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結乃 傷心?

 「あー寒いー」


 雪かきを終えて家の中に入ると、リビングで結乃が呻いていた。

 こたつに入って丸まりながらだ。


 「ゆ、結乃……お前、なにしてるんだ?」

 「なにって、寒いから暖まってるの」

 「だとしても、その姿は……」


 こたつでぬくぬくしている彼女は丹前にセーターなどできるだけの厚着をしていた。寒いのはわかるが、そんなに寒いものか?と、感じるが、結乃は言う。


 「それがね、全然暖まらないの。手足の指も冷たいままでさ……」

 「冷え性……か?どこら辺が冷たいんだ?」

 「どこもかしこもだよ……」


 そう言って彼女は俺に抱き着いてくる。確かに、全身にひんやりとした冷気を感じる。

 今の真っ白い姿のせいで雪女ではないのかと錯覚してしまうほどだ。


 「冷たっ!?馬鹿みたいに冷てえぞ!」

 「そ、そんなに……?ほ、本当だ!こ、これ冷え性、じゃないよな?私の母もこんなに冷たくはなかったぞ……」

 「あー、アーカーシャの影響なのかな?それとも本当に何かしらの症状なのか……とりあえず、今日は様子を見てみるか」

 「病院とかに行かなくていいのか?」

 「いや、どうせ俺たちの病気を検査したら俺たちそのものが研究対象になっちまうから行く意味はない」


 そう言って玲羅の案を却下する。まあ、病院に行くよりも美織に診させた方が確実なので、明日も同じような状態が続くのなら、仕方がないが彼女のもとに連れて行こう。


 ただアーカーシャの力が結乃に融合したからと言っても、器の力はまだまだブラックボックスだ。

 俺がしっかりと監視はしておかなければならない。


 「じゃあ結乃がこんなだし、今日の昼は暖まる物でも作るか」

 「昼と言ってもすでに1時半なのだが……」

 「大丈夫だ。夜の時間を遅くすればいいし、お腹すいてるだろ?」

 「そうだ―――」


 きゅるる……


 「―――が……っ///」

 「わー、義姉さんのお腹が鳴ったー」

 「い、言うな!恥ずかしい……」


 玲羅の腹の虫を聞いたところで、俺は急いで昼ご飯を作り始めた。―――とは言うが、俺はもう朝の段階で半分以上できていた。さっきは結乃がどうの言っていたが、最初から温かいものを作るつもりだった。


 俺は朝の時点で用意していた鍋を火にかけ、十分に熱が通ったのを確認すると、中にほうとうを投入する。


 それからちゃんと麺を食べれるようになったのを確認してから鍋ごとリビングに持っていった。


 「はい、お待たせ!」

 「お待たせってほど待ってないのだが……」

 「やっぱり朝にはもう9割で来てたやつだ。冷たいやつ作ってたらどうするつもりだったの?」

 「それは作り直したよ。もしひどい冷え性とかだったら、内臓から温めるのが一番効くとか言う話を聞いたことあったから」

 「くっ、私がお兄ちゃんの立場だったらそんなことしない!」

 「……力強く言うことじゃないぞ」

 「ふふっ、やっぱり兄弟の仲がいいのはいいことだな」


 そう言って玲羅は一人鍋をつつき始める。

 中身は鶏肉や人参、カボチャなどいろいろ入ってる。このクソ寒い1日を乗り越えるために体の芯から温まれるようにした。だからお腹いっぱい食べてほしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 そう食べてほしい。食べてほしいとは言った。

 だがな―――全部なくなるとは思わないじゃないか。


 大食い二人がいるとはいえ、大鍋の中身が全部なくなるとは思わないじゃん?

 いや、俺が食えなかったかと聞かれたらそんなことないんだけど、それでも汁くらいは余るだろうから夜の料理に使おうかと思っていたのだが、そんな甘い考えは結乃に叩きおられた。


 彼女は自身の体を芯から温めるために、汁という名の火元を口から大量に流し込んだ。

 もちろん、俺と玲羅と結乃の手によって固形の具材はすべて跡形もなくなっている状態でだ。


 鍋ごといったときは気でも狂ったのか思ったほどだ。

 さすがの玲羅も―――いや、この言い方だと普段の玲羅の言動がヤバいみたいになるが、あの玲羅もドン引きしていた。


 「げふっ……おいしかった」

 「ダメだ……結乃―――お前は本当に女の子なのか?」

 「ん?正真正銘の中学3年生女子だけど?」

 「だよなあ……ん?待てよ―――結乃って今中3か?」

 「そうだよ」

 「べ、勉強はしなくていいのか?今まで結乃が勉強しているところを見たことがないのだが……」


 玲羅の結乃への心配が、頭の危惧から成績のほうに向かう。さすがに四方八方に飛びすぎだろ。

 そう思うが、玲羅的には彼女の志望校を知っている分心配なのだろう。俺?俺はなんの心配もしてない。


 「だいじょぶだいじょぶ、この間の模試もS判だったし!」

 「な、なあ翔一―――私、推薦狙いだったから模試を受けてなくて……A判が最高じゃないのか?」

 「模試の会社によりけりじゃない?俺のうけたのもあったぞ」

 「そ、そういうものなのか……でも、万が一ということが」

 「あ、私推薦で行くつもりだし、落ちても最悪大丈夫だよ。私、2学期の成績オール5だったから」

 「それはそれで、もっと上を目指せるのではないのか?」

 「いいの。私は義姉さんたちのあまあま学園ラブストーリーを見たいだけだから」

 「だ、だれがあまあまだ!」

 「そういう結乃は、あいつと同じ学校じゃなくていいのか?」


 おれがそう言うと、結乃は硬直する。

 あいつ―――とは、結乃の好きな人物のことだ。まあ端的に言うのならその男は玲羅の第1志望だった学校に通っている。今の俺たちとは違う環境にいることになる。


 「ううん……いいの。私、今の姿はこんなだし―――きっと諦めたほうがいいよ」

 「結乃……」

 「まあ、お前がそう言うのなら好きにしてもいいけど―――俺は好きにさせてもらうからな」


 俺はそれだけ言うと、とある人物にメールを送っておく。

 送信されたのを確認すると、二人に言う。


 「じゃあ、25日はちゃんとクリスマスパーティやるか」

 「そ、そうだな!パーッと盛り上げよう!」

 「まあ、俺、クリスマスパーティなんかやったことないから、プレゼント交換とかケーキくらいしか知識ないんだけどな」

 「!?」


 玲羅が度肝抜かれたような顔をしていたが、申し訳ない。二家は和装だから、そういうものは基本的にやらないで、島の忘年会的なものばっかりだったんだ。

 唯一覚えていることと言えば、親が毎年枕元にプレゼントを置いてれていたことくらいなんだ。

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