第36話 別に忍者が恋愛をしちゃいけないということはないんだろう?
俺は柴咲さんが好きだ。
これは偽らざる気持ちだし、別れた今でも変わらない。
そして俺は白鳥さんのことも好きだ。
同族意識のようなものもあるし、愛情もある。
何より、彼女のことは放っておけない。
今となって、柴咲さんの気持ちがよくわかった。
「柴咲さんのことは好きだ。今でも愛おしく思っている」
「それじゃあ――」
「それはそれとして、白鳥さんのことも好きだ。君の本心を聞けて、改めて愛おしく感じている」
「~~!」
実際に本音を聞けたからこそ、そのいぢらしさに愛情を感じずにはいられない。
「こんなことを白鳥さんに聞くのは卑怯かもしれないが、俺はどうすればいいと思う?」
「それは、だから、主様と詩緒ちゃんが結ばれて、私はそれに仕えるというのが一番良いカタチじゃ……」
「それはダメだ。それでは白鳥さんを蔑ろにすることになる」
俺と恋人になりたいという気持ちを殺して、忍者の道を選ぶ。
それは物語としてであればカッコいい選択かもしれないが、己を犠牲にするというのは今風ではない。
昨今の物語の流行は、winwinだったり全員ハピエンといった、ストレスフリーな展開が好まれる。
現実であれば、より全員が幸せになる結果が望まれるだろう。
「私は、いいんですよ……。忍者として生きたいという気持ちも、嘘じゃありませんから……」
「違うな。白鳥さんは忍者と恋愛を切り離して考えているが、別に忍者が恋愛をしちゃいけないということはないんだろう?」
「っ!? そ、それは……」
白鳥さんの話では、お父さんは白鳥家の忍者だが、お母さんは一般人らしい。
それは一族に決められた存在としか結婚できないのではなく、普通の恋愛も許されているということを意味する。
であれば、白鳥さんだって忍者をしながら恋愛をしたって問題無いハズだ。
「白鳥さんが望むなら、俺に仕えながら、同時に恋愛することも可能だろう」
「でも、それだとやっぱり、詩緒ちゃんが……」
「それについてだが、一つ思いついたことがある」
「思いついたこと?」
「ああ、白鳥さんには、腹違いの兄弟や姉妹がいるんだろ? それって君の父親が複数の女性を娶っているということじゃないのか?」
「そうですが……、それは白鳥家の血を絶やさぬためであって……」
「じゃあ聞くが、白鳥さんは俺に仕える道を選んだとして、他の誰かとちゃんと交際するつもりなのか?」
「それは……」
「俺に仕えた状態で、誰か他の男を好きになれるのか?」
多分無理だ。




