いつもの日常
3年前
「はい、これでHRを終わります。各自、課題の提出が終わっている人から帰宅してください」
俺の名前は椎名翔一。
とある金持ち学校に通う一般の中学生だ。
一般とは言うが、親の実家の方は普通からかけ離れたクソ家なのだが、ここはスルーだ。
そんな俺は、学校の授業も終わり帰宅の準備をしていると、とある女生徒たちに話しかけられた。
「翔一、今日、あなたの家に行ってもいいわよね?」
「ごめんねショウ君。みおちゃんが言うこと聞かなくて……」
「別に気にしなくていいよ、綾乃。俺とお前は婚約関係だし、なんだかんだ、美織とは腐れ縁だし、それに結乃も喜ぶからさ」
「ふん!だから大丈夫って言ってるのよ!こいつ、シスコンだから私たちを拒否するなんてありえないわ!」
「言うじゃねえかこの野郎!誰がシスコンだって!?」
「わわ、2人ともこんなところで喧嘩しないで!」
俺に話しかけてきたのは、同級生で幼馴染の条華院美織。言葉遣いとか色々残念だが、超富豪の令嬢だ。
そして、もう一人の茶髪を短く切りそろえて、のほほんとした雰囲気をまとった女生徒は姫ヶ咲綾乃。俺の婚約者だ。
いつものように、俺と美織が衝突して、綾乃が困惑する。
小学生の頃から見慣れたものだ。そんな光景をクラスの奴らも、またあいつらかと見ている。
そんな俺だが、話しかける男子生徒―――友人もいる。
「翔一、はやくグラウンドに行って練習しようぜ」
「ああ、ちょっと待ってくれ斗真」
話しかけてきた男子生徒の名前は、真柴斗真。中学一年にして、次のチームのキャッチャー候補だ。それに、周りより明らかに野球がうまく、将来のキャプテン候補の一人だ。
そんな彼は、俺とバッテリーを組んでいて、この中学ではかけがえのない親友だ。
そうして、俺は美織と綾乃と別れて野球部の活動に向かい、すぐにキャッチボールを始めた。
正直、うちのチームは誇れるほど強くない。勉強優先の私立校だから、運動部が弱いのは仕方がないが、俺はそんなのは嫌だ。
だからこそ、どうにかして、こいつらを全国でも戦えるくらいに成長させたい。
だからこそ、うちの部の顧問が放任主義なのがありがたい。練習メニューをうまく組み替えられる。
俺たちが入学してから早くも3か月。もうすぐ、三年生最後の大会の日が近いから、全員練習に身が入っている。
「集合!」
「「「はい!」」」
練習中、監督の呼び出しが入り、全員が集められる。
おそらくだが、大会のメンバー発表だろう。だが、今のチームは9人ぴったりなので、全員がレギュラーなのは確定なんだけどな。まあ、重要なのはポジションだ。俺はこのチームのエースになるんだ。
「これよりメンバー発表をする。三年生はこれが最後の大会だ。悔いの内容にやれよ」
「「「はい!」」」
「一年生も入ったばかりで慣れないと思うが、飲まれずにのびのびと野球をするんだ!」
「「「はい!」」」
その後、順調にポジションと打順が発表されていき、ついに俺の番が来た。
「8番ピッチャー椎名!お前には期待している。思いっきり大会で暴れてやれ!」
「はい!」
そうして渡された背番号は1。エースナンバーだ。
そして、真柴は2番。キャッチャーの番号。そう、俺たちは親友にしてバッテリーとなったのだ。
その日から3週間後の週末
俺たちは最後の大会の準決勝に進出している。
ここを勝てば、都大会の出場、そして多摩大会の出場が確定する。
そんな大事な試合だったのだが、先輩が緊張からか簡単な球を落球してしまった。
そこで入った点が決定打となり、俺たちは地区大会敗戦となってしまった。
そうして、多摩大会の残りの一枠をかけて試合もあったのだが、そこでも敗退してしまい、俺たちの先輩の夏はそこで終わりを告げた。
その日の夜、俺は自宅で美織、綾乃、結乃の三人に慰められていた。
「たった一回負けたくらいなによ!あんたなら全国行けるわよ!」
「そ、そうだよ!ショウ君は、野球うまいから絶対全国行けるよ!」
「もう……お兄ちゃんったらプレイボーイなんだから」
「おい、妹、兄をおちょくってんのか?」
別にそこまで落ち込んでるつもりねーんだけどなあ?
負けたのは悔しいし、思うところはある。
試合中も、あれはボークだろ!だとかボール球だろ!みたいなことはあった。だが、審判の判断は絶対だ。それが勝負の世界。
「別にそんなに落ち込んでねーよ。次だ次。俺たちは次の新人戦で結果を残せばいいんだよ」
「そうだよ、ショウ君!その元気があればきっと報われるよ!」
「……ていうか、なんで翔一は野球なんてやってるのよ。あなたの家は武術宗家でしょ?それにあなたは天才って言われてるんだし、十分食っていけるでしょ?」
「それを聞くか?」
「当たり前じゃない。こっちはあなたが島の外に出るって言うからついてきたけど、理由を聞いてなかったのよ」
「理由ねえ……」
若干中二病じみてるから、言いたくはないんだけどなあ
「単純だよ。意味がないからだ」
「「「意味?」」」
「ああ、戦う意味も、殺す意味もない。悪人を殺してもすげ変わるだけ。そんな不毛なことをするなら、俺は楽しいことをしたい」
「翔一らしいわね」
「そうだね、ショウ君らしいよ」
「ていうか、そんなこと言ってないでさっさと飯食えよ。冷めるぞ?」
俺がそう言うと、3人は―――いや、結乃はすでに黙々と食ってるから、実際は美織と綾乃の2人か。2人は、慌てて食べ始めた。
「にしても、ショウ君のご飯はおいしいね」
「さすが、家のシェフに料理を習っただけのことあるわね」
「まあな。今は男も料理を作る時代だ。それに、手料理を食べてもらって、笑顔になってくれるのは見てて気分がいいからな」
今日の夕飯はハヤシライスだ。
うちの両親は、俺のわがままのせいで仕事が多く、中々帰りが遅い。そんな二人のために料理を作るのも俺の仕事だ。
帰ってきて疲れた二人が癒されたような表情で食べる姿が、なんとも言えないほどに尊く見える。
「「「ごちそうさま」」」
「お粗末様でした」
「ふぅ……じゃあ、翔一、私たちは家に帰るから」
「夕ご飯ありがとうね、バイバイショウ君」
「送ってこうか?女子二人は何気に危ないだろ」
「大丈夫よ。私がついてるのよ。こう、蹴り上げて玉持って行ってやるわ!」
「それを阻止するために送ったほうがよさそうな気がしてきた」
「うっさいわね!ほら行くわよ綾乃!」
「わっ……また明日ね」
「ああ、また明日な、綾乃」




