選手の交代をお知らせいたします
「プレイボール!」
審判の掛け声とともに、練習試合が始まった。
練習試合とは言うが、推薦組以外の新入部員を呼び込むためのものである。
それは相手行も同じで、大量の両校の生徒たちが見に来ている。
まあ、純粋に野球部に入ることを検討してる奴なんていない。ほとんどが、彼氏や、好きな人など、カッコいいもの見たさで来ている人ばかりだ。
俺だったら来ないけどな。暑いし、日光に当てられて痛いし。
そんな俺は、ベンチで待機してるんだけどな。
まあ、入るときも色々あったよ。
あれはほんの十数分前にさかのぼるのだが、俺はユニフォームを着て、部員たちが集まっているところに行ったのだが
「え?誰だ、お前」
とか言われる始末だ。おい、監督。出すなら説明しとけ
そんなことを考えていたら、金剛に話しかけられてしまった。
「おい一年」
「あ?ああ、金剛先輩か」
「先輩に向かってなんて口の利き方だ。殺すぞ?」
「尊敬に値するなら、敬語使ってやるよ。尊敬できるならな?」
「ああ?やっぱ、今から殺す!」
「やめろ、金剛。試合に出れなくなるぞ」
そう言って、制止しする副部長。こいつが、金剛とバッテリーを組むキャッチャーだ。ちなみに、独断で金剛に助っ人を頼んだのもこいつだ。
ちなみに、こいつが試合の途中で変えられることは伝えられていない。なにやら、こいつも自尊心が高く、プライド命みたいな人間なので、なにをするのかわからないらしい。
「おい一年。どうやって入ったかは知らないが、あんまり先輩を舐めてると痛い目に遭うぞ」
「そう言う安い挑発はいらねえよ。いっちょまえに言うんだったら、プレイで魅せろ。ま、無理だと思うけど」
「こいつ!」
「もうその辺にしておけ!狩野(副部長)、あまり子供じみた行動をとるなよ?」
「ちっ、わかってるよ」
そう言って、俺のもとから副部長と金剛は離れていった。
そして、バッテリーで練習を始めて、こちらを見ることができなくなってから、部長が頭を下げてきた。
「すまない。全中のエースだった君からしたら、うちなんか弱小も弱小だ。だというのに、あんな態度を取ってすまない!」
「問題ないですよ。それに、俺はこのチームのことをバカにしてるわけじゃないですよ。あいつらの生き方を笑ってるんですよ」
「それも問題を起こすから控えてくれないか?」
「……わかりました」
―――と、まあこんなことがあったのだが、正直どうでもいい。一目見ただけで、狩野と金剛は、プライドに対して、そんな実力もないから興味がわかない。むしろ、今隣にいる双葉のほうが気になる。
彼は、この試合に幼馴染の貞操がかかってる。表向きはデートだが、十中八九体の関係を迫ってくる。そうである以上は、どうにかして俺たちが途中出場で活躍をしなければならない。それも、金剛のものが薄れるくらいに。
だが、そこで障壁になるのは、金剛信者の女子たちだ。まあ、ハーレム要員だ。
学校には金剛を嫌う女子と、好きでいる女子の二派閥があり、両者互角の勢力だ。厄介なのは、俺たちが出た時に暴言を浴びせてくることだ。
俺は構わないが、双葉のモチベが下がると困る。スポーツは精神も関わるものだからな。
試合が始まって、金剛は持ち前の剛腕から繰り出される140km/hの球で、1番2番と抑えていった。相手も中々の強豪校だから、中々すごいと思うものは多いだろう。だが、そんな程度では―――
『3番 キャッチャー 真柴君』
キャッチャー真柴!?いや、そんなわけ……
俺はアナウンスで呼ばれた名前に絶句した。それは、中学時代、俺とバッテリーを組んでいた男の名前だったから……
そして、バッターボックスに立った男は、見間違いようがない、俺の知っている真柴その本人だった。
真柴は、金剛の投げる球を一瞬でとらえ、バックスクリーンに直撃させた。
ホームランだ。
その一打で、相手校は一気に盛り上がった。だが、うちも負けてはいない。今後信者の女子たちが「空気読め!」だとか「恐れ多いのよ!」だとかほざいてる。
野球を舐めているのだろうか?
真柴がダイヤモンドを一周したことによって、相手に一点入るが、金剛は次の4番を抑え、その回は終了した。
ベンチに戻ってきた金剛はとても不機嫌だった。
「ちっ、この俺からホームランだと?舐めてんのかよ」
はあ……これだからスポーツを舐めてるゴミは……
「金剛、野球は基本打たれるものだと思っておけ。特にお前のような、変化球を投げない奴の球など、いつか打たれる」
「はっ、打たれるわけねーだろ?なんたって、140は出てるんだぞ?それに球威だってある。当たっても飛ばねーんだよ!それで打たれたなら、キャッチャーのせいだよ!」
「金剛、お前のそういうところがお前自身の成長を阻害していることを気付いたほうがいいぞ」
ああいってはいるが、たしかに金剛の球は初見なら打つのは難しい。初見ならな。
だが、俺たちみたいな全中行ってる奴らからすれば、まっすぐしか投げないピッチャーなんぞカモだ。バッティングピッチャーと何も変わらん。
まあ、真柴という男さえ出てこなければ、金剛は三者凡退で終わらせられたかもな。
その後の攻撃は、三者連続の内野安打ですぐ交代となった。
相手のピッチャーは中々いいな。
その後の展開も、金剛が5から7番のバッターを抑え、その次の回は先頭の金剛がホームランを打って、同点に追いついた。
だが、異変が起きたのは4回。3回でも1番に打たれたのだが、4回からはさすがにまっすぐしか投げない(それどころか緩急もつけてない)金剛の球を見切ったのか、打たれるようになってきた。だが、決定的な場面では抑えているので、得点は4-2となっていた。
だが、回を進めるごとに、金剛はどんどん不機嫌になっていった。
「おい、勝っても負けても、俺が活躍したんだから、マネージャーよこしてくれるよな?」
「い、いや……さすがに勝たないと」
「いいよな?」
「は、はい……」
意志よわ。なんで、副部長やってんの?
その次の回で事件が起きた。まあ、事件かと聞かれたら、そうじゃないと言いたいがな。
ついに、満塁で真柴に回ってきた。奴が打ったのは、走者一掃の満塁ホームラン。これで、8-2となり、いよいよゲームが厳しくなってきた。
「ああ!ふっざけんな!」
そう言って、グローブを地面に叩きつける金剛。その姿にムカッとしたが、我慢した。
そして、それを見かねた監督が、ついに切り札を切った。
「2人ともいけるか?」
「俺はいけます」
「俺もです!」
それを聞いた監督は、タイムを入れ、主審に選手交代の知らせをしに行った。
『選手交代のお知らせをいたします。キャッチャー、狩野君に変わりまして、双葉君。3番キャッチャー双葉君。背番号10。ピッチャー、金剛君に変わりまして、椎名君。4番ピッチャー椎名君。背番号11番』
相手のベンチ側で、アナウンスを聞いた真柴が驚いた顔をしていたが、俺はそんなものは見えていない。
さあ、抑えるよ