瞬神斬鬼
自分の死を直感して、目を瞑るがその瞬間はいつまでたっても訪れない。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
目を開けると、大きな胸の中に私は抱き留められていた。
あまりにもとっさのことで頭が混乱しているが、私を抱き留めているのは翔一じゃない。
胸の厚さや硬さが全然違う。それに、声も違う。
この声は―――
「柊さん……?」
「よかった、怪我がなくて」
「おいおいおいおいおい……おいっ!てめえは邪魔しかしねえなあ!」
「うるさいな。お前は誰に銃を向けたと思っている?」
「ああ?そこの女だろうがよ」
「もう、どうなっても知らないぞ」
「ああ!?なに言ってやがる」
男と会話しながら振り返る柊さんの背中には、黒い焼け跡があった。さすがの私でもあれがなんなのかわかる。
銃創だ。彼は、私を庇って銃弾を受けていた。
「そ、その……背中……」
「ん?ああ、問題ない。君も知っているだろう?私はもはや現在の人類種の範疇に収まる存在じゃない」
「そんなの知らない……」
その瞬間、言いようの圧を感じた。
おそらく、柊さんから感じるもの。翔一と一緒にいたことで、そういうものをわずかに感じることができるようになっているのだと思う。
だが、相手側からもそれを感じる。
本当に柊さんは勝てるのだろうか?
「グアアアアアアアア!」
「馬鹿の一つ覚えみたいに……だから、お前は負けるんだよ」
柊さんは、ありったけの力を込めて相手に向かっていった。
だが、相手の男はそれをなんでもないことのように躱して、側部に回り込みんで柊さんの胴体に拳を降ろした。
ドスッという変な音がしてから、柊さんはわき腹を抑えながら後ろ―――私の方に後退してきた。
血は出ているように見えない。でも、明らかに様子がおかしい。
「お前、なにをした……」
「なにって……これのことか?」
「注射器……?」
男は拳の中から、注射器を取り出した。
あれを拳を握って隠してしまえば、それは簡単に見えなくなるものだ。あれを持ってなにを?
そう思うと、柊さんが膝から崩れ落ちた。
「ぐ……ぬう……」
「ほらほら、聞いてきただろう?二家特製の強制停止剤だ」
「……なぜ、お前がそれを……」
「簡単だよ。昔からいるんだよ、協力者がなあ!」
「ぐあっ!?」
そう言って、男は柊さんを蹴った。それをもろに受けた彼はまともに受け身も取れずに背中を打ち付けた。
それに間髪を入れず、男は私に銃口を向けた。
「ほら、早く吐けよ。そうしないと女を殺すぞ」
「……ひっ」
「れ、玲羅様に手を出すな!」
「うるせえ!だったら、早く娘の場所を吐け!」
その瞬間だった。
私の目の前を一瞬だけ、なにかが通った。
いや、通り過ぎた後であろう時に風が吹いたのだ。
そして、それを認識した時
シュッ!
風を切る音ともに、銃口を向けている男の腕が切れた。
「ぐあああああああ!?」
「だから、言っただろう。玲羅様に手を出したら、どうなっても知らない。と」
「え……?」
私が風が過ぎ去っていくほうに目を向けると、そこにはいなかったはずの人が―――私の最愛の人がいた。
いつもと違って、袴に身にまとって帯刀している翔一が。
後ろ姿しか見えないが間違いない。
「わかってる。誰一人として帰すつもりはねえよ、わかったからお前は、お前の作業に集中しろ美織」
そう耳を抑えながらしゃべる翔一の目は、明らかに見たことがない怒気に満ちていた。
「さあ、派手に行くぜ……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は、校門からの侵入は不可能と踏み、裏門の方に来ていた。
裏門は数人の警官と規制線が敷かれているだけで、さほど入り込むのに困難ではなかった。
要は誰の目にも映らなければいいのだ。
裏門から占拠されている校舎は少しだけ遠い。そうなれば、警察も俺に気付くことはおそらくない。
そんな感じで、警察の包囲網を突破してすぐに校舎の裏昇降口が目に入った。
だが、そこには2人ほど見張りらしき人間がいた。
ザザッ―――
「美織か?」
『今は裏手にいるのね?』
「まあ、そうだな。見張りは目の前に2人いるが、他にいるか?人が多すぎて気配を察知するだけじゃどうにもならない」
『そうね。私の情報の限りだと、裏の入り口を見てるのはその2人だけよ。死んだら頭に連絡が行くとかそういうのはなしね』
「じゃあ―――」
『今殺しても、問題ないわ』
「了解」
美織の言葉を聞いてから、俺はすぐに走り出した。
走り出した直後、見張りから見えない距離で壁に飛び移り、奴らの上に走って回り込んだ。
そのままその壁を踏み台にして、俺は刀に手を添えて構えた。
「ふぅー……」
俺は壁から一瞬で片方の胴を斬って、男たちの目の前に着地した。
「なん!?てめ……」
斬られた男はなにを感じることができず、もう片方も俺がトリガーを引こうとした腕を切り落とし、叫ばれる前に顎から脳天にかけて刀を貫いた。
男が脳を貫かれて絶命した瞬間、最初に斬られたほうも真っ二つに体が離れた。
ザザッ―――
「処理完了」
『了解、そのまま進んで。廊下に監視らしき監視はいないわ』
「わかった。じゃあ、まずは俺たちの教室に行くぞ」
『わかったわ。じゃあ、そのまま目の前の階段を走って上がっていって』
「了解」
俺は美織の言葉通りに階段を駆け上がっていた。
美織の情報がほぼ100%の正確率を誇るとはいえ、かもしれないで行動はする。
曲がり角で、人の気配がないか一応警戒はして進んでいく。
そんなことをしているから、どうしても階段を長く感じてしまう。
そんなこんなでようやく、俺のクラスがある階に到達した。
ここまでくると、鮮明に玲羅たちの気配を感じられる。
そう思ったのもつかの間、俺は玲羅のいる場所に違和感をおぼえた。
玲羅がほかのクラスメイトと離れた場所にいる?
クラスのほかには知らない気配が二つ。片方は死んでいるが、もう片方は玲羅のすぐ近くにいる。
さっきの衝撃音から柊が突入していると思ったが、特に気配を感じない。
そこで俺は一つの考えに至った。
玲羅を守る過程で柊のおっさん、やられたな?
そう考えると、俺は走り出していた。
玲羅が殺される。
俺は即座に教室に到着。たまたま開いていた廊下側の窓に乗り、中の様子を確認した。
俺の感覚が、かなりの集中状態にあったからか、中の動きはゆっくりに見えたが、そこは俺の想像とほとんどたがわない光景が広がっていた。
殺す
それ以外の考えは一瞬にして消え去った。
俺はそのまま窓の下に美織に渡されていたものを刺して、先ほどの技を玲羅に銃を突き付けている男に使った。
てめえらに、容赦なんかいらないよな?
派手にその命、散らしてやるよ