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対面の主人公 椎名たちの部屋

 現在、翔一の部屋では、1人だけ浮いてる存在がいた。


 その名は豊西直樹。この世界の主人公だった存在ともいえる男だ。

 彼には、自身にとってもっとも可愛い彼女―――八重野佳奈が存在し、リア充とも呼べる存在になっていた。だが、周りの男子生徒は、もう一人のヒロインである天羽玲羅を侍らせていたことも反感を買うことになり、あまり友人と呼べる存在が多くない。


 元々、違う部屋の班で友人と一緒の部屋に泊まるはずだったのだが、人数の関係上、翔一の部屋に放り込まれてしまったのだ。


 (ずっとあの男の恋愛について話してるけど、ついていけない……)


 豊西の目に映るのは他クラスの生徒たちの会話


 「それで彼女とはどうよ?」

 「まだ付き合ってねえんだよ」

 「は?あれで?どういう距離感?」

 「まあ、たしかにな。あの距離感で振られたら、町一つ滅ぼす自信あるわ」

 「怖えよ」


 (あの人も彼女がいるのか?なら、普段どういうところでデートすればいいとか情報共有を……)


 翔一たちの会話を聞きながら、なんとか共通の話題を見つけた豊西は、2人の会話の輪に入っていった。


 「君も彼女がいるのかい?」

 「ん?ああ、まだだな。返事待ちだ」

 「で、でも告白とかして、それまでになにかデートとかしてないの?」

 「んー、あんまりした記憶ないな。受験でそれほど暇じゃなかったし……あ、でも遊園地なら行ったぞ」

 「……っ!どうだった?僕も行ったんだけど、すごく楽しくてっ!一緒にいるだけで幸せな気持ちになれるんだ!」


 そんな豊西の熱に、翔一は若干気圧されていた。ここまで、八重野のことについて熱く語るとは思っていないからだ。


 「お、おう……いや、そこまで熱を持たれてもなあ」

 「いや、お前もあんな感じだぞ?」

 「まじ?」

 「で、どうだったのさ。彼女とのデートは」


 うざい。翔一はシンプルにそう感じてしまったが、我慢して答える。


 「別に他人に話すことなんてなんもなかったよ。それに、なにかあってもそれは俺だけのものだ。教えるつもりはないぞ」

 「じゃあ、行ってみたいデートスポットとかある?」

 「行ってみたい……」


 正直に言えば、行きたいところなどごまんとある。だが、玲羅と一緒にいて、彼女もいっしょに楽しめる場所……


 あ、あった。


 「映画デートとかしてみたいな。ホラー映画とか見て、怖がってるところを甘えさせてあげるんだ」

 「うわっ、欲望むき出しじゃん!でも、わかるわあ」

 「お前はあるの?」

 「俺はプールに行きたい。佳奈と一緒に水場で遊びたい」


 心底どうでもいいな。

 聞いてみたものの、翔一の脳内はどうでもいいや興味ないで埋め尽くされている。

 特段、豊西が嫌いというわけではないが、好きというわけではない。だが、今の会話で嫌いの方にメーターが振り切ってしまいそうだった。


 だが、興味がないわけではない。豊西の言う通りに翔一も玲羅とプールに行ってみたいのだ。

 翔一は原作で知っているのだ。玲羅の水着姿はその豊満なものが惜しみなく主張された素晴らしいものであると。


 夏休みに、水場に行くことが翔一のひそかな野望とも言えよう。


 「それで、椎名?だったっけ?彼女さんの写真は持ってるのかな?」

 「ああ、持ってるぞ」

 「じゃあ、見せてくれない?どんな人なのかなあ」


 (待てよ?そういえば、こいつと玲羅って……

 まあ、大丈夫か。こいつがなんと言おうと、俺が好きなのは変わりはないし)


 そう考え、翔一はスマホの画面に玲羅の寝顔を映して見せた。


 「ほら」

 「へー、このひ……天羽っ!?」


 案の定というかなんというか、豊西はあからさまに驚いた表情を見せた。

 それもそうだ。不祥事を起こしたとはいえ、最近目に見えてしゃべることが少なくなった幼馴染が、他クラスの知らない男子の彼女になっていたのだから。


 実際は、カレカノ関係ではないのだがそこは無視していいだろう。


 「は、え!?天羽?なんで椎名が写真を……」

 「寝てるとこ撮っただけだ」

 「盗撮?」

 「違うわ」


 豊西は中々受け入れられない。自身の幼馴染がこんなに簡単に人に寝顔を見せるような人ではないからだ。


 昔からファンシー願望―――王子様に抱きしめてもらいたいという子供じみた夢をかすかに抱いてるような節があったが、だからといって、長年一緒にいた自分にすら見せたことがない姿を、椎名は見せてもらっていて、少しだけだが嫉妬してしまう。


 「椎名、天羽でいいのか?」

 「は?」

 「暴力事件を起こしたんだぞ」

 「知るか。俺は俺の目で玲羅を見て、やっていないと判断した。それだけだ」

 「そうか……君がそう思うのならそれでいい」

 「そうだな。これは結局個人の主観だ。文句を言う資格はない。ただ、なんでお前は玲羅のことを信用してやれなかったんだ?」

 「それは……」

 「どうでもいいけどさ。そのおかげで、俺と玲羅が一緒にいられるわけだ」


 翔一も玲羅を追い詰めたことは、豊西に対して思うことがある。だが、だからといって翔一は責めないと決めた。そのおかげで、今の幸せな状況があるのだから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 『玲羅、愛してる』

 「な、なぁっ!?」

 「ラブラブだねー」


 その後、翔一の気まぐれで送られてきたメッセージのせいで真っ赤になる玲羅だった。


 「翔一のばか……」

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