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転校生・椎名翔一

 『転校生が来る』


 その一報で、クラスは沸いた。

 しかし、転校生が男という情報が出回ってくると、男子たちは意気消沈し、女子たちが騒ぎ始めた。


 男子も女子も、ドラマやアニメに憧れる。ドラマのような恋がしたい。そういう者たちにとって、転校生との恋は妄想をはかどらせるものだ。


 「ねえねえ、転校生イケメンだった?」

 「わかんなかったよ。ていうか、転校生そのものが本当なのかうたがわしいんだけど……」

 「それもそうだよねえ……」

 「もうすぐ受験なのに、学校を変えるなんて正気の沙汰じゃないよ」

 「でも、親の都合とかならしょうがないんじゃない?」


 そう女子たちはまだ見ぬ転校生がイケメンであることを願い―――


 「ちっ、野郎かよ。せめて女ならやる気もできたんだけどな」

 「どうせ女でも、お前じゃ無理だよ」

 「んだと!」


 男子たちは、転校生が男であることに不満を漏らしていた。


 そんな中で担任がやってきて開かれたHR。生徒たちは、担任の『転校生』という言葉を待ち望んでいた。


 「突然だけど、今日は転校生がいる―――入ってきて」


 ガラガラガラ


 扉を開けて入ってきた男子を見て、女子たちは息を呑んだ。

 入ってきた転校生というのは、想像を超えるようなイケメン。そう、テレビに出ているような容姿をしていたのだ。


 「じゃあ、自己紹介して」

 「椎名翔一です。短い間ですが、よろしくお願いします」


 転校生―――椎名翔一は、そう言い、お辞儀をすると先生にあらかじめ伝えられていたであろう席に座った。

 女子たちは、その美貌に惚れてしまっていて気付かなかったが、クラスの男子はその椎名の違和感に気付いた。


 ―――以上に目が淀んでいることに


 むしろ、なぜ女子が気付けないのかと男子たちが不思議に思うほど、顔と目が一致しない。

 なぜか、狂気を孕んでいる目に、男子たちは一抹の恐怖すら覚えてしまうほどだ。


 HRも終わり、先生が去ると、クラスの明るい方の女生徒たちは、さっそく椎名に群がり始めた。


 「ねえねえ、前はどんな学校にいたの?」

 「好きな食べ物は?」

 「スポーツとかするの?」

 「どんな女の子がタイプ?」


 椎名はそう言った質問攻めをすべて無視して、机の上に教科書を置いた。

 だが、そのそっけなさがいけなかったのかもしれない。あえてイケメンにそっけなくされたことで、彼女たちの琴線に触れてしまい、なおのこと女生徒たちの熱を上げてしまった。


 だが、そんな女子たちに苛立ちを覚え、1人の男子生徒がその場にやってきた。


 「ちっ、どう見ても、お前らに気はないだろ?ほら、さっさと授業準備しろ!」

 「は?うっさいし、モテないからってそういうの本当にキモいよ?」

 「残念でした、俺には彼女がいますから。何ならみるか?俺の彼女」

 「は?きっも……これだから蔵敷みたいな不良は嫌いなんだよ」

 「勝手に言ってろ」


 女子たちと悶着を終わらせると、蔵敷は椎名の方を向き、手を出した。おそらく、握手をするための意思表示だろう。


 「よう、イケメンは大変だな?俺は蔵敷―――蔵敷徹。よろしくな」

 「……」


 だが、椎名は蔵敷の握手を無視して、前を向いた。蔵敷は、一瞬だけこちらを見た時、てっきり握手をしてもらえると思っており、驚いた。


 「お、おい、無視すんなよ。俺はあいつらと違って、お前に気があるわけじゃないんだぞ?」

 「さっきのは社交辞令だ。……関わるな。わかったか?」

 「はあ?なんだよ、その言い方!」

 「不良―――というのは正しいみたいだな。すぐに感情的になる。人にかまっている暇があるのなら、少しは真面目になったらどうだ?」

 「ちっ、クソが」


 椎名の言葉を聞いた蔵敷は、一瞬にして頭に血が上り、そのまま席を離れていった。その姿を女子たちはバカにしていたが、それ以降、椎名がクラスで言葉を発することはなかった。


