大いなる力
コンコンコン
担任の先生に連れられてきたのは校長室だ。おそらくではあるが、先週の件で重要人物が来ているのだろう。
部屋に入ると、予想通りで想像した通りの人物がそこにいた。
ほかの教職員は、どうしたらいいのかわからないのか気まずい府に気が流れている。なんせ、国の議員がこんな学校に来て、真面目な表情で立っているからだ。
だが、俺にはそれが苛立ちから来るものではなく、恐怖に見えた。
「来たか……椎名君、こちらは」
「金剛議員だろ?さすがに知ってる」
「そ、そうだ。今日は、議員が君に話があると、直々に来てくれたのだ」
「校長先生、前置きはそのくらいにしてください。君が椎名君か?」
「はい」
「そうか……本当に申し訳ない!」
校長室にいた教員は全員が目を疑った。なんせ、国会議員が一生徒に土下座をしたからだ。
「血相変えて土下座するのは俺だからか?」
「い、いや、他の人に対してもこうする」
「じゃあなんでほかの被害者に何も言わない。把握していないわけないだろう?」
「う……申し訳ない」
「ちっ、謝罪なんていらねえよ。そもそもおっさんの土下座なんざどこに需要があるんだよ」
「ちょ、椎名君、相手は国会議員だぞ!」
「そこまでするってことは、俺がなんなのかは理解しているんだろう?」
「は、はい!」
はたから見れば、国会議員に対して横柄な態度をとる高校生に見えるが、これほどまでの立場の人間になると、椎名、条華院、両家の噂くらいは聞くのだろう。どういった家か、良い噂も黒い噂も。
このくらい強く出れば、この男の不始末はすぐに片付くはずだ。
どちらかと言えば、俺は被害者ではない。だが、他の人はそうではない。数々の非行のとばっちりを受けた生徒はたくさんいる。奴のせいで、退学に追い込まれた生徒もいる。
たかだか土下座程度で許されることじゃない。
「し、椎名君、君は……」
「深入りはするな。命が惜しいのなら、俺に絡むな」
「う、うむ……」
「ど、どうか、除名だけは」
「条件がある」
「―――というと?」
俺は家にこのことを伝えない代わりに条件を提示した。
ひとつ、すべての被害者に謝罪させること
ひとつ、金剛をこの学校から転校させること
ひとつ、二度と俺に関わらないこと
この三つを守れれば、家には言わないと約束した。
議員も、この程度のことで自身の命が保証されるのだから、破る理由がない。
「本当に息子が申し訳なかった。今からでも転校手続きを……」
「こ、金剛議員!?」
「すまない、約束なんだ。金剛を転校させる。その手続きを今から始めてくれないか?」
「し、しかし……」
金剛の転校を渋る校長。
ああ、金か。おそらく金剛の悪事が見逃されていたのは、議員の息子だけではないのだろう。おそらく、金剛父が学校に募金的なことをしていたのだろう。しょうもない
その後、渋る校長をなんとか説得した議員は手続きをして、学校を去っていった。
この一件以降、この場にいた教職員に、俺は恐れられるようになった。
ここまでをことをやったが、実を言うと俺の一存では議員をどうこうは出来ない。家を出た身だからな。まあ、それを知ってるのは、俺の家族と美織だけだ。
俺が教室に戻ると、なぜか教室の雰囲気が最悪だった。
正確に言うと、クラス内でも中心にいる男子の機嫌がものすごく悪いのだ。
俺は授業が始まる前に、玲羅のことの顛末を聞いて納得した。
そりゃそうだな。美織に『クソビッチ』は禁句だ。彼女も、あの女のことが心底嫌いだからな。
それにしても馬鹿だな。美織に勝てる男なんざ、一般にはいねえよ。
その後は、特に何もなくいつの間にか放課後になっていた。
いつも通り、玲羅と手をつないで帰宅し、いつも通り、三人で晩御飯を食べて就寝した。
しかし、俺と玲羅はこれからが本番だ。
部屋をノックすると同時に、玲羅が俺の部屋に入ってきた。
「おじゃましまーす」
「返事する前に入ってきちゃってるじゃん……」
「べ、別にいだろ……私はお前と寝るのが楽しみなんだぞ」
「もうノックの意味が……まあいいか。どうせ見られて困ることなんかやってないし」
「じ、じゃあ、失礼する……」
ここのところ、玲羅とは毎日眠っている。
添い寝どころか、毎日抱きしめ合いながら寝て、目を覚ます。俺が朝ごはん作るために早く起きるときは、起こさないように気をつけなきゃいけないから少し大変だ。
俺の布団の中に入ってきた玲羅は、頬を緩めながら顔を胸にうずめてきた。
「むふふ……しょういちぃ」
「なんだ?」
「呼んだだけだ」
「玲羅……」
「なんだぁ?」
「ふふ……呼んだだけ」
このなんでもないやり取りがどれだけ幸せか。
そう思っていると、玲羅がなにかに気付いたのか上体を起こして言ってきた。
「翔一……」
「ん?こんどはなに?」
「キスマークが消えかかってる」
「ん?そんなことか」
「そ、そんなこととはなん―――」
「ほら、好きなだけつけていいよ」
「―――だ……いいの?」
「言ったじゃん、玲羅は俺のもの。俺は玲羅のもの。お互いがお互いを好きにする権利があって、そこに愛があればなんでも叶う」
「後半は言ってないだろ……」
「バレた?」
「わかるに決まってる。私は翔一の一言一句おぼえてるからな」
そう言い玲羅だが、差し出された俺の首筋には迷わずかみついた。かみついたと言っても甘噛みだがな。
また首筋の方から可愛く「はむはむ……」と声が聞こえてくる。
めっさ可愛い!
「はむ……よし、綺麗なマークがついたぞ」
「そう?じゃあ寝ようか」
「し、翔一……」
「ん?」
「私の首を見てくれ」
「……」
玲羅の首筋には、まだ少し手形の赤みが生じていた。
俺がつけてしまったものだ。キスマークと同様に一夜で消えるようなものではないが、ようやく目立たないくらいには赤みが引いてきている。
それがどうしたというのだろうか。
「だいぶ薄くなってきただろう?」
「それが……どうした?」
「翔一も更新するか?こう―――首絞めで」
「玲羅、超えちゃいけない一線がある」
「翔一……?」
「そう言うプレイの一環で首を絞めるのはあるかもしれない。正直、そう言うプレイには興味はある。お尻を叩くくらいならやってみたいが、窒息とか命の危険が関与するようなことはしたくない」
「……わかった。でも、お互いの具合がわかってきたらいろんなことしような。それこそ、メイド服を着て……」
そう言いながら顔を赤くする玲羅。
恥ずかしいなら言うなよ。
それにしても、日に日に玲羅のエッチ度が増してる気がする。
玲羅、お前……美織と結乃の影響、しっかり受けてるな?