられるのなら、なんだってする」
俺の覚悟は完了している。
「ら、らんれ、そこまれ……」
「決まっている。好きだからだ」
「~~~~!」
柴咲さんがポカポカと胸を叩いてくる。
本来の柴咲さんの膂力であれば胸が陥没していたかもしれないが、今は心地良いくらいの威力だ。
むしろ、この行為は別の意味で威力が高い。
可愛い女の子に胸をポカポカされるのは、男の夢のシチュエーションの一つと言っていいからだ。
暫くポカポカを堪能していると、柴咲さんも少し落ち着きを取り戻したのか目の焦点があってきた。
「……落ち着いたんで、もう支えてくれなくて大丈夫です」
「俺が好きでやっているだけだ」
女性の細い腰を抱くというのは、なんだかとてもドキドキする。
指が少し尻にかかっているせいだろうか。
「私も支えてくださいよ~」
立ち上がりながらそう抗議してくる白鳥さんも、正常な状態に戻っているようだ。
恐らく、尻もちをついたことでポンコツモードが解除されたのだろう。
「すまない。体力的にも限界だったんだ」
嘘ではない。
実際俺の体力では、柴咲さんを拘束するのに限界がきていた。
だからこそ、スメルコントロールという博打を打たざるを得なかったのだ。
……まあ、正直白鳥さんが尻もちをついたのは想定外だったが。
「なら、仕方ないですね。それだけ必死に詩緒ちゃんを抱きしめていたってことですから」
そう言って、白鳥さんは再び柴咲さんのことを抱きしめる。
「静香ちゃん……」
胸の前に回された白鳥さんの手に、柴咲さんが手を重ねる。
「ね? 諦めるのなんて、無理だったでしょ?」
「……二人とも、本当にズルい。二人に挟まれてあんなニオイ嗅がされたら、普通じゃいられないよ」
っ! そうか、愛情を発していたのは何も俺だけではなかったのだ
白鳥さんは、柴咲さんに対し深い親愛を感じていると言っていた。
その白鳥さんから発せられる愛情のニオイも、俺に負けるとも劣らない濃度だったと思われる。
そんな二人に挟まれれば、柴咲さんが中毒症状のような状態になったのも仕方がないことなのかもしれない。
「俺も白鳥さんも、それだけ柴咲さんのことが大好きだということだ」
「~~っ! それはもう十分わかりましたから!」
柴咲さんの顔は真っ赤だ。
控えめに言ってクソ可愛い。
「……私だって、結構覚悟して諦めようとしてたんですよ? それなのに、二人とも酷いです」




