第39話 泊っていってください
「詩緒ちゃんには申し訳ないんですけど、私今、凄く幸せです……」
「そうか」
腕のホールドは先程より緩めているのだが、白鳥さんは俺から離れようとしなかった。
「好きな人に抱きしめてもらうと、こんなにも安らいだ気持ちになれるんですね」
「恥ずかしいセリフは禁止だ」
「そんな~、今くらいいいじゃないですか~」
「……今だけだぞ」
「はい♪ フフフ♪」
なんだこの、嬉し恥ずか死空間は……
こんなイチャついているカップルを俺が見たら、絶対心の中で爆発しろと言っている。
「本当に、こんなに満たされた気持ちになるのは、初めてなんです。詩緒ちゃんと出会ったときも凄い幸せを感じましたけど、何と言うか、こんな風に充足感みたいなのは感じなかったので、不思議な感じがします」
「そんな風に感じてくれるのは嬉しいが、俺はそんなに大層な男じゃないぞ」
自慢ではないが、俺は学生時代は完全に変人扱いで女子には全くモテなかったし、友達もほとんどいなかった。
身長も170センチ弱くらいしかないし、顔も普通。
おまけに、ラーメンの食べ過ぎでかなりだらしない腹をしている。
大人になった今も、性格に関しては直らず変人のままだ。
女性にモテる要素など、ほとんどないと言っていいだろう。
「そんなことありません! 主様は素敵な男性です! 私が今まで出会ってきた中で、誰よりも優しくて、包容力があって、カッコいい人です!」
それは言い過ぎだろう。
明らかにしゅきしゅきフィルターがかかっている。
「まあ、白鳥さんがそう思うなら、それでいいさ」
「そう思う、じゃなくて、そうなんです!」
うーむ、他人事なら微笑ましく見れる反応だが、いざ自分がされると苦笑いするしかない。
だって俺だぞ?
俺が白鳥さんなら、間違っても俺のことを素敵などという言葉で表現することはしないだろう。
「……白鳥さんも素敵だぞ」
「はう~」
耳元で甘い言葉を囁きながら、白鳥さんの後頭部を撫でる。
とりあえず、こうしておけば恥ずかしいセリフの連打は回避できるハズだ。
そんな感じでイチャイチャすること30分。
いい加減離れようとするが、白鳥さんが放してくれない。
「白鳥さん、流石にそろそろ離れよう。色々限界に近い」
「ナニがですか?」
「わかってて言ってるだろう。明日も仕事だし、そろそろ帰る」
「泊っていってください」
「色々すっ飛ばし過ぎだ」
「でも……」
「ダメだ。何にしても、柴咲さんと話し合ってからでないとな」
一体どうなるやら。




