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冬の始まり

 あれからはことが大きくなることはなかった。

 影響らしい影響と言えば、うちの学年の先生が一人減って、ほかの学年の先生にしわ寄せが行ってしまっていることくらいだろう。


 ちなみに、峰岸は一身上の都合で退職ということになっている。まあ、音信不通にもなっているし、少々不審がる者もいたが、元々あまり好かれていた人物でもなかったためにすぐに噂は絶えた。


 陸上部やその他諸々の薬物中毒に陥ってしまった人たちには、俺と美織が特別に薬を出した。

 本来は通院して時間をかけて治すものだが、事情が事情なだけに仕方なく中毒緩和の薬を秘密裏に撃っておいた。方法?聞かないほうがいいぞ。


 そういうわけで、そんな事件から1か月。季節は冬真っただ中の12月となった。12月になれば何がある?そう、クリス―――2学期末テストだ。

 楽しいイベント?全部テストの後だよ!


 なにやら冬休み中に学校でクリスマスイベントをやるとの話を聞いたが、所詮あれは部活主体のイベント。無所属の俺たちには関係のないものだ。


 しかし、最近は景色も白くなった。

 日が出ていても一面真っ白。気温も2桁に入ることはまずない。むしろ夜中にマイナス2桁に入る方がザラだ。


 昔は雪が積もるだけではしゃいだものだが、いつからか雪が鬱陶しいものに変わっていた。―――なぜかって?そりゃ、雪かきがあるからだよ。

 と、まあこんな程度の悩みは置いておいて。

 最近の俺には一つ悩みがある。


 「ふわ……おはよ」

 「眩しっ!」

 「お兄ちゃん、そろそろ慣れてよ」


 結乃がまぶしいことだ。

 雰囲気がキラキラしていてまぶしいじゃない。物理的にまぶしいのだ。


 先刻の一件で体中が真っ白になった結乃は、あらゆる光を反射するようになった。髪も普通のべったり塗りの白というよりも光沢のある白という感じの色だ。白って200色あるをこんな感じで体現されるとは思っていなかった……


 そんな結乃の髪のせいで、最近朝ごはんを作っている俺の目は彼女に破壊されている。


 対策はこの一か月考えられるだけやってみた。

 まず寝るときにニット帽をかぶらせた。寝にくいと言われたが、それ以前に朝外すので結局のところ意味はない。


 黒色に染髪もしてみた。だが、なぜか翌朝には白くなっていた。


 もうお手上げ。俺たちが慣れるしかない。

 俺“たち”というからには―――


 「おはよう……て、眩しい!」

 「義姉さんも……そろそろ慣れてよ。私、段々この家にいづらくなるんだけど……」

 「悪い悪い。でも、ものすごい反射してるんだよ。結乃の髪」

 「わかってるけどさあ……これもうどうしようもなくない?」

 「そうなんだよなあ……」


 こればっかりは対策のしようがない。そう言っても結構な量の光を反射するため、目が光に慣れない朝方は本当にキツイ。

 ただ、俺たちの反応に彼女は慣れたのか、軽口を叩けるくらいには楽にしていた。


 そうして結乃は俺が朝ごはんを作る間に雪かきに出ていく。

 一般人よりも力が強く、除雪スピードも半端じゃないので、その雪のような見た目も相まって近所では悪ふざけで『雪姫』と呼ばれてる。雪姫なら雪降らすと思うんだけどな。


 玲羅はこたつでぬくぬくしている。

 最初は結乃の雪かきを手伝おうとしていたが、結乃が早すぎて彼女は挫折してしまった。なんだか言ってて涙が出てくる……


 それもあって、最近は玲羅と二人きりで朝ごはんを食べている。

 学校もテスト1週間前と後は自宅学習期間で登校はない。実質休みだ。


 そんな中でもテスト1週間前なのは変わらないので、生徒の半数はテスト勉強に時間費やしている。その点、俺と玲羅は普段からちゃんと授業は受けて、基本その日の夜に復讐をしているので、そこまで根を詰める必要はない。まったりゆっくり勉強するだけだ。


 「おいしい?」

 「ああ……やっぱり私なんかが作るよりよっぽどおいしいな」

 「たぶん、それは誰かに作ってもらってるからだよ。俺は、俺の料理より玲羅の料理のほうが好きだし、おいしいと思ってる。そして、それは結乃も同じだ」

 「―――そういうものなのか?それならいいのだが」

 「玲羅は自己評価が低いよ」

 「……正当だと思うけどな?」

 「いいや、玲羅は自分が思っている以上に可愛いし、綺麗だし、おっちょこちょいだし、口下手だし、頭もいいし、器量も―――」

 「も、もういい!どれだけあるんだ!」

 「死ぬほど?」

 「ま、まだあるのか……?だが、文字通り死んでしまうからもういい!」


 そんな感じで朝の時間は溶けていく。

 と、軽い雰囲気の中朝の番組の特番が目に入った。


 内容は女子高生の制服のスカートの指導に対する問題だった。


 「スカートか……あまり私は改造とかしたことないな」

 「たしかに、玲羅の制服のスカートってひざ下まであるよな。あれがデフォなのか?」

 「そうだな。まあこの年になると女子は身長が伸びなくなるからサイズ違いで膝上になることはあんまり聞かないな。おおよそ、みんな腰で巻いたり切ったりしているとは思う」

 「玲羅は?」

 「寒いし、下着が見えたら嫌だろ?」

 「あー、確かに」


 まあミニまで彼女がスカート丈を上げることはないだろう。原作でも、デニムやロングのスカートしか履いているところを見たことないからな。


 番組では制服への指導がどの程度まで許されるのかみたいなことを言っている。


 『それはおしゃれの一環だから認めるべき』だとか『規律は守るべき』とか色々言い合っている。

 ただ、俺はこういうニュースを見ても、スタンスは『どうでもいい』だ。


 俺は玲羅が玲羅でいればそれでいい。他人がどんな格好をしていようが知ったことではない。それだけだ。もし、彼女がスカートを改造して指導を受けるようなことになっていたら、多分指導はするべきじゃない側に回るだろうし、彼女が絶対に規律は守るべきと考える優等生委員長キャラなら俺も規律は守れというだろう。


 だが、当の玲羅は正直興味がない様子だった。

 彼女がスカートを改造しないのは、下手に下着を見られたくないうえに寒いから。もはや校則など関係ない。


 「玲羅は、もし寒くもなくて男にも下着を見られない保証がされたら、スカートを改造する?」

 「翔一は?私が履くなら、ロングとミニ、どっちが似合うと思う?」

 「……?まあ、どちらかと聞かれたらロングだな」

 「なら、私は改造はしない。翔一が私の理想の男であると同時に、私は翔一の理想になりたいからな」

 「―――なにそのカッコいい発言……俺も言ってみたいんだけど……」

 「や、やめろっ、そう言われたら恥ずかしいじゃないか!」


 そう言って玲羅が顔を真っ赤にして抗議を始めた瞬間に、とある声が響く。


 「お兄ちゃーん!義姉さーん!雪かき手伝ってー!私もご飯食べたーい!」


 今日は俺たちが雪かきをした方がよさそうだった。

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