真面目なあーん
先ほどの騒動より、先生たちとの相談で、幸い俺たちの班だけ食事の時間が延長になった。
しかし、玲羅の服が濡らされてしまった。間の悪いことに、風呂前のホテル生活用の私服が濡らされたたために、この日用の服がないらしい。というわけなので、現在、彼女はホテル備え付けの浴衣に着替えているところだ。
正直言って、ナイスだ。いや、濡らされたことに関しては憤慨ものだが、その代わりに玲羅の浴衣姿が見れるのは素晴らしい。
そうして玲羅の帰りを待ちながら、他のメンバーと食事を続けている。
「にしても、よく食うなー」
「あ、椎名君、デリカシーないよ」
「いや……食ってんじゃん……」
「それでもだよ。よく食べるって言われて気にする子もいるんだから!」
「奏は?」
「気にしない」
「なんなんだよ……」
乙女心はよくわからん。いや、理解しようとするのが間違ってるのか?
それでもなあ……。玲羅の考えていることはちょくちょくわかるんだけどなー
「俺は、幸せそうに作った飯食ってくれると、それだけで幸せな気分になれるけどなー」
「それって、天羽さん?」
「そうだな。天羽が飯を食う時―――特に甘いものを食べるときは、口いっぱいに頬張って『むふぅ』とか言いながら、幸せそうにしてるぞ」
「なにそれみたい」
「ちなみに目がとろけてる」
「めっちゃ見たい!」
だろー?
俺は、奏の言葉に同意しながら鍋の中に肉を放り込み続ける。
相変わらず、他のメンバーが食べるので俺の手が止まらずに、全然俺が食べられていない。
「それにしても肉の火加減が絶妙だねー」
「んー、俺的には俺の分の肉を残してほしいなー」
「じゃあ、天羽さんそろそろ来るから、食べさせてもらえばいいじゃん!」
「それだ!」
「えぇ……」
「引くなよっ!」
そんな会話をして、食事を楽しんでいると食事会場の扉が開かれる。
会場の扉は高さが人二人分くらいあるので、誰かが入ってきたら容易に気づける。
「し、翔一……どうだ?」
「似合ってない―――」
「……っ、やはりこの柄は似合わないか……」
「―――わけないだろっ!やばい、可愛すぎるっ!」
「なあ!?き、急になにを言うんだ!」
「玲羅が花柄?予想外すぎる!」
「くっ……これしかなかったんだ」
玲羅が着てきたのは、ピンク色を基調とした浴衣で、全身のいたるところにきれいな濃いピンク色の花柄が描かれていた。
今は、顔が赤面してふにゃふにゃになっているが、来た時の玲羅はキリッとした顔で着ていたものだから、カッコよく見えてしまった。
今?クッソかわいい!
浴衣そのものはきついわけではないが、帯をする特性上、玲羅の凶器がより鮮明に見えてしまう。だが、それは上品な色気になってはいるが、所々中学生らしい子供っぽさが垣間見える。
「写真撮っていい?」
「へ?だ、ダメだ!」
「なんで!」
「お、お前はろくなことに使わないだろう!」
「スマホの待ち受けにするだけだ!」
「やめろ!恥ずかしすぎる!」
えー、スマホ開いた瞬間に玲羅のその姿が目に入ってきたら、幸せすぎて昇天するのに。
どうしても玲羅は、写真を撮られたくないようで、自分の片手で顔を隠しながらこちらの様子をうかがっている。
「まあいいか。今の待ち受けも十分可愛いし」
「ま、待て……待ち受けにはなんの写真が使われているのだ……?」
そう言いながら、玲羅はとんでもない速さで俺に近づき、スマホを奪ってきた。
俺の待ち受けを見たであろう玲羅は、一気に顔を赤く変えていく。
恥ずかしさだけではなく、怒りにも震えていると見えた。
「な、な、な……なんだこの写真はっ!」
「え?天羽の寝顔だよ」
「言わなくてもわかるっ!なんで持ってるんだ!」
なんでといわれれば、俺が撮ったから。玲羅が家に来てから、たまにではあるが寝るとき俺の寝床に入ることがあった。
さすがの俺も、可愛い寝顔で隣にいる姿を撮るのを我慢することは出来なかった。その際、撮った写真があまりにも出来が良すぎて、待ち受けにしたのだ。
最近は写真のおかげで、多少のストレスをやり過ごせるようになった。
それをそのまま玲羅に伝えると、聞いていたほかのメンバーたちが黄色い声を上げ始める。
「同棲どころか一緒に寝てるの!?」
「「きゃー!」」
「う、うるさい!か、数えるほどしか入ってない!」
「いやー、付き合ってないのに入ってくるのは、もう異常としか言いようがないんだよねー」
「お、お前は嫌だったのか……?」
「いんや、むしろもっと来てほしかったぞ」
「なっ!?」
「「「きゃー!情熱的っ!」」」
「うるせえよ」
なんだろうか……さっきから女子たちがbotみたいになっている。まあ、こういう話が好きなのはわかるが。
俺の言葉でだんだんとテンションが上がっていく女子たちとは対比して、玲羅は顔を赤くしながら黙っていってしまう。
そろそろ、肉がいけるかな?
「玲羅、肉食べれるぞ」
「ちょ、人前で下の名前を……」
「へー、2人きりの時は名前で呼び合ってるんだー」
「そ、それは、家には椎名の妹もいるから……」
「はいはい、奏もおっさんみたいな絡み方しない」
そう言いながら、玲羅の小皿に肉を入れてやる。すると、玲羅は静かに食べ始めた。
そんな姿を見ながら、奏は頬杖をついて玲羅に質問する。
「そういえば、椎名君全然食べて無くない?」
「そ、そういえば……」
「あーあー、椎名君、菜箸とお玉持ってるから両手が塞がって食べられそうにないなー」
「なにを言いたい?」
「あーあー、天羽さんが隣だから一番しやすそうなのに……こうなったら正面から私が食べさせてあげるしかないかなー」
「む……」
奏の言っていることを理解したのか、玲羅は露骨に嫌そうな顔をする。
そして、その必要はないと言いたいばかりに、奏をにらむ。
「なーにー?」
「……私がやる」
「へー?できるの?」
「できる。翔一の肉は私が口に運ぶ」
「それは恥ずかしくないのか?」
鍋に入っていた肉を持った玲羅は、さっきの赤面し続きの顔とは打って変わって、キリッとした真面目な顔になっていた。
どこで本気になってんだよ……
「翔一、あーん」
「なんだー?このふざけちゃいけない雰囲気は」
「椎名君、その態度がふざけてるよ」
「ねえ、なにこの雰囲気!」
え?女子たちの顔が急に真面目になった。というより、なんだろうか?試合を見るときの緊張感がその場にある。
は?なにこれ?
とりあえず、玲羅が「あーん」と言いながら、俺に箸を向けているので、玲羅の手の力が入らなくなってしまう前に食べた。
できるだけ舐らないように、口を離した。
「ん……おいしい。さすが俺」
「……」
「ほい、玲羅」
「ん?」
「あーん……」
「は?」
俺は、お返しとばかりに自身の皿にあった唐揚げを半分にして、玲羅の前にやった。
あーんによって、自分がなにをされているのか理解して、困惑し始めたようだ。
「ほら、食べないの?」
「し、翔一……ちょっと待ってくれ……」
「えー、食べてくれないの?」
「た、たべる……」
そう言うと、玲羅は少しだけ顎を上げて待機する。普段からキスをしすぎたせいか、あーんの待ちがキス待ちみたいな姿勢になってしまっている。
ただ、キスとは違って食べ物を入れやすいように少しだけ小さく口を開けている。
俺はそこに半唐揚げをあてがった。
すると、玲羅は俺とは違って舐めるように箸にかぶりつきながら唐揚げを食べた。
「ん……」
「天羽さん、色っぽいねー」
「茶化すなよ……」
「……」
唐揚げを食べた玲羅は、若干涙目になりながらも、俺の手を見てくる。
俺が、「なんだ?」と思い、玲羅に声をかけようとすると、思いがけないことをしてきた。
「……っ」
「れ、玲羅?」
「ばか……本当、幸せだ」
「急にどうした?」
突如、俺の手を握って、自分が幸せだと言ってきた。
俯いてる彼女の顔は見ることができないが、可愛い表情をしているに違いないだろう。
「これからもっと幸せにしてあげる」
「……っ、よろしくたのむ……」
ご都合主義によってしゃべらないモブたち。勘弁して、処理できないから……
女子が一人で行動してる様があまりにも想像できなかった
ぶっちゃけ浴衣と着物の区別がつけられない……
調べたけどよくわかんねーや