大事故
ピロン♪
俺が雪かきしていると、スマホのメッセージアプリに着信があった。
差出人は美織だった。
「ん?」
「どうしたんだ、翔一」
「いや、美織からメールが―――珍しいなこんな朝早くから起きてるの」
「朝早いって、もう10時になるぞ……」
「まあ、あいつはそういう奴だから―――なになに?ドアが凍結して出られない?」
「凍結防止剤とかやらないのか?」
「さすがに鉄が駄目になるだろ」
「まあ、それもそうか。いや、ていうかドアが凍結するとか聞いたことないぞ。前日に水でも撒いたのか?」
「いや、美織ならやりかねないな」
メッセージを受け取った俺たちはとりあえず美織の住む家に行く。雪かきも中断していて、近所の人にあまり負担はかけないように短時間で済ませたいものだが……
数歩歩いて自宅の隣の家に着いた俺たちはその家のドアの状況を見る。すると、漫画みたいに派手に氷漬けになっていることはないが、よく見ると確かに光が反射している。
「これは……本当に水かけたんじゃ……」
「そうっぽいな。本当に、昨日はなにしてたんだ?」
二人で昨日の美織の行動を想像するが、皆目見当もつかない。しかし、そんなことではなんの意味もない。
ピンポーン
『はーい!』
「あ、美織か?ドアを開ければいいのか?」
『そうね。ちょっと機能はいろいろやってたから凍っちゃったみたい』
「なにしてたんだよ……」
やっぱり水をかけたようだった。ただ、なぜそんなことになったのかはわからない。
まあ、ドアを開けるくらいなら力で―――
ベキベキベキベキ!
―――と思った俺がバカだった。
寒さと眠気で思考が完全に止まっていた。まずはどの程度ドアが固まっているか慎重に行くべきだった。
美織の家のドアはものすごい音を立てて水平に取れた。
開いたんじゃない。とれた。
そう、ドアの留め金が軸を回転させながら行くのではなく、そのままボキッといった。いやぁ……笑っちゃうね!
「な、なにしてるんだ!?」
「いやあ、力加減を間違えちゃって」
「さむっ!ちょっと、翔一、なにしてるの、って、ひゃああああああ!?」
「うお、珍し―――美織が悲鳴を上げてるや」
「じゃないわよ!なにしてんのよ!」
美織はご立腹のようだった。まあ、俺でもキレるわな。
自分の家のドア破壊されて黙ってろと言われる方が無理だな。
「翔一、これ修理費めっちゃかかるわよ」
「大丈夫。玲羅、ちょっとホームセンター行ってくる」
「え、ちょっ!?」
俺はそれだけ言い残すと、すぐさまホームセンターへ留め具を買いに行った。それ以外の必要そうな工具類はあるからな。足りなければ買いに行けばいい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「行ってしまった……」
「さて、私たちは雪かきしましょう」
「家にいなくていいのか?」
「大丈夫よ。田舎ほどじゃないにしろ、こんな一面真っ白なのに盗みをしようなんて考える奴いないわよ。しかも、こんな朝っぱらに―――それに、私の自作したセキュリティが侵入も盗みも許さないわ」
すごいんだがなんなんだか……
翔一もだが、やはり美織は変態だ。
さっきの言葉の「修理に費用が掛かる」と言っていたのも半分は冗談だろう。おそらく彼女なら、半日で業者を呼ばずに自力で直せるはずだ。
しかし、それよりも早く翔一が行ってしまった。いや、壊してしまったことへの責任からなのだろうが、美織は自分の発言が冗談だというタイミングを失ってしまったのだ。
そんなこんなで私は翔一out、美織inで雪かきを再開した。
近所の人たちは団結力が強く、その上に優しかった。
この1年以内にここらへんに越してきた私たちに気を使ってくれていた。
これをこうしたほうがいいとか近所のおいしいお店とかいろいろなことも教えてもらった。今度、翔一と行こう……
というか、聞くところによると結乃の働きはすさまじかったらしい。
目に見えるものすべてをなぎ倒し、彼女が通った後は雪のない更地と化す。なんか字面だけ見ると、少年漫画の暴走形態みたいだ。
しばらく作業をしていると、飛んでいる翔一の姿が目に入った。私以外に空を見ている人がいないため、ほかの人に見られることはなかったが、なんだかビニール袋を持っていたような……
そう思っていると、翔一がこちらにやってきた。
「よっ、進んでるか?」
「あなたがバカなことしなければ3人でもっと効率がよかったでしょうね」
「お前がドアに水かけてなければな」
「うっさいわね。ドアは直ったの?」
「あと1時間で直してやるから黙って待っとけ―――あ、あとこれココア」
そう言って翔一は私と美織に投げてくる。
受け取った瞬間、熱っと思ったが、段々と指が慣れてくると、この寒さにはありがたい温度になった。
彼の好意を受け取り、私たち二人はベンチで休むことになった。
カシュッと音を立てながら缶の栓を開ける。一口飲むと、ほのかな温かさと甘さが口の中に広がって溶けていく。やはり寒いときに温かいものを飲むのは癒される。
「そういえばもうすぐテストね」
「そうだな……」
「玲羅は準備できてるのかしら?」
「問題ない。というより、普段から復讐をしっかりすればなんの問題もないことだ」
「まあ、それができないからみんな苦しいのよ。テスト日はテス勉やってない話とか言う男子もいっぱい出てくるでしょうね」
「あー、本当は徹夜してやってるみたいなやつだろ?」
「そうそう、哲也はお肌の天敵だって言うのに」
「まあ、男はそう言うの気にしないんじゃないのか?」
「ダメよ玲羅。今の時代、男が見た目に気を使うのは当たり前の時代よ。男も肌を大切にしなきゃいけないのよ!」
「―――そうだな。紫外線にさらしっぱなしだと、皮膚がんの危険性もあるしな」
「そういう問題じゃないわよ」
二人でそんな話をしていると、時間はあっという間に過ぎていった。こう言ったらなんだが、同じ人を好きになるくらいなのだから、どこかしら気が合うところがるのだろう。やはり、今の私の最高の友人は美織だ。
「ん?なんだか百合レーダーがなにかを感知したわ―――私にその気はないわよ?」
「なんだそのレーダーは……こっちを見るな。私にはもう大事なパートナーがいるんだ」
否、私の人生の最大の敵なのかもしれない。
ちなみに翔一は本当に1時間でドアを修復した。