 授業中でも―――


 「じゃあ、この問題を……椎名、できるか?」

 「7」

 「あ、ああ……正解だ」


 こうやって、簡潔に答えしか発さない。

 その姿は不愛想を通り越して、失礼ですらあった。


 しかも、その日に行われた抜き打ちの小テストも、他の生徒たちが苦戦する中、椎名だけものの数分で満点を取った。

 そんな姿は、一部の女子たちにしか受けず、椎名は転校初日にして、ほとんどの生徒に嫌われてしまった。


 帰るころには、ほとんどの生徒が椎名を見ておらず、彼は初日で誰からの興味を持たれなくなった。


 ―――ただ1人を除いて


 「おい、椎名」

 「……」

 「おいってば!」

 「……」

 「おーい!」

 「……なんだ?」

 「やっと返事した」


 そう息を切らしながら、蔵敷は椎名に近づいた。

 椎名の表情は変わっていないが、あからさまに面倒だという雰囲気が出ていた。


 そんな彼に蔵敷は、ある話題を振った。


 「今日、2年にも転校生が来ていたってな?お前の妹だろ?」

 「……」

 「いやあ、可愛いって言われてるから見に行ってみたけど、実際可愛かったな」

 「惚れたのか?」

 「あ?いや、別に俺には彼女がいるし……」

 「そうか」

 「なんだ?妹に彼氏ができるのは嫌なのか?」

 「そういうんじゃない……ただ―――」

 「ただ?」

 「いや、なんでもない。それより言っただろ?関わるなって」

 「そう言うなって、俺もさっきは悪かったからさ」


 そうしながら2人は、校門をまたぎ、ついに外に出てしまった。

 本当は最短距離で変えるつもりだった椎名は、蔵敷を撒くために、あえて遠回りを始めた。


 道は少しずつ、人気のないところに変わっていき、段々と廃ビルが目立つところにやってきた。


 「お前、家この辺なのか?」

 「……ちがう」

 「なら、あんまりここら辺に近づかないほうがいいぞ。カツアゲとかされるから」

 「そういうのなら問題ない」

 「いや、大問題だろ」


 そんな会話をしていると、わずかにだが、2人の耳になにかを脅しているような声が聞こえてきた。

 だからと、蔵敷は椎名をその声が聞こえる方向から遠ざけようとするも、椎名は言うことを聞かずにその声のする方向に行ってしまった。


 2人が声のするところの近くに来ると、そこには気弱そうな男子生徒を囲んでいる男たちがいた。

 気弱そうな男子は、蔵敷たちの制服を着ており、自分たちの中学の生徒であることはわかった。


 だが、問題はそいつを囲んでいる男たち。


 蔵敷は知っていた。その男たちは、ここら辺では有名な高校生の不良グループだった。


 噂は常々聞いている。警察とやりあっただとか、銃を持っているだとか。もはや常識で推し量れるような人間ではない奴らだ。


 「椎名、ここは離れよう……椎名?」


 蔵敷が逃げようと椎名に言おうとするも、その瞬間には彼がおもむろに石を拾い上げていた。


 「な、なにをするつもり―――」

 「しっ」


 蔵敷がなにか言い終わる前に、椎名は短い呼吸で石を投げた。


 投擲した石は、見たこともないスピードで飛んでいき、今まさに渡されようとしていた財布に直撃し打ち上げた。

 その瞬間、驚いた不良たちが持っていた木刀や鉄パイプを構え始めた。


 「馬鹿ッ、早く逃げ――消えたっ!?」


 次の瞬間には、椎名の姿は消え、気付いたころには、不良たちの向こう側に打ち上げた財布を持った状態で現れた。

 それに気づいたとたん、武器を構えた不良たちはバタバタと倒れ始めた。


 「は?」


 あまりの出来事に、蔵敷は固まってしまった。

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