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 「はぁはぁ……早く場所を移さないと……」

 「いたっ!もう少し優しく運べないのかよ!」

 「うるせえ!」


 俺が峰岸の隠れ家の入り口に到着すると、その場から二人の女生徒を掴んで逃げようとする姿を目撃した。すでに結乃が派手にやったのか、生きているのはその男と拉致られた女子二人だけのようだった。


 柊のおっさんが飛んできたことで、俺も急いでこっちに向かってきたのだが、気配を感じるにこの建物の下でなにやら厄介なことが起きているようだった。


 俺はそちら側に早々に向かうために峰岸は一旦保留する。

 とは言うが、一応逃げられないように対処はしておく。


 ズガァン!


 とりあえず、峰岸が後ろを見ながら必死に逃げているところに前から壁に叩きつけるようにラリアットをかます。

 すると、相手は壁に人型の穴を作って、それに埋もれる。


 「がっ、な、なんだ!?」

 「よお、じゃあ俺は先に下に向かうから」

 「お、お前、椎名か!?なにしてるんだ!」

 「なにしてるって、お前を殺しに来たんだよ。でも、その前に家族のほうが大事だ。あとにする」

 「お前、なにしてるのかわかってんだろうな?―――俺の親族に……」

 「こいつのことか?」


 そう言って峰岸が言い終わる前に持っていたものを地面に転がした。

 地面にすでに転がされていた二人には刺激が強すぎる映像かもしれないが仕方ない。


 「けん、りょ、くしゃが……信也!?」


 転がされたものは、俺が先ほど喉をえぐった箱崎信也だ。実はあの後、抉ったまま手を頭のほうに持ち上げて生首をもぎ取った。その後、すぐに柊が来たために、首から下の体については対処を任せてある。つまりは、おっさんが来るのはだいぶ遅れることになる。


 「ま、待て!お、俺はお前たちの授業を持ってたんだ―――な?考え直せ!」

 「うるせえよ。お前は殺す。もう決まったことだ」

 「や、やめてくれ……なんでも、なんでもする!だから!」

 「だから、もう遅い―――俺も、お前はもう1年前の時点で引き返す手段はもうなくなってるんだよ」


 俺はそう言うと、峰岸の手と足を瓦礫で埋め込んで、穴の中から抜け出せないようにする。その後も峰岸はなにかギャーギャーと喚いていたが、俺は全スルーして新島と中野に話しかける。


 「二人とも大丈夫か?」

 「あ、ああ……でもその格好は」

 「恰好は気にするな。あと中野だが……」

 「ひ、ひぃっ……」

 「完全に怖がってるな」

 「当たり前だろ。こんな生首なんか持ってきたらそうなるに決まってるだろ」

 「お前は平気じゃん」

 「私はそういうグロいのは慣れてんだ」

 「これをグロいの一言で済ませるのはすごいな」


 自分で言うのもなんだが、中々刺激の強い画ではあると思うのだが、そんなことないのだろうか?

 中野はしっかりとビビり倒しているが、気にせずに拘束を解いて言う。


 「もう外に危険はないと思う。だからどこへなりとも逃げるがいい。だが、俺たちの秘密とか全部知ったから、これからの行く末を見届けても構わない。それは二人に任せる。ただ、これから見るものは全部自己責任で頼むぞ」


 そう伝えてから、俺は気配が爆発していくところに向かっていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 結乃はいいようにもてあそばれていた。

 本当なら他を圧倒できるほどの力を持ったのに、相手が悪すぎる。私も動けていないのだが……


 しかし、対処方法はいくつか思いついた。

 でも、これは私が指示を出す側に回って、真司に言っていた時の癖が抜けないままに思いついたもの。つまり、これらを実践するには真司じゃなければ、かなり難しいこと。


 ましてや、二家でまともに祖父の指導を受けていない結乃ができることじゃない。


 そう思いながら結乃でもできそうなことを考えるが、すぐにそれに対する対処法も思い浮かんでしまい却下されていく。


 (クソ!これじゃあ結乃が死んじゃう―――翔一との約束を……)

 「アハハ!あの出来損ないの妹もこんな程度か!」

 「うるさい!」

 「おとなしく二家の性道具になり下がっていれば、気持ちよくなるだけでよかったのにな!」

 「うるさい!お前たちの奴隷になるくらいなら、私はお兄ちゃんのために死ぬ!」

 「―――そうか……弱い女は良く吠える。死ね……」


 そう言って九条は自身の手に力を込め始める。

 まずい、このままじゃ本当に結乃が……!






 「誰の妹が、弱い女だって?」

 

 その声が聞こえた瞬間、私は不覚にも安心してしまった。


 声の主はそう言うとすぐに九条を結乃から引きはがして、私のもとに下がってきてくれた。

 そして、男は結乃をお姫様抱っこしたまま言う。


 「よくやった。美織、結乃を助けようとしてくれてありがとな」

 「わ、私は結局何も……」

 「いいんだよ。守ろうとしてくれただけで、俺は嬉しいよ。しかも、俺とペア組み過ぎて慣れてなかっただろ?」

 「う、うん……ごめん」

 「ははっ、もっと強気でいろよ。―――らしくないぞ」


 こいつはこんな時でも……

 だけど、彼が結乃を私に預けた瞬間に、今の笑顔は完全に怒気を孕んだものに変わる。


 「お前……九条家の一人息子か?」

 「いいや、最近妹ができたよ」

 「そうか……聞きたいのはそっちじゃないな。お前、姫ヶ咲家の次女を知ってるか?」

 「ん……?ああ!あのいい声で啼く女のことかい?よく翔一翔一と涙を流していたよ!」


 その瞬間、彼は仮面を顕現させ、法力を全身に通した。

 完装を使った。それは私にもわかる。だが、だからと言ってそれが通じるわけが……


 そうだ!


 「翔一!そいつに法力は通らない。でも、形を―――質量を持った物質ならあいつに当たる!」


 そう言うと、彼はなにも返さずにその場の砂を披拾う。その時点で、もう私はなにをするのかがわかった。まあ、何年肩を並べてきたと思ってる、って話。


 彼は砂に多量の唾を吐きかけて湿らせると、思いっきり全方位に分散するように投げた。

 その瞬間、砂は部屋中の壁面に付着する。ただ一点を除いて。


 九条の術は体だけでなく、服も消える。ならば自分に接触しているものを任意で消すことができるのだろう。そうでなくても、足に接触している地面が消えなくては成立しない。だからこそ、投げられた砂も九条についた瞬間、透明になる。


 しかし、その砂は透明になっても九条を貫通するわけではない。

 だからこそ、九条の関係ない方向の壁には砂がつくが、相手のいる方向にだけ砂が付着しない。


 つまり、先ほどの不自然に砂がつかなかった壁のほうに―――


 「そこ!」

 「がはっ!?―――な、なぜ……!?」


 ―――見えない九条がいる。

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