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第三章完結 ちょっとしたIFSS「体調不良」

 結婚してから7年。初めて、翔一が体調を崩した。

 いや、正確には体温が初めて38度を上回った。


 「ゴホッ……ごめん、玲羅」

 「問題ない。それよりも、翔一の方が心配だぞ」

 「お、俺は大丈夫。ただ、熱出しただけだから」

 「それが心配なんだ。翔一って、私と出会ってから一度も体調を崩したことなかったから……」

 「大丈夫だって、俺だって人間だからさ」

 「まあ、もう私は会社を休んだからな。今日は私が看病してやる」


 今日は翔一が仕事を休むのは当たり前だ。だが、私たちにはもうすぐ7歳になる娘がいる。

 高校卒業の直前くらいに、私は娘を妊娠した。初めて喋った言葉は「ママ」だ。そんな可愛い娘もいるというのに、体調不良の翔一を家に置いていくなど、考えられない。


 娘は小学校に行っているので日中は大丈夫だが、運悪く今日は午前授業。お昼ご飯を用意しなければならない。こんな状態の翔一に料理はおろか、買い物にだって行かせたくない。


 いつも家事をやってくれている翔一に代わって、私が看病しなければ。


 「ダメだよ、玲羅。中途で入れてくれた会社なんだから、こんな時に休んじゃダメだよ」

 「いいんだ。私にとって、仕事より家族なんだ。それに、高校生の頃をおぼえてるか」

 「玲羅が風邪ひいた時か?なんだかんだ、毎年風邪ひいてたじゃんか」

 「その時にいっぱい看病してくれた翔一を、私は今日くらい甘やかせたい。……ダメか?」

 「……じ、じゃあ、今日はよろしく頼む……」

 「ああ、任せろ」


 そう言って、家事を引き受けたものの、いつも家事は翔一がやってくれていた。

 彼は前と違って在宅が多くなり、今や娘の好物も翔一の料理になってしまうくらいだ。


 洗濯物は私が出したりしているのだが、やはり翔一に比べて家にいる時間が少なく、帰ってくる時間も遅く、取り込むのを翔一に任せてしまう。だが、翔一の料理を毎日食べれるというのは、とても幸せだった。


 娘はパパがご飯を作ってくれないとなると、ぐずってしまうだろうが、今日は許してほしい。


 それからというものの、私は洗濯物を外に出し、昼ごはんの下準備を始めた。

 今日のお昼ご飯は娘の好きな食材のキノコを使って、ソテーにでもしようと思う。


 食材を切り、下味をつけてから娘の帰宅を待つことにしよう。

 そこから数十分かけて、他の諸々の家事を終え、私は翔一のいる私たちの寝室に入った。


 「翔一……さすがに寝てるよな……」

 「すぅ……」

 「ふふ、普段はカッコいいけど、寝顔はすごく可愛い……食べてしまいたい……」


 普段の翔一は頭もキレるし、クールだ。

 だからと言って、人助けをおろそかにしたりしない。この間だって、妊婦さんを助けたら救急隊の人に旦那と間違えられて大変だったとか言ってた。その時の人が菓子折りを持ってきたから、事実なのも確認済みだ。まあ、翔一が嘘つくなんて思ってないけどな。


 だが、時折見せる翔一のこういう可愛いところが、なんていうかとても胸が締め付けられるようなぽわぽわした気持ちになる。

 すごく、抱きしめて甘やかしたい気持ちになるのだ。


 私たちは夫婦だ。もちろん娘の妹か弟を作る行為だってしている。翔一に抱かれると、どうにもこうにもいじめられたくなってしまう自分がいるのだが、翔一も攻めたい派の人なのか、相性は抜群と言ってもいい。本当に、するときはベッドが色々なものでグチャグチャになるから大変だ。


 私はそんなことを考えていたからか、衝動が抑えきれず、翔一の隣に寝転がった。


 「しょういち……」


 ああ、翔一の横顔……耳がある……食べてしまいたい……


 私はよく考えず、ただ目の前にあった翔一の耳をパクっと甘噛みしてみた。

 キスとはまた違った感触。柔らかくて所々硬い。この噛み心地、癖になってしまいそうだ。


 「はむはむ……」

 「ママ、なにしてるの……?」

 「―――!?」

 「パパの耳、噛んでる?」

 「い、いや、これはだな……」

 「私もしたいっ!」

 「だ、ダメだ!これは私のものだっ!」

 「ママのケチッ!」


 私は娘のおねだりに対して、翔一を独占しようと強く抱きしめた。

 だが、それがよくなかったのだろう。翔一が「んん……」と、苦しそうな声を出しながら起きてしまった。


 「……うるさいよ」

 「あ、ああ、すまない!」

 「まあいいよ。おかげで、体調もある程度は良くなったし」

 「よ、よかった」

 「真唯まいも学校楽しかったか?」

 「うん!楽しかった!」


 今更だが、娘の名前は天羽真唯だ。

 娘には正直に生きてほしいという思いを込めた「真」と私と翔一の名前にある「い」を取って、「真唯」だ。私たちの大事な娘の名前だ。


 「その、体調がよくなったなら、ご飯食べるか?」

 「そう、だな。腹も減ったし、久しぶりの玲羅のご飯か」

 「で、でも、翔一ほどうまくないし、食材もないから……」


 そうやって、私が言い訳みたいなものを並べると、翔一は優しく私のことを抱きしめた。

 そのまま彼は、私の耳元で囁いた。


 「作ってくれるという気持ちがうれしいんだよ。それに、俺はこの世で玲羅の作る料理が一番好きだ」

 「翔一……」

 「あー!パパとママが、またイチャイチャしてる!」

 「イチャイチャって……どこで覚えてくるんだよ……」

 「パパとママのこと言ったら、クラスのみんなイチャイチャって言うの」

 「は、恥ずっ、クラスで言ってるの!?」

 「うん!」


 娘も私たちに交じって翔一に抱き着いた。

 私と娘は翔一にメロメロなのだ。


 「私、パパと結婚する!」

 「ダメだ!翔一は私のものだ!」

 「7歳児の娘に嫉妬するなよ……」

 「いいや!これは譲れない!翔一は私の夫なんだ!」

 「ぶーっ!ママのケチっ!」

 「ふふん!悔しかったら、翔一くらいいい男を捕まえるんだな!」

 「玲羅……」

 「まあ、私は翔一に仕留められたんだけどな」


 そうだ。私は学生の頃に、翔一に心を射止められた。

 そんな人は、過去も未来も翔一だけだ。


 「んー、じゃあ、パパよりいい人見つけたら、パパと結婚できる?」

 「させないっ!真唯がその男と結婚しろ!」

 「ヤダ!パパと結婚する!」


 その後は翔一をめぐって、翔一を抱きしめながら言い合いをしたが、結局2人とも翔一に抱きしめられて、2人して「ふにゃあ……」と言いながら、その場は収まった。


 次の日


 「ゴホッゴホッ……翔一、すまない……」

 「パパ、苦しいよ……」

 「なにやってんだよ、2人とも」


 私と娘は、2人とも翔一の熱が移ってしまった。


 だが、久しぶりに口移しをしてもらえたのでよしとしようではないか。

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