第21話 別れ
「柴咲さんは可愛いな」
「や、やっぱりさっきからからかってるでしょ!?」
「からかってなどいない。俺の正直な気持ちだ。ニオイでわかるんだろ?」
「そ、そうですけど~~!」
柴咲さんがうーうー唸りながら悶えている。
そんな姿を見るのも楽しいのだが、話が脱線しているので元に戻すことにする。
「話を戻そう。白鳥さんと、男女として向き合って欲しいということだが……、正直難しいと思う」
「な、なんでですか?」
「俺は器用な人間ではないので、白鳥さんに男女として接すれば、本気になってしまう可能性がある」
本音を言えば、白鳥さんのことはもう既にかなり好きだ。
主従プレイに徹することで気持ちを誤魔化しているのは、なにも白鳥さんだけではない。
「だから、それでも構わないって……」
「俺が構う。柴咲さんという最高の彼女がいながら、白鳥さんを好きになってしまうというのは大問題だ」
俺が一方的に好きになるだけであれば、まだいい(それでも問題だが)。
しかし、白鳥さんも俺を好いているとなると、相思相愛になってしまう。
そうなれば、俺が我慢できる保証は全くない。
二股野郎の完成である。
「俺は柴咲さんを裏切るような真似はしたくない。この話は、なかったことにしてくれないか?」
俺が真剣にそう言うと、柴咲さんは目を泳がせ、落ち着きなく体を揺らしだした。
しばらくそんな様子を見守っていたが、柴咲さんが突然「コォー」と息を深く吐き始める。
(あれは、空手の息吹か?)
漫画の知識だが、空手には息吹と呼ばれる呼吸法がある。
乱れた呼吸を整えたり、精神集中の効果があるとされるが、実際に見たのは初めてだ。
「すいません、落ち着きました。……それで、静香ちゃんの件ですが、やっぱりお願いしたいと思います」
柴咲さんはそう言って、深く頭を下げた。
「……何故そこまで、と聞いていいか?」
「静香ちゃんは、私の親友なんです」
柴咲さんの真剣な目は、理由はそれで十分、とでも語っているかのようであった。
「……親友を大事にするのは良いことだが、恋人にも気を遣って欲しかったな」
「それは……、本当に申し訳ないと思っています。でも、それでも、今の静香ちゃんを放ってはおけないんです」
本当に難儀だ。
しかし、そんなところも含めて、俺は柴咲さんのことを好きになったのだ。
彼女の願いは、叶えてやりたい。
「だったら、方法は一つしかない」
今回ばかりは、自分の不器用さと、愚かさを呪おう。
「別れよう」




