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フードコートにて

 俺たちは勝負の時を終え、昼の食事のためにショッピングモールに併設されている、フードコートに来ていた。

 勝利した俺は、蔵敷のおごりで昼めしを食べることが可能だ。


 「じゃあ俺は玲羅と回るから、蔵敷1000円プリーズ」

 「お前、友達いなくなるぞ……」

 「勝負を仕掛けたのはお前だろ?」

 「そうだけどさあ」

 「ていうか、俺がこういう性格なのは織り込み済みで『親友』とか言ってんじゃないのか?」

 「お、お前……俺のことを親友って……」

 「あ?誰がそんなことを言った?」


 そんなやり取りをしつつ、蔵敷から1000円札を受け取った俺は玲羅と一緒にフードコートを回り始めた。

 残りの2人―――奏と蔵敷は俺たちの荷物番だ。俺たちは、番号札を受け取ったら荷物番を変わる予定だから問題ない。


 「翔一はなにを食べたい?」

 「俺は、なんでもいいかな。玲羅は?」

 「わ、私は翔一が食べたいものを……」

 「わかった。今、考えるからちょっと待って」

 「別にそんなに考えなくても……」


 そうは言うが、そういうわけにはいかない。

 彼女が俺の食べたいものを食べたいというのなら、俺の食べたいものというのを出さなければならない。男として、そういう曖昧な返答は良くない。まあ、今思いっきりちゃらんぽらんな返答をしてしまったが、ノーカンにする。


 そう考えながら、俺はあたりを見渡す。


 フードコートにはたくさんの種類の店があった。

 うどんやラーメン、ドーナツ屋などあまりの多さに目がいくつあっても足りない状況だ。


 そんな中、俺はある店が目に入った。


 「む?あそこに行きたいのか?」

 「い、いや、ちょっと気になっただけだ」

 「別にいいんだぞ?翔一がそういうのをあまり言ってくれないから、私としてはこういう時くらいは食べたいものというものを言ってほしい」

 「だけど、ジャンクフードなんて食い飽きてるだろ?」

 「そんなことない。翔一と食べるご飯はいつだって新鮮だ。―――ちょっと恥ずかしいな……」

 「ぷっ」

 「あ、笑ったな」

 「い、いや、玲羅もそういうこと言うんだなって―――でも、そうだな。こういう時くらい、自分が食べてみたいものを食べるか」


 そう言い、俺は、玲羅と目に入ったハンバーガー店の列に並んだ。

 列の途中で、玲羅は俺の言動が気になったのか、それについて質問してきた。


 「そういえば、翔一はこういうハンバーガーとか食べたことないのか?」

 「いや、正確にはハンバーガーはあるんだよ。ただ、うちの家のことは知ってるだろ?」

 「ああ、武術宗家というやつだろう?」

 「うん。まあ、簡単に言っちゃうと良いとこの家なのよ。だからさ」

 「ジャンクフードみたいなものを食べさせてもらわなかったのか?」

 「そういうこと。結乃と2人で暮らすときも、基本的に自炊してるからさ。やっぱりああいうの食べないんだ」

 「ということは、翔一は初ジャンクバーガーというわけか……」

 「そうだな。俺の初めてを一つ、玲羅にもらわれちゃったな」

 「し、翔一、こういうところでそういうことは……」


 なんやかんやで、俺たちは店で番号札を受け取り、奏たちがいる席に戻ってきた。

 2人ははたから見ると、イチャイチャしているカップルのような様だった。


 「2人とも、今度は俺たちが荷物見てるから、回ってきな」

 「うん、そうするね。ほら、蔵敷君行こう」

 「あ、ああ……」

 「あ、蔵敷」

 「ん、なんだ?翔一」

 「はいこれ。釣り銭」

 「ああ、ありがとうな―――って、多いな。なにかったんだ?」

 「ハンバーガー」

 「え?もっと高いもの選んでもよかったんだぞ?」

 「いいんだよ。どんなに安くても好きな人と食べれるってだけで、この上ない幸せなんだから」

 「惚気んなよ……」

 「お前も、奏と付き合ったらわかるさ。本気で好きになる気持ち。あと、本気で愛される気持ちが」

 「……そういうもんか?」


 そう首を傾げながら、蔵敷は奏の後を追いかけるように走っていった。

 フードコート内で走るなや……あーあ、子供とぶつかりそうになってる……


 そう思いながら、蔵敷の方を見ていた俺は、ゆっくりと番号札が鳴るのを待ち続けた。


 「翔一は愛される気持ちをわかってるのか?」

 「わかってるよ。だって、俺は玲羅に愛されてるだろ?」

 「そ、そうなのか……」

 「なんだ、急に?」

 「その……私の気持ちがちゃんと伝わっているか不安なんだ」


 そう言う玲羅は、自身の不安をぶちまけるように話し続けた。


 「私に比べて、翔一は感情表現が豊かで、いつも私に『好き』だとか『愛してる』だとか、たくさん愛を囁いてくれている。でも、私は恥ずかしくてそういうのを言えないことだってあるし、へたくそだから伝わってないんじゃないかって……」

 「ふふ……」

 「あ、また笑った……こっちは悩んでるのに……」

 「そんな必要はない」

 「え?」


 玲羅は感情表現が下手なんて、誰が言ったんだ全く。

 彼女は、抱きしめたら返してくれるし、キスだってしてくれる。それなのに、下手って……鈍感の方向がおかしいって。


 「玲羅はさ、俺のこと好きって言ってくれるじゃん?」

 「そうだな。でも、それくらいは普通だろ?」

 「キスだってしてくれる」

 「ま、まあ、私だって恋人とそういうことはしたい」

 「抱きしめたら、ちゃんと玲羅もうでを回してくれる」

 「そりゃ、抱きしめられたら抱きしめ返すだろ?」


 玲羅は、俺の言葉にさも当然であるかのように答える。

 なら、この子にとっての愛情表現とはなんだ?逆に気になるのだが……


 「寝るときだって一緒だ」

 「それは……好きな人と一緒にいたいのは自然のことだろう?―――口にはしていないが……」

 「それでいいんだ」

 「え?」

 「玲羅の愛情表現というものが、こんかいどれだけ過剰なものかなんとなくわかった。でもな、玲羅の今までにしてることって、普通の人じゃ中々出来ないんだぞ」

 「は?好きな人となら、当たり前にできるだろ?」

 「そういうわけにもいかないんだよ。だからさ、玲羅はそのままでも十分、愛情を俺に伝えられてる。心配すんな。本当に玲羅の表現が下手っぴでも、少しずつ俺が表現しやすいようにしてあげるから」

 「そ、そうなのか……」

 「ひとまずさ、玲羅の愛情表現ってどういうの?」

 「それは……引かないか?」

 「引かないよ」


 そう確認した玲羅は耳を真っ赤にしながら、顔を手で覆った。

 そんな姿も可愛くて、いじりたい気分になるが、彼女はおそらく真面目な話をするのだろう。


 「そ、その……好きな人の膝の上に乗って―――ナデナデしてもらう……それで―――」

 「それで?」

 「私は翔一の胸によっかかって、頭を撫でている手の反対の手をしゃぶることかな?」

 「それが玲羅にとっての愛情表現?」

 「あ、ああ……これが私の精一杯の好きな人への甘え方―――愛情表現だ」


 確かに、今までやってきたこととは少し違う。髪を乾かすときに似たようなってはいるが、おそらくそれよりも甘えるような姿勢になるのだろう。

 だが、甘えるという点では彼女はそれくらいのことはしてきている。それに、これくらいなら―――


 「今日、帰ったら早速しよう?」

 「い、いいのか?」

 「ああ。そういうことを言うってことは、心の中でやりたい気持ちがあるんだろ?」

 「それはそうだが……」

 「いいよ。玲羅の言ってくれたように、好きな人のしたいことは、俺のしたいことでもあるからさ。たとえ、どんなにアブノーマルなことでも、俺は受け入れる」

 「そんなことを言うつもりは……」


 ビー!


 俺と玲羅が良い雰囲気で話していると、突然番号札のブザーが鳴った。

 いい雰囲気だったのに、邪魔しやがって……


 「で、できたみたいだな……翔一、取りに行こう」

 「そうだな―――奏たちも戻ってきたみたいだし、一緒に行くか」


 俺たちは戻ってきた奏たちに、その場の荷物を任せて、店の方に取りに行った―――そんな俺たちの手はしっかりと、力強く握りあっていた。

今年はこの作品にお付き合いいただきありがとうございました。

来年もよろしくお願いします。



よいお年を!

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