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事後(事件後)

 「と、まあ、俺と蔵敷の出会いはこんな感じだ」

 「翔一って、転校してきたばかりはそんなに不愛想だったんだな……ちょっと意外だな」

 「そうか?」

 「そりゃそうでしょ。でも、天羽さん的には、椎名君が絶対に浮気しないみたいな自身が持ててよかったんじゃない?」

 「い、いや……私は最初からそういうのは疑ってないから……」

 「ほぉ~二人は熱々ですなあ」


 俺が蔵敷との出会いを話すと、2人は少しだけ俺の過去の正確について盛り上がっていた。

 まあ確かに、明るさとかそういうのは昔に近づけたと思うが、別に興味ない人にはこんな感じだと思うけどな?そんなに驚くほど違うか?


 「まあ、ここまでは蔵敷との出会いを話したんだけど、まだまだあるぞ?」

 「どのくらい?」

 「今みたいなのが、あと42章……」

 「「ながっ!?」」

 「冗談。そんなに長くはないけど、胸糞悪いなって思ったら、奏には蔵敷のことをもっと大事にしてほしい。攻めるのはいいけどさ、あいつにとって傷口を抉ることもあるんだ」

 「そう……だよね。これから気を付けてみるよ」


 そう言うと、奏は少しだけ決意めいたものを感じた。

 俺にも奏をたきつけた責任みたいなのはあるが、そこはいいか。2人が付き合って、蔵敷が笑ってればそれでいいもんな。


 「そういえば、翔一はなんで変わったんだ?」

 「変わったって言っても……」

 「うーん、椎名君が明確に変わったのって、2学期が終わる前くらい……?だったかな」

 「ああ、あの時か」

 「思い出したか?」

 「あれだ、玲羅に一目ぼれしてからだ」

 「ふえ?」

 「―――じゃあ、続き話すぞ」

 「ちょ、ちょ、ちょ……今の話はすごく気になるんだが」


 俺は少し顔を赤らめて慌てている玲羅をスルーして、先ほどの話の続きを始めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 蔵敷は目の前で起きたことに戸惑いを覚えていた。

 今日転校してきたばかりの転校生の引き起こしたことが、とてもじゃないが信じられないのだ。


 (全く見えなかった……いや、正確には打撃しか見えなかった。殴り合いをしている俺ですら、椎名の移動の瞬間が見えなかった。しかも、打撃は全部、顔面の完全に意識を刈り取りための動き……)


 蔵敷には、それが素人の偶然には思えなかった。動きはさることながら、わずかに見えた打撃は確実に人を殺したことがあるものと言っても過言ではない動きだった。


 「椎名……お前」


 そうつぶやくが、遠すぎて彼にはその声は聞こえない。

 そして、当の本人である椎名は、その手に握っていた財布を、不良たちに奪われかけていた少年の前に落とした。


 「次は取られるなよ」

 「あ……ありがとう。そ、その、お礼を」

 「いらない」

 「でも……」

 「いらないって言ってんだ。さっさと帰れ」

 「で、でも……君、転校生の椎名君だよね?」

 「知らん。誰だお前」


 会話から、おそらく少年は椎名ことを知っている。

 転校生であることや、名前を知っているところから、同学年―――または同じクラスなのかもしれない。椎名は、転校初日の今日、一度もクラスの外に出て自己紹介のようなものをしていないから。


 もしかしたら、噂で不愛想すぎる転校生、というものが立っていたら別だが。


 「うぅ……」

 「なんだこいつ……まだ、息があるのか」

 「だ、大丈夫なの?」

 「なぜ心配をする?」

 「え?それは、痛そうだから……」

 「こいつらがお前から金を巻き上げようとしてたのに?」

 「そ、それでも、この人たちもちゃんとした人間だから……」


 そう正論を言う少年に椎名は吐き捨てた。


 「いいか?クズもバカもゴミ共も―――みんな総じて、死ななきゃ治らない。こいつらに優しさなんていらないんだよ」

 「で、でも―――」


 椎名の言葉に対して、反論しようとすると、椎名はその言葉を聞き終わる前に、自身の足を踏み下ろした。


 ベキッという、気色の悪い音ともに、1人の男の腕が折れた。

 そのまま椎名は立て続けに骨を折っていき、その場にいた全員の足と腕の骨を折った。


 「こいつらは誰かに助けを求めなくちゃならない。これで、他人のありがたみがわかるはずだ。まあ、こいつらが助けてもらえることをしてきたかは別だけどな」

 「ひ、ひどい……」

 「おい、椎名!やりすぎだろ!どう見ても、こいつらに反撃することは出来なかっただろ!」

 「なんだ、まだついてきてたのか不良。お前も同じ目にあわせてやろうか?」

 「……っ!?なんで、お前はそんなんなんだよ!」

 「俺に聞くんじゃねえよ」


 そう言って、2人をその場に残して椎名は帰っていった。

 彼の姿が見えなくなったころ、蔵敷は少年の手を取り、起き上がらせた。


 「あ、ありがとう蔵敷君」

 「あ?俺、名乗ったっけ?」

 「同じクラスだよ……というか、君くらい有名だったら、名前くらいは知ってるよ」

 「……そうか。じゃあ、お前も気をつけて帰れよ。俺も、あいつはやりすぎだと思うけど、言っていることにも一理あると思う。こいつらをこのまま放置しても、こいつらが善行を積んでいて、誰かに助けてもらえる人間なら、見て見ぬふりはされない。こいつはどうしようもないクズなんだ」

 「でも、通報くらいは……」

 「やめとけ。ここで、お前が通報したら変な難癖付けられるのがオチだ。そうならないように、俺が近くにいるから、明日から家以外は、基本的に俺を呼べ」

 「あ、ありがとう。―――そうだ、僕、矢草齋宮やぐさいつき。よろしく」

 「ああ、知ってると思うけど、蔵敷徹。まあ、噂通りの不良だよ」


 こうして、蔵敷はもう一人の友人―――矢草と出会ったのだった。


 ――――――――――次の日


 いつも通り、クラスの人が登校し続ける中、たった一人で登校する男がいた。

 昨日の転校生、椎名翔一だ。


 彼は教室に入ると、なんの迷いもなく席に着き、本を開いた。

 しばらく読書を続けていると、椎名は蔵敷に話しかけられた。


 「よお、なに読んでんだ?」

 「読書の邪魔をするな……と言いたいが、またはずれを引いたからいくらでも邪魔してくれて構わない。どのみち、この本はつまらないからな」

 「へー、どんな本だ?」

 「冴えない男子高校生が彼女に浮気されて、可愛い彼女と付き合う。って話だ」

 「面白いのか?それだけ聞くと、つまんないんだけど」

 「だから、ハズレって言っただろ。こういう量産型の作品は、本当につまらない」

 「面白いのってあるのか?」

 「まあ、あるな。でも、たいていハズレばかりだ。やっぱりジャ〇プのマンガ読んだ方が安定かな?だけど、最近はなろう色の強い作品も増えてきて、あっちも地雷多いからなあ……」


 そうしながら、蔵敷と椎名で会話をしていると、時間は過ぎていき、いつの間にかHRの時間になり、蔵敷は自身の席に戻っていった。


 そして、その時気付いた。


 (あれ?普通に話せてね?)

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