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遊戯・蜘蛛の糸

 「ああああああああ!」


 突然結乃が叫び始めた。

 唐突のことに、その場にいた全員が動きを止めて彼女のほうを見る。


 すると、彼女の長い髪が揺らめいて空気中に流れる俺たちの小さな法力の残滓が彼女に流れていくのを感じ取った。

 俺はこの事態に近くにいた美織に問いかける。


 「おい、どうなってる!」

 「わかんない!結乃が器ってことはわかったんだけど……これは」

 「お前、結乃が器だってことは―――」

 「私もさっき知ったのよ!教えろなんて、無茶言わないで!」

 「―――ちっ、結乃は大丈夫なのか!」

 「わかんないわよ!こんなの、アーカーシャの力になかった!」


 クソ……美織でもわからないか。

 そもそも俺は家を出た時点でアーカーシャにはかかわっていない。家を出る時点で9割以上は完成していたが、結局最後を仕上げたのは美織。


 その彼女が知らないのであれば、俺が知るはずがない。

 しかし、器―――まさか結乃が、俺の妹が器だったなんて……


 いや、器になっていることは悪いことじゃない。まさかこんなに近くに器がいるとは思っていなかった。そうなると、結乃が剣を持ち出した理由がわかった。

 彼女は知っていたのか、自分が器だということを。


 それならもはや彼女を巻き込まないなどと甘いことを言えるような状況ではない。


 俺たちの目的にアーカーシャの力が必ず必要になる。

 だが、そのためだと言っても家族を利用するのは……


 「なんだか大変なことになってるみたいだね」

 「……!ちっ、人がもの考えてる時に!」


 俺はものを考えすぎて、九条のことを完全に忘れていた。自分で作ってしまった隙を突かれて、腕を切られた。だが、まだ薄皮一枚程度。隙と言っても、まだまだ致命的なものではない。


 「今度は……今度は私がお兄ちゃんを助けるの!」


 突然聞こえた叫び声。そして、俺と九条、どちらも反応できないうちに、二人の間へ結乃が割り込んできた。


 「「なっ!?」」

 「死ねっ!」


 そう短く言うと結乃は九条に向けて剣を抜き斬った。

 あまりの速さに動きが静止していた相手は、もろに刃を受けて体の前面から血を吹き出す。


 「がはっ!?」


 だが、それで二家の人間。怯みはしたものの、止まらない。

 剣を抜いたことによって生まれた結乃の一瞬の隙をついて攻撃を仕掛けてくる。


 だが、そこは俺だって負けてない。


 俺は相手の拳を蹴り上げて軌道をずらし、結乃の首根っこをもって大げさに後ろに後退した。

 柊のおっさんはまだ動けない。俺も一人では視覚の関係上難しい。


 「結乃……」

 「お兄ちゃん、私だって戦える」

 「―――わかった。本当はお前を巻き込みたくはないが、それがお前の望みなら」

 「うん……」

 「絶対に俺より先に死ぬなよ」

 「……お兄ちゃんこそ」


 結乃はいつの間にか逆立っていた髪は収まっていた。しかし、その代わりに髪―――だけでなくまつ毛や眉毛もすべてが黒色からなにものにも穢されていない綺麗な白色に変わってしまっていた。そして、なにより特徴的なのは、彼女の日本人らしい黒い目が碧眼に変わってしまっていた。


 「結乃……それは……?」

 「たぶん、これが器の力の姿。たぶん、もう戻れないかな」

 「そうか、まあそれでもお前が妹ってことに変わりはないさ」

 「お兄ちゃんったらイケメンだね!」

 「ほざけ」


 俺が言うと、結乃は一気に法力を全方位に飛ばす。

 ドーム状に膨らむそれは全員を巻き込む勢いで広がっていく。


 しかし、それは効かないとばかりに九条が高笑いをする。


 「あはは!やっぱり君は馬鹿だ!さっき通用―――っ!?」

 「さっきと今じゃ結乃の根本が違うこと、ちゃんと考えるべきじゃないのか?」

 「な、なんで!?体が……!」


 今、結乃は九条を殺したいと願っている。おそらくそれが彼女の法力に反映されたのだろう。

 九条を―――九条だけを殺したいという思いが、彼女の法力を九条だけに有毒となりうるものに変化しているのだろう。


 おれになんの影響もないが、九条は体が動かなくなってしまったようだ。


 こうなれば九条家の法力の透過性など意味をなさない。というか、これを利用すれば……


 「結乃、少しいいか?」

 「なに……?」


 俺は彼女に耳打ちをする。すると、わかったとでも言いたげに俺の前に立つ。完全にポジション取りは二人羽織だが、俺はそんなこと気にせずに彼女の後ろから手を伸ばし、それを結乃は下から握る。


 そして俺は目を瞑り、法力を彼女に流し込む。


 俺のいわば変幻自在ともとれる法力と外に出すことのできる彼女の法力を溶け合わせて、両方の性質を生み出す法力を生成し、外に出す。


 そのまま彼女の力で九条にのみ有毒となって放出された法力を糸状に空間へ張り巡らせていく。


 「なにをしようと無駄だ!さっきの力でも、俺をしとめるまでにはいかない!」


 そう言って俺たちの様子にしびれを切らした九条が透明になってこちらに向かってくるが、それは許されない。

 彼が動けば動くほど、俺たちの生み出した糸が彼に絡みついていく。


 「な、なんだこれ!」

 「「遊戯・蜘蛛の糸……」」

 「クソ!何だよこれ!俺に法力は通らないはずなのに!」


 理解の外でのこと。それに対して、彼は思考が追い付かない。

 ゆえに、頭があん割らず、いつもならすぐに対処できるようなことも後手後手に回ってしまう。


 しかし、九条そこは対応力を見せて、糸を少し引きちぎっていく。


 法力で練ったとはいえ、結局は糸。少しコツを掴めば次々に千切れていく。

 しかし、俺の狙いはそこじゃない。これだけ時間をかければ、あいつが復活できる。


 「ははは!やっぱりこんな不完全なもの!」

 「さっきも言ったろ?お前は一対多数の不利性を考えるべきだ、って」

 「なにを言ってやがる!お前の仲間はそこの妹しかいないだろうが!」

 「だからお前は負けたんだ」

 「はっ?今のお前たちは注意してみてる。もう隙なんて作ってやんねよ!」


 ガチャ


 「へ?」

 「綾乃様の仇―――取らせていただきます。そう言ったはずですよ?」


 そう言った柊のおっさんは、残った左腕で超至近距離の砲撃を放って、九条の胸に風穴を開けた。

 それが致命傷となり、九条はそのまま前に倒れ伏せた。


 「よくやった、おっさん」

 「いえ、私はできることをしたまで……」

 「それをよくやったって言ってんだ」


 ひとまず、俺たちは厄介な敵を消すのだった。まあ、美織が若干空気になっていたが、気にする必要はない。

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