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あったかもしれない完結後の世界

 キィ……キィ……


 1月5日―――そんな真冬の夕方、周りも次第に暗くなってきて人の姿が見えなくなっても私はとある公園でブランコを漕いでいた。

 今日、私は初恋に敗れた。


 どこからか流れた動画が拡散されて学校中でもちきりになり、暴力事件として私は矢面に立たされて一身に非難の声を浴びた。

 その影響で、高校への推薦は取り消し。というか、私の通う学校が見送りにしたいという話があった―――いや、勉強は得意な方だからまだ一般でも受かることができる自信はある。しかし、それよりもきつかったのが、好きな人に拒絶されたことだった。


 私が暴力を振るったというあの動画―――悪意のある切り方をされていて、まるで私が男数人をなぶっているように見えた。しかし、実際は絡まれたところを撃退した。正当防衛なのだ。


 多くの人にその言葉を信じる人は一人もいなかった。しかし、この話を聞き入れてくれない人物の中で一番つらかったのが、豊西だ。

 彼は彼だけは私のことをわかってほしかった。


 これでも今までの中学時代でアプローチはたくさんしてきたし、中学生活後半では好意を隠さずにしてきたつもりだった。だが、ライバルに勝てなかった。

 彼は私じゃなく、八重野を選んだ。男の気立てができて、聞き上手。その上に甘やかすのが得意で、私が女として勝てる部分がほとんどないような女子。

 彼はその女子を選び、私にもう二度と話しかけるなと罵声を浴びせてきた。


 本当に悲しかった。

 世界がモノクロになってしまうくらいに私はショックを受けた。ただフラれるだけなら覚悟はしていた。しかし、現実はそれで収まることはなく明確な拒絶によって私の想いは遮断された。


 だから私は落ち込んだ時にいつも来ている公園にやってきた。

 豊西を初めて意識したのはこの公園。一人で悩んでいるところに手を貸してくれたのが全部の始まりだった。


 だけど、こんなことになるのなら優しくしてほしくなかった。好きにさせないでほしかった。


 「どうして、こうなったのかな……」


 自然とそんな言葉が漏れていた。

 そんな時間の過ごし方をしていると、雨が降ってくる。


 珍しい。こんな真冬に雨が降るなんて。しかも、めちゃくちゃに冷たい。

 寒いなんてものじゃない。凍えそうだ。このままだと―――


 「はぁ……このまま消えてなくなりたい……」


 どうせ私のことを助けてくれる人も、愛してくれる人もいない。かろうじて両親はどうにかしようとしてくれるだろうが、それは家族愛のようなもの。それがなければ、両親すら私を見放すに違いない。

 そう思うと、私の味方なんてどこにもいない。


 もういっそのこと死んじゃえば……


 ドンドンと体温が低下していき、それもありだなと考える始末。

 なんだか頭の回転が普段より悪い。いつもの私なら馬鹿な選択だと思うことが、全部正しいのではないかと思う。


 結局これからも辛い目に遭うだろう。

 誰にも好かれることはなく、愛されることはなく、一人で勝手に死んでいく。


 ―――誰か……私を愛してくれよ。嘘でもいいから、好きだと言ってくれ……

 どんなことをしてもいいから、私だけを愛して隣に……


 って、そんな都合いい男、いるわけないよな。


 はぁ……このまま雨に当たって死んでしまえば……


 そのあたりから、私の思考が完全に鈍った。

 ただひたすらに無心で真冬の寒空の雨に当たり続ける。


 「はぁ……」


 自分の白い息が視界に映ったのを最後に、私は完全に意識を落としてしまうのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 目を覚ますと、私の視界にはいつもの部屋の天井が見える。

 ここは翔一の部屋の天井だ。


 夢の内容は覚えてる。途中で翔一が傘をさしてくれたからよかったが、あのままだったと考えると―――少しだけ恐ろしかった。実際に途中まではあの時も同じことを考えていたし、否定はできないのだが、それでもあんな夢を見てしまって嫌な汗がすごい。


 真冬だというのに、下着が肌に張り付いて気持ち悪い。


 それに誰にも愛されていないなんて、夢でも思いたくなかった。翔一という私の将来の夫候補がいるというのに。


 私は少しだけ不安になり、彼を抱きしめる。だが、その衝撃で彼が起きてしまったようだった。


 「ん……?どうした、玲羅」

 「い、いや―――」

 「不安なことがあったらいつでも言えばいいさ」

 「じ、じゃあ……」


 そうして私は今見た夢を翔一に教えた。

 もしかしたら彼ならなにかいい答えを教えてくれるかもしれない。


 そう思いながら彼の顔を見つめていると―――


 「玲羅は今幸せ?」

 「む?そうは見えないのか?」

 「そうは言ってない。今は玲羅自身幸せなんだろ?それでいいじゃんか」

 「そうなのだが……やっぱりこんな夢を見ると、翔一に捨てられたり……」

 「はぁ……玲羅、舌出して」

 「……?れー……」


 私は翔一の言われるがままに大きく口を開けて舌を出す。その瞬間、彼は私のそれに吸い付いた。

 何が起こったのか一瞬理解できなかったが、彼が私にまだしたことないキスをしてきているというのは、反瞬遅れて理解した。


 じゅるると音を立てて、私の口の中を蹂躙していく。

 彼に舌を絡められるたび、吸われるたび、そして逃げないように何度も何度も私の頭に添える手を動かすたび、彼に征服されるような感覚を覚えるたびに気持ちよくなる。


 もう私は学んでしまっている。翔一に愛されることのうれしさ。そして、その気持ちよさを。


 脳が蕩けるようなこの甘い感覚は何度目だろうか?何度彼にしてもらっただろうか?心地よく、彼を愛することができる。


 「ぷはぁ……」

 「玲羅、なにか不安なことあるか?」

 「ず、ずるいぞ……こんなの―――こんなの言えないじゃないか……」

 「なにがかな?」

 「大好きしか、言えなくなるじゃないか……」

 「それでいいんだよ。玲羅は俺が好き。俺は玲羅が好き。両思いだから、お互いを愛し合って、戻れないところまでいけば、互いに一人になることはないさ」


 そう言うと、彼は私の頭を胸に抱き留めてくれる。苦しくないくらいの強さ。

 私もそれに応じて彼に顔をうずめる。


 「あったかい……」

 「そういう玲羅も温かいよ」

 「ふっ、翔一に心をあっためてもらったからな」

 「さ、明日は休みとはいえ、色々あったからもう一回寝よう」

 「ああ……おやすみ」

 「おやすみ、玲羅」


 そう言って目を閉じる翔一。私はしばらく彼の寝顔を見た後に、唇にちゅっとキスをして瞼を閉じた。その後、さっきのような悪夢を見ることはなかった。

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