運命
玲羅とイチャイチャしながら過ごす休日というものは、過ぎるのが早く、あっという間に週明けの月曜日を迎えてしまった。
別に月曜が来てほしくないという意味ではなく、ただ学校に行くのが憂鬱だったのだ。
記憶にはないが、金剛があれだけの大けがを負うほど、俺は大暴れしたんだ。どんな目で見られるか……
退学、停学とかは気にする必要はないと思う。奴の父親が本当に国会議員なのだとしたら、俺に手を出すことがなにを意味するかくらいは分かるはずだ。もしかしたら、金剛の入院期間が延びることになるかもしれないな。
「ふあ……おはよ、翔一」
「ああ、おはよう」
「ん、いつもの」
「はいはい……ちゅ」
朝から色々考えていた俺は、それをかき消すかのようにキスをした。
それから、玲羅の着替えを待つために、俺は先に食卓についた。久しぶりに、家族そろって朝を過ごせる。
結乃が、玲羅のことを義姉さんと呼ぶのは、少し驚いた。れい姉とかそんな感じだと思ってたからだ。でも、そっちはそっちで悪くない。
しばらくすると、玲羅が下りてきた。
彼女は、学校の制服に身を包んでいた。最初、玲羅が志望していた学校である帝聖は、セーラ服が制服だったが、希静はブレザーだ。
セーラー服姿も見てみたいが、ブレザーもそれはそれでいい。そもそも、玲羅はプロポーションが良いから、似合わない服なんてないと思うけどな。―――さすがに幼稚園服とかは……意外といけるか?
ピッチピチでパッツパツにキッツキツの服を着る。玲羅の豊満なボディが……おっとこれ以上は、よくないようだ。
だが、帽子をつけて小さい鞄を背負って「お兄ちゃん」とか言ってきたら……ダメだ。犯罪路線に足を踏み入れてしまう。さすがにその性癖はアウトだぞ椎名翔一。しっかりしろ。
「なにを考えてるんだ?」
「いや、玲羅にはどんな服も似合うな―、って」
「もう……翔一はお世辞がうまいんだから」
「いや、多分本当に似合うよ。俺の部屋にあるメイド服着てみる?」
「なんでそんなものがあるんだ?」
「……俺に質問するな」
「なあ、本当になんで持ってるんだ!?」
そう言って、騒がし玲羅を華麗にスルーして、結乃が来るのを待つ。そんなことをしていると、俺の妹は厄介なことをするのだ。
「お兄ちゃん、恋人に着させて奉仕させるんだー!って言って、通販で買ってたよ」
「ちょ、なんで知ってるの!?」
「ふふん、お兄ちゃんのことはなんでも知ってるのだ!」
「し、翔一……奉仕って……」
「そういう意味じゃないぞ!その時は、呼んでる小説がメイドとの恋愛ものだったから!それだけだから!」
「わ、私はしてもいいぞ……?」
「ふえ?」
マジ……?
玲羅の言葉で、俺は一瞬でフリーズした。良いって、そういうこと?
俺の驚きをよそに、結乃は空気をぶち壊してくる。
「お兄ちゃん、義姉さん、おはよう!」
「ああ、おはよう」
「ふふ、結乃は今日も元気だな」
「ふはは!私はいつだって、元気ハツラツ!朝からでも相手してあげるのよ!」
「「なにを?」」
「ナニに決まってるでしょ!綺麗な歌声聞かせてあげる!」
「もうしゃべんな」
ダメだ。こいつは元気になったかと思えば、下ネタしか言わねえ。
いや、いいんだけどさ。こいつに彼氏ができるか本当に不安なんだけど。
そんな不安をよそに、2人は席に着いたので、俺たちは朝ごはんを食べ始めた。
「「「いただきます」」」
「んー!翔一、おいしいぞ」
「やっぱりお兄ちゃんのご飯の味知っちゃうと、他の人じゃ満足できないなあ。寝取られならぬ舌取られだね」
「ごめん意味わかんねえ」
相変わらず結乃にはついていけないが、幸せそうな表情でご飯をほおばる玲羅を見るのは、すごく心地が良かった。
朝ごはんを食べた後は、各々が登校の準備をし、少し学校が遠い俺たちが先に家を出る。結乃が、いつも遅めに出て家の鍵を閉めているのだ。
「じゃあいってくる。戸締りを忘れるなよ」
「もー、私も子供じゃないんだからさあ」
「お前、去年なんかい窓のカギを閉め忘れた?」
「う……」
「前科持ちは疑われるの。まあ、最近は気を付けてるみたいだしいいけど」
「じゃあ、言わなくていいじゃん!」
「それでもだよ。それのせいで大事な妹が傷ついたとか言われたら、悔しくて仕方がない」
「……もう、なんでそうイケメンみたいな発言するの……」
「結乃、違うぞ。翔一は、イケメンみたいじゃなくて、イケメンだ」
「そうだね。義姉さんの言う通り!その妹の私も、美少女なのだ!」
妹の一言はいつも余計。
でも、悪い気はしないな。2人にイケメンと言ってもらえて喜ばない男がいるはずがない。
そうして、俺たちは家を出た。
登校中は、2人で手をつないで登校しているが、今日はいつもよりもお互いの左手が気になっていた。
薬指にはめられた指輪。しかもおそろいのもの。
普段から、通りすがりの人が気にしているわけがないのだが、少し自慢したい気分になってしまう。この人が俺の妻だ!一目惚れで結婚できたんだ!ってさ。
でも、さすがに通りすがりに言うのはまずいので、心の中だけにとどめておく。
ちなみに、うちの学校はアクセサリー類は大丈夫な学校だ。偏差値が高い分、学校の校則は緩い。というより、できて当たり前という感じなのだろう。
まあ、だからこそ、玲羅は俺に指輪を渡すことができたし、こうしていつもつけていられる。こうして考えると、希静を選んだ俺をほめたたえてやりたい。
構内で電車を待つ玲羅は、俺の肩に頭を乗せてきて言った。
「翔一、今本当に幸せだ。こうして、お前と肩を並べて歩けるのも、私がお前だけを見て生きているのも、結婚しようと言ってそれを受け入れてくれたこと。全部、翔一がくれたものだ。ありがとう」
「別に気にする必要ないし、なんなら玲羅は俺の心をずっと前に救ってくれてたんだよ。転校したばっかで、半分壊れてたのをつなぎとめていたのは、一目惚れした玲羅の姿だったんだよ」
「……そうか。お互いがお互いを救っているんだな」
「そうだな」
「そう考えると、運命だな。翔一が転校して来なければ、私は救われなかったし、翔一も心が持っていなかった。私たちは運命で結ばれてるんだ。きっとそうに違いない」
「ああ、俺たちは運命で結ばれているんだよ」