第53話 俺のニオイを堪能するといい
俺は柴咲さんに近づくと、白鳥さんとまとめて抱きしめる。
「~~~!」
柴咲さんは藻掻いて脱出を試みるが、腕力では流石に俺に分がある。
こう見えて、腕立て伏せくらいはしているのだ。
「は、放してください!」
力ではどうにもならないと悟った柴咲さんは言葉に頼るが、当然聞く耳持たない。
「…………」
俺が黙って抱きしめていると、柴咲さんの抵抗が段々と緩んでくる。
そして顔は紅潮し、目が泳ぎ始めた。
「な、なんで黙っているんですか!? 何か言ったらどうです!?」
ぶぶぅ!
返事の代わりに再装填していた屁をこいた。
「な、なんでそこでオナラするんですか!?」
当然のツッコミだが、言葉に力がない。
ニオイが俺の鼻腔に届くまで広がると、柴咲さんはさらに挙動不審となる。
「く、くぅ……」
「ふむ、やはり屁はかなり効果的のようだな」
「な、何が!?」
「柴咲さん自身が一番わかっているだろう」
先程柴咲さんは、俺の屁のニオイを嗅いで緊張感がなくなったと言った。
しかし、本当にそれだけだったのか。
その答えが、今の柴咲さんの状態である。
「おかしいと思ったんだ。一度バトルモードになった柴咲さんが、空気が和んだ程度で止まるなんてありえない」
「ちょっと待ってください! 私、そんなバトルジャンキーみたいな設定ありませんよ!?」
そうだったら面白かったのになぁ……
「まあ、それはともかくとして、俺は見逃さなかった。俺の屁のニオイを嗅いで、力だけでなく顔まで緩んだのを」
「わ、私はそんな変態じゃな――」
「いくら言い訳しても無駄だ。現に今、柴咲さんの顔は緩みきっている」
「っ!?」
どうやら柴咲さんは、自分が今どんな顔をしているのか全くわかっていなかったようだ。
こんなに蕩けきった顔、決してお子様には見せられないレベルである。
「俺のYシャツをクンカクンカしてベッドを転げまわっていたのを見たときから臭いフェチだということは確信していたが、共感覚の話を聞いて、柴咲さんはもっと上の存在だということがわかった。そう、臭いフェチを超えた存在――超臭いフェチであると」
「ら、らんれしゅか、そろ、超りおいフェチ……って待ってください! なんでそれを知っているんですか!?」
柴咲さんは一瞬アッチの世界にイきかけていたが、衝撃の事実を聞いて意識を覚醒させた。
「企業秘密だ。それより、もっと俺のニオイを堪能するといい」
一日中着て俺の汗をたっぷり吸いこんだYシャツのニオイは格別だろう。




