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朝の憂い

 「はぁ……」


 早朝に目を覚ました玲羅は、まだ温まっていない部屋の中で白い息を吐いた。

 決して憂いという感情が見えるわけではないが、少し何か考え込んでいるようにも見える。


 時刻にして5時―――期末テストも間近に控えて不安があるという感じでもない。

 というか、彼女が定期テストで憂うとは思えない。


 なんせ成績は学年3位。俺たちに次ぐものだ。

 いや、それが憂いか?俺たちに勝てないことが―――ないな。彼女はそこまで勝ちに執着するタイプではない。


 話だけでも聞いたほうがいいか。


 そう考えた俺は、気配を殺して彼女の背後に回り込む。

 俺の存在に気づかない彼女はソファの上で下を向いているが、その端正な顔についているやわらかい頬に俺の冷たい手を当てた。


 「わひゃああ!?」


 突然の冷感によって玲羅が絶叫しながら体をこわばらせる。

 少し落ち着きを取り戻すのに時間がかかったが、落ち着いた彼女の顔を上に向けさせた。


 「なに考えこんでるの?」

 「翔一……いや、そんなに大したことじゃないぞ」

 「なんだ?俺が浮気してるかもしれないって?ごか―――」

 「誰がそんなこと疑うんだ。私がどれだけの愛をお前にもらってると思ってるんだ」

 「お、おう……」


 突然の惚気に今度は俺が気おされてしまった。


 こういう無自覚の反撃は毒だな。やっぱり


 俺は彼女の返事にうろたえながらも、それを悟られないように隣に座る。

 ついでに、彼女の腰に手を回して抱き寄せたりもしてみた。


 すると、玲羅は完全に頭を肩に預けてきて、全身がもたれかかるような態勢になった。

 まあ、これはいつものポジションだ。


 「それで、なにを考えていたんだ?」

 「うむ……ときどき思うんだ。やっぱり、私は翔一に見合ってないんじゃないかって」

 「どうして?」

 「やっぱり唯一ともいえる家族を大事にすべきだとか私以上に抱え込んでることも多いからとか、理由はいくつでも思いつくさ。でも、それ以上に愛情を注ぎこんでくれる。身ごもってしまいそうなくらいに」

 「とんでもないこと言ってるなあ……」

 「そんなせめぎ合いの中にいるような感覚で―――ふと思い出すんだ。お前のために結乃が烈火のごとくに怒ったのを」

 「ああ、そんなことあったなあ」


 確か、俺がそういうことに対して持っていたトラウマが爆発したんだっけ?

 結乃も結乃で過剰だったよ。あれで、玲羅もずいぶん不安定になったからな。


 「お前に褒められて、自分の顔とかスタイルにも結構自信が持てるようになった。これがいいものだと、自覚できるようになった」

 「実際そうだけど、絶対外で言わないでね」

 「ま、まあ、外でこんなことを言うつもりはない。話に戻るぞ。

 顔やスタイルというのなら、正直美織だって負けていないと思う。それに頭もいいし、翔一の一番理解者だろう。しかも、献身的にお前に尽くそうとしている」

 「あれを尽くしてるっていうのは少し違うと思うけどなあ……」


 確かに、美織の行為は受け取っている。そのうえで玲羅を選んでいる。だから、そんなこと気にしなくてもいい。

 でも、そうか、不安か。


 「最終、俺とあいつが一緒なのは目的が一致しているからだ」

 「わかってる。そして、それがあんまり褒められることじゃないこともな」

 「……わかる?」

 「なにをしようとしているのかはわからない。だが、もう理解の範疇を超え始めている。結乃の変化だってそうだ。わたしはこのまま翔一と一緒にいていいのだろうか?」


 そう不安そうに漏らす彼女に俺はもう我慢できなくなった。


 少々荒っぽいが、強引に彼女の顔を正面にして、唇を奪う。


 「んむっ!?」


 舌は入れずにたっぷり10秒―――顔を離すと、彼女の頬は赤く染まり、表情は恍惚としていた。

 ものの数秒の口づけだけでこうなれる玲羅は、もう才能だろう。


 一回だけで終わらず、今度は指に彼女の顎を乗せて後頭部を押しながら彼女の顔を近づける。

 もう一度やるのだと理解した彼女は、ゆっくりと瞳を閉じた。


 「んう……」


 今度は困惑の色などなく、ゆっくりと受け入れられるキスになる。

 お互いに舌を絡ませて、お互いの背中に腕を回して―――服を着ていることすらわからないくらいに互いの体温におぼれていく。


 ただ何も考えずにお互いを求め、むさぼる時間が流れていく。


 今は結乃が起きてくる心配もない。

 ただ二人だけの時間を求めていく。


 幸せという言葉に姿があるのなら、こういうことをいうのだろうな。


 もう何分経ったかもわからない。

 それだけの時間が経過した後、俺たちは名残惜しさを覚えながら顔を離す。


 「これでも、一緒にいないほうがいいとか思えるか?」

 「こ、こういうのは―――ずるいと思うんだ……

 私だって一人の乙女なんだぞ。こんな、こんな―――キスの仕方……」

 「ほしそうに眼を閉じたのは誰だっけ?」

 「くっ……」


 彼女は悔しい演技をするが、その奥にある蕩けた表情がすべてを物語っている。

 なんとも言葉にしがたい衝動に、彼女の頬を撫でる。


 やはりそれにも彼女は目をつむって受け入れる。


 「ああ、あんなことを考えていたのがウソのようだな―――やっぱり私は幸せ者だ」

 「そうだ、玲羅はこの世界で一番幸せな女の子だ」

 「女の子、か。久しぶりにそう言われた気がするな」

 「そういえば、キスとかで言い忘れてた




 ―――おはよう、玲羅」

お久しぶりです。久々に作品ページを見たら年始にだいぶPVついてたので、設定やらなにやら思い出しながらゆっくり書いていきます。

ただ新作のほうに力を入れてますので、頻度はあまり期待できないかもしれません。

投稿ついでで申し訳ないのですが、私の新作も見ていってください

『Re;birth』

https://ncode.syosetu.com/n7099iz/

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