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洋服屋にて

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします

 なんだかんだ忙しく動いていた午前で、俺たちの買い物は終わるかと思ったが、俺たちは今、洋服屋にいる。奏が服を買いたいと言ったからだ。それに玲羅が便乗する形で俺たちのお出かけ―――もといダブルデートの継続が決定した。


 現在、俺と蔵敷は女子たちのキャッキャウフフを見ているだけの状況だ。

 別に俺は、さほど服にこだわりはない。まあ、いわゆる陰キャファッションとかはしないように気を付けているくらいだ。


 俺自身、あまり真っ黒の服は身につけない。

 それを着るくらいなら、ある程度明るめの服を着ているのだが、女子陣からしたら俺のファッションは何点ほどなのだろうか。


 「なあ、蔵敷」

 「なんだ?」

 「俺の服装って、オシャレか?」

 「俺に聞くなよ。俺がファッションについてわかると思うか?」

 「でも、その服は?」

 「姉貴が選んだ」

 「ふーん、やっぱお前の姉さんはセンスいいな」

 「はいはい、私にはセンスがありませんよ」


 言ってなかったが、蔵敷には姉貴がいる。一度だけあったことがあるが、かなりの美人で高身長だった。俺よりも高かった。


 その姉貴は、現在ファッションデザイナーをやっており、一般人よりもセンスがいいのは当然なのだが……

 だが、こうして直で見ると、本当にすごいものだと思う。


 そんなやりとりをしていると、着替えが終わったのか、試着室から玲羅が出てきた。


 「じゃーん!私のチョイスはこの純白のワンピースだよ!男の子はこういうのが好きなんでしょ?」

 「か、奏……私は着せ替え人形じゃないんだぞ?」


 そう言い、もじもじしながら出てきた玲羅の姿は、簡単に言うと、天使そのものだった。


 綺麗な足腰を包む羽衣のごとく、玲羅が纏っているワンピースは神々しく見える。

 こんな天使に迎えに来られたら、ホイホイとついていってしまいそうだ。


 「し、翔一……どう思う?」

 「かった……」

 「ん?」

 「俺が買う。そのワンピースは、俺が玲羅にプレゼントしてあげる」

 「な、なにをおじさんみたいなことを……記念日でも何でもないんだから、服くらい自分で買う!」

 「えー、残念だなあ……」

 「そ、そういうのはお互いの記念日に―――な?」


 そう言いながら、玲羅は顔を赤らめる。

 そうか、記念日か……それならもっともっとたくさんの記念日を作らないとな。ていうか、一緒に生活しているのだから、もっと俺にものをねだってもいいんだけどなあ……


 「と、というか、奏もいつになったら服を見せるんだ?」

 「あはは……玲羅の後に出るんじゃなかった……ものすごく出づらいや」

 「大丈夫だ。奏の選んだ服もすごくよかったぞ」

 「そのワンピースも私が選んだんだけどね……」

 「う、うるさい!早く出るんだ!」

 「あ、ちょっと待っ……」


 玲羅に引っ張り出されるように、奏は試着室から出てきた。

 だが、その姿に蔵敷は息を呑んでいた。


 彼女は、腹だしのセーターを着て、胸元もしっかりと見えてしまうような服装だった。

 ただ、エロスだけでなく、ちゃんと奏らしい美しさというのも出ていて、正直な感想を言うと、綺麗。の一言に尽きるような姿だった。


 その姿に目を奪われた蔵敷は、突如正気に戻り、ちゃんと奏をほめた。


 「そ、その……似合ってると思うよ」

 「あ、ありがとうね……じ、じゃあ、この姿でデートするって言ったら、私と付き合ってくれる?」

 「……ごめん、そういうのはやっぱり」


 今しがた、奏がもう一度告白したが、結果は玉砕。そろそろ奏がかわいそうに見えてきた。


 「蔵敷、お前はなぜそんなに付き合いたがらないのだ?正直なことを言ってくれ。お前、奏のことが好きになっているだろう?」


 蔵敷の態度に嫌気がさしたのか、玲羅が少し怒り気味に聞いた。

 だが、そんな玲羅に気圧されずに、蔵敷は答えた。


 「好きでも付き合えないことだってあるんだ。どれだけ好きと言われても、俺はその言葉を―――信用できない……」

 「そ、そんな……私は本気だよ!」

 「そうだぞ!蔵敷!お前はなんてことを言うんだ!」

 「まあまあ、2人とも落ち着け。とりあえず、ここを出よう。なんでこいつが異性と付き合いたがらないか教えてやるからさ」


 俺がそう言うと、蔵敷の態度の理由を聞けると思ったのだろう。

 2人とも、静かになり、おとなしく俺の後をついてきた。


 「お、おい翔一。勝手なことするなよ……」

 「ここまで来て、2人に何も教えないのか?それに、なんとなくわかってるだろ?奏はあの女とは違うって」

 「……そうだけどさ。でも、女はみんなそういうもんなんだろ?」

 「はあ……お前も拗らせすぎだな。お前はもう一回、奏とデートをしろ。今度は2人きりでな?」

 「でも……」

 「でも、じゃない。男なら―――女のためにできることはやるもんだ。今のお前にその心があるとは思えない。お前は、ただ怖いから相手の思いを踏みにじる最低野郎だ。だから、一度だけでも向き合ってみろ」

 「……」


 服を購入し終えた一行は、ショッピングモールを後にし、近くの喫茶店に来た。

 ほかに客はおらず、静かな時間のみが過ぎていた。


 「それで、蔵敷が奏と付き合わない理由とはなんだ、翔一」

 「はあ、一発目から本題か……まあ、いいか。奏、こいつが高校受験直前まで荒れてたのは覚えてるだろ?」

 「う、うん……その時は怖かったけど……」

 「いや、その時はどうでもいい。こいつには、不良時代に彼女がいたんだ。ただ、こいつが不良をやめる最大のきっかけになったのが、その女だったんだよ」

 「「元カノ……」」

 「ああ、こいつはとにかくひどいフラれ方をしたんだ。多分だけど、俺が玲羅にされたら、10年はショックで立てなくなるようなことだ」


 俺のその言葉に、一同は息を呑んだ。一方、蔵敷の顔色はよろしくない。


 「蔵敷、思い出したくないなら、トイレにでも行っておけ」

 「……そうする」


 俺の言葉通り、蔵敷は店の奥のトイレへと消えていった。

 その後ろ姿を見ながら、奏は苦しそうな表情を見せる。おそらく、あんな弱々しい蔵敷の背中を見たことがなかったのだろう。


 「つづけるぞ?」

 「あ、う、うん……」

 「あいつの彼女の話をするのなら、すべては俺とあいつが始めて顔を合わせた日。俺が転校してきた日までさかのぼる―――」


 それから俺は、蔵敷の課の話を始めるのだった。

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