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水炊き鍋

 「じゃあ、私が先に入ってくるぞ」

 「いってらー」


 帰宅してから少しして、玲羅は風呂に入っていった。ちなみに、俺はすでに入り終わっている。

 俺と結乃は食事の準備だ。今日の当番は結乃。だから、主軸は結乃で作っている。まあ、帰宅したばかりの俺では無理だ。さすがにあれだけのことがあったのだ。体力的にきついものがある。


 「楽しかった?」

 「うん?まあ、楽しかったぞ2日目の途中までは」

 「現場制圧したって話、やったのお兄ちゃんでしょ?」

 「そうだぞ。さすがに宗術までは使ってない。せいぜい法力までだ」

 「そこじゃないよ……」

 「どうした?」


 少しだけ、結乃のトーンが低いことに気付いて顔を覗き込む。いつもなら笑いながら下ネタなりなんなりをぶち込んでくるのに。


 そう思っていると、急に結乃は俺の胸倉をつかんできた。しかも、その顔は怒りにも悲壮にも染まっていた。


 「ねえ!心配させないで!お兄ちゃんが強いのは知ってる!でも!」

 「……悪かったよ」

 「ねえ!不安にさせないで!怖くさせないで!一人に……しないでよ……」


 ハッとした。

 結乃は両親を失って俺と2人きり。もう、彼女も強いから俺がわざわざ見守る必要もないかと思っていたが、そういうことでもなさそうだ。やはり、結乃は俺がいなくなれば家族がいなくなる。結乃が恋愛をして、結婚し子をなしたとしても、それまでは寂しい思いをしてしまう。


 まだ、兄離れは出来てないみたいだな。


 俺は、結乃の頭を抱えて抱きしめてやる。恋愛的な感情はない。家族愛だ

 俺が抱きしめると、結乃は黙って抱き返してくれた。だが、少しだけ泣いている。それだけ不安にさせてしまったのだろう。


 「シスコン……」

 「ああ!?兄に抱き着いといてそれはねえだろ、このブラコン!」

 「はあ!?抱いたのはそっちでしょ!なにか!?あれか!玲羅先輩と私で3P狙ってんのか!」

 「お前……馬鹿言ってんじゃねえよ!」

 「馬鹿はそっちだ!ばーか!」


 そうやって言い合っていると、だんだんと疲れてくる。―――ということはなく、俺たちはそれなりに言い合った後は、2人して笑い合った。喧嘩じゃねえしな


 にしても、結乃は兄離れできねえし、俺も俺で妹離れできてなかったのかな?まあ、たった一人の家族だしな。


 そうして、料理の準備の9割が終わったころに玲羅が風呂から上がってきた。浴室から出てきた玲羅は水色の部屋着に身を包んでいる。そして、玲羅のストレートできれいな長髪はしっとりと湿っている。


 前から気になってはいたので、俺は質問してみた。


 「玲羅はドライヤーとかしないのか?」

 「あまりするほうではないな。長いとはいえ、寝るくらいの時には乾いているから」

 「うーん、あんまりよくないなあ。よし、玲羅ここに座って!」


 そう言って、俺が示したのは、普段座っているものよりも少しだけ低い台座だ。

 それを俺が座る位置の前に移動させて座るように言う。


 玲羅はわけもわからずに座らされて戸惑っている。


 「な、なにをするんだ?」

 「髪、乾かしてあげる」

 「え?いや、私は……」

 「いいの。恋人でしょ?やってみたくない?こういうの」

 「彼氏に乾かしてもらう……うん、やってみたい」

 「じゃあ、そういうわけで―――」


 ブオオオオオオオオオ


 俺は、持ってきたドライヤーを起動し、玲羅の髪に当て始める。乾かすときも少しずつ髪を手櫛で梳かす。その時に、気持ちよかったのか、玲羅が「ん……」と、漏らした。


 「気持ちいい?」

 「ああ……普段は、乾かすのが煩わしくて放置していたが、こんなに気持ちいいのなら毎日してほしいくらいだ」

 「してあげようか?」

 「え?し、してくれるのか!?」

 「玲羅のためならなんでもしてあげちゃう。だからね、もっと甘えていいよ」

 「そ、そうか……」


 甘えてほしい。そう言うと、玲羅は顔を赤くして黙り込んだ。なにを想像したんだ?

 ただ、どれだけ恥ずかしい思いをしても、一切俺の手に抵抗する意思を見せない。それどころか、だんだんと体を預けてくるので、少しずつ触れ合うところが多くなってきた。


 「明日、私の家に行く……」

 「知ってる」

 「その時に来てくれ。2人に紹介したい。私が最も愛してる人だ、って」

 「そうか……なら俺も言わないとな。玲羅さんをください!って」

 「ふふっ、なんか結婚するみたいだな」

 「それもいいな。玲羅と一つ屋根の中にいて、家族になる。幸せだろうな」

 「ああ、翔一との子供。どんな子になるんだろうな?」


 そうして、2人で妄想を膨らませていく。主には玲羅がこんな状況だったら、とかを言うので、俺が無限に返している状況だ。ただ、こんな想像をするだけでも十分幸せな気分になれる。


 2人の気分も高まり、玲羅の髪を乾かしきった俺たちは、キスをした。

 2人とも愛を証明するために周りが見えなくなるほどの激しいキスをする。お互いの舌を絡め合いさせながらむさぼり続ける。


 いつしか、俺が上に覆いかぶさるような体勢になっていた。それでも、玲羅も俺も手を―――いや、舌を緩めない。呼吸すらも忘れてしまいそうだ……


 「なにしてんの?」

 「ん……くちゅ……んぅ」

 「え、一回話をしようよ。玲羅先輩!?え、そんなキャラだったの!?」


 風呂から上がってきた結乃が何かを言っているが、俺たちは俺たちの世界に入り込んでいるのでなにも反応しない。


 だが、そんな状況にしびれを切らした結乃が、上にいた俺をどついてきた。


 「いった!?」

 「バッカじゃないの!ご飯だよ!」

 「ああ、悪い悪い。ちょっと盛り上がりすぎたわ」

 「玲羅先輩も!」

 「う、すまない……」


 そうして、俺たちは晩御飯に向かっていった。なんというか、玲羅が知っている人相手になら恥ずかしがることが少なくなってきた。いや、不意打ちをしたりすると赤くなるからそこもいいのだが、玲羅自身が俺を求めてくれるのはすげえ嬉しいわ。


 その後も、結乃の用意した晩御飯―――水炊き鍋を食べた。いよいよ、冬も明ける。この暖かい、身に染みるような鍋も、シーズンを終えてしまう。作るの楽だから、いいんだけどなー。夏はさすがに暑いから。


 玲羅が俺にあーんをして、結乃がいたたまれない表情になっているのは少しだけ面白かった。これから、結乃にはたくさん迷惑をかけそうだ。先に謝っておこう。


 すまない結乃。多分、玲羅のためなら無茶するかも……

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